復讐の恋〜前世での恨みを今世で晴らします

じじ

文字の大きさ
6 / 13

5 蘇る記憶

しおりを挟む
馬車の中で意識を手放していたのはどれほどだろう。何か夢を見ていた気がするが思い出せない。
力強い腕に抱きしめられていることに気づき、直前の出来事を思い出す。ふと顔を上げると、瞳を閉じたままのヴァンの息遣いが聞こえる。彼も意識は失っているが怪我はしていなさそうだ。
私はこれほど近い距離で彼を見つめたことがなかったことに気づく。うっすら頬に影を落とすまつ毛の長さに感動すら覚えながら見つめていると、彼は瞳を閉じたまま、顔を顰めながら何かを呟いた。そっと耳を寄せる。

「ほのか…」

この国では聞きなれないはずの女性の名前を呟いたヴァンの言葉を聞いた瞬間、私は先程まで自分が見ていた夢を鮮明にに思い出した。

誰かに激しく罵倒されていた私。見慣れない景色に、見慣れない服。この辺りではあまり見ることのない黒髪の男性…いや、鏡で見た自分の姿も黒髪だった。知らない言葉のはずなのに、私はその言葉を話していた。そして、ほのかと呼ばれていた私。
…どういうこと?
夢と言い切るにはあまりにもリアルで、彼女が感じた悲しみ、怒り、憎悪が私の中に確かな感情として残っている。

あの男が憎い。

そう思った瞬間激しい頭痛に襲われる。
これ以上考えたらダメ。そう思うのに意思と裏腹に思考が真実を探し出そうとしてしまう。朦朧とする中、私は再び意識を失った。


再び気がついた時、今度は柔らかなベッドの上だった。
心配そうな顔で私を覗き込んでいたのはお母様だ。

「あ、アレネ…目が覚めたのね!良かった、良かったわ。痛いところはない?頭は大丈夫かしら?」

矢継ぎ早の質問に苦笑しながら頷く。

「あなたとヴァンが乗った馬車が事故にあったのよ。ヴァンがあなたを守ってくれたようなのだけれど…本当に良かったわ。ヴァンも御者も軽い怪我ですんだのだけれど、あなたが目覚めないから…とりあえずヴァンとお父様に報告してくるわ」

泣きそうに、それでも私の知りたいことを的確に伝えてくれたお母様は、それだけ言うと、二人を呼んでくる、と部屋から出て行った。


記憶が…前世の記憶が甦った。

葛城ほのかだった私。大手商社の受付嬢をした後、25歳で5歳年上の彼と結婚した。同じ会社の彼は社内でも人気があった。
情熱的に口説かれた末、専業主婦になって欲しいと言われて仕事を辞めた時、彼は本当に嬉しそうだった。
私も両親が早くに他界し、一人っ子だったから、家族ができることが本当に幸せだった。
まさか、その先に待ち受けているのは地獄のような日々だと思いもせずに。
精神的に私を追い詰めるだけ追い詰めた彼。耐えられなくなって、最後はベッドの上で首を掻っ切った。噴水のように吹き出す血を鏡越しに見ながら私は誓ったのだ。

来世は必ずこの男を同じ目に遭わせてやる。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄から始まる、私の愛され人生

阿里
恋愛
婚約者・エドに毎日いじめられていたマリアンヌ。結婚を望まれ、家のために耐える日々。だが、突如としてエドに婚約破棄され、絶望の淵に立たされる――。 そんな彼女の前に現れたのは、ずっと彼女を想い続けていた誠実な青年、クリス。彼はマリアンヌに優しく手を差し伸べ、彼女の心を温かく包み込む。 新しい恋人との幸せな日々が始まる中、マリアンヌは自分を愛してくれる人に出会い、真実の愛を知ることに――。 絶望の先に待っていたのは、心の傷を癒す「本当の幸せ」。

