8 / 91
本編【第一章】
8
しおりを挟む
「どうかしましたか、カレン嬢。」
その声にカレンははっとしたように黙った。
「兄上…」
呟くシュナイダーの声を聞いて、声の主がフォーゼム様と分かった私はゆっくり振り返った。
そこに立っていたのはスラリとした美丈夫だった。シュナイダー様も美しい顔立ちをしているが、どこか軽薄そうな雰囲気がある。しかし、フォーゼム様は美しい顔立ちでありながらそのような気配を微塵も感じさせない。
「ああ。あなたでしたか、カリーナ嬢。先日は愚弟があなたに無理やり言い寄ったとか…本当に愚かなやつで申し訳ない。」
驚いて目を瞠る私の横で、カレンがシュナイダーを問い詰めている声が聞こえる。周りはその様子を面白そうに遠巻きに眺めている。私が居た堪れなくなり、俯くとフォーゼム様は私の手を取って一言告げた。
「少しお話よろしいですか」
「はい」
この場を早く離れたかった私はフォーゼム様の手に引かれるまま着いて行った。
バルコニーで二人きりになると、フォーゼム様は私の手を離し謝罪した。
「弟のみならず私まで…あのような場所でお身内に恥をかかせてしまい申し訳ない」
先ほどのカレンのことを言っているのだろう。私は