偽りの愛の終焉〜サレ妻アイナの冷徹な断罪〜

紅葉山参
恋愛
貧しいけれど、愛と笑顔に満ちた生活。それが、私(アイナ)が夫と築き上げた全てだと思っていた。築40年のボロアパートの一室。安いスーパーの食材。それでも、あの人の「愛してる」の言葉一つで、アイナは満たされていた。 しかし、些細な変化が、穏やかな日々にヒビを入れる。 私の配偶者の帰宅時間が遅くなった。仕事のメールだと誤魔化す、頻繁に確認されるスマートフォン。その違和感の正体が、アイナのすぐそばにいた。 近所に住むシンママのユリエ。彼女の愛らしい笑顔の裏に、私の全てを奪う魔女の顔が隠されていた。夫とユリエの、不貞の証拠を握ったアイナの心は、凍てつく怒りに支配される。 泣き崩れるだけの弱々しい妻は、もういない。 私は、彼と彼女が築いた「偽りの愛」を、社会的な地獄へと突き落とす、冷徹な復讐を誓う。一歩ずつ、緻密に、二人からすべてを奪い尽くす、断罪の物語。

地獄の業火に焚べるのは……

緑谷めい
恋愛
 伯爵家令嬢アネットは、17歳の時に2つ年上のボルテール侯爵家の長男ジェルマンに嫁いだ。親の決めた政略結婚ではあったが、小さい頃から婚約者だった二人は仲の良い幼馴染だった。表面上は何の問題もなく穏やかな結婚生活が始まる――けれど、ジェルマンには秘密の愛人がいた。学生時代からの平民の恋人サラとの関係が続いていたのである。  やがてアネットは男女の双子を出産した。「ディオン」と名付けられた男児はジェルマンそっくりで、「マドレーヌ」と名付けられた女児はアネットによく似ていた。  ※ 全5話完結予定  

“いつまでも一緒”の鎖、貴方にお返しいたします

ファンタジー
男爵令嬢エリナ・ブランシュは、幼馴染であるマルグリット・シャンテリィの引き立て役だった。 マルグリットに婚約が決まり開放されると思ったのも束の間、彼女は婚約者であるティオ・ソルベに、家へ迎え入れてくれないかというお願いをする。 それをティオに承諾されたエリナは、冷酷な手段をとることを決意し……。 ※複数のサイトに投稿しております。

【完結】私が愛されるのを見ていなさい

芹澤紗凪
恋愛
虐げられた少女の、最も残酷で最も華麗な復讐劇。(全6話の予定) 公爵家で、天使の仮面を被った義理の妹、ララフィーナに全てを奪われたディディアラ。 絶望の淵で、彼女は一族に伝わる「血縁者の姿と入れ替わる」という特殊能力に目覚める。 ディディアラは、憎き義妹と入れ替わることを決意。 完璧な令嬢として振る舞いながら、自分を陥れた者たちを内側から崩壊させていく。  立場と顔が入れ替わった二人の少女が織りなす、壮絶なダークファンタジー。

氷の薔薇は砕け散る

ファンタジー
『氷の薔薇』と呼ばれる公爵令嬢シルビア・メイソン。 彼女の人生は順風満帆といえた。 しかしルキシュ王立学園最終年最終学期に王宮に呼び出され……。 ※小説になろう、カクヨム、pixivにも同じものを投稿しております。

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

こうして私は悪魔の誘惑に手を伸ばした

綴つづか
恋愛
何もかも病弱な妹に奪われる。両親の愛も、私がもらった宝物もーー婚約者ですらも。 伯爵家の嫡女であるルリアナは、婚約者の侯爵家次男ゼファーから婚約破棄を告げられる。病弱で天使のような妹のカリスタを抱き寄せながら、真実の愛を貫きたいというのだ。 ルリアナは、それを粛々と受け入れるほかなかった。 ゼファーとカリスタは、侯爵家より譲り受けた子爵領へと移り住み、幸せに暮らしていたらしいのだが。2年後、『病弱』な妹は、出産の際に命を落とす。 ……その訃報にルリアナはひっそりと笑みを溢した。 妹に奪われてきた姉が巻き込まれた企みのお話。 他サイトにも掲載しています。※ジャンルに悩んで恋愛にしていますが、主人公に恋愛要素はありません。

処理中です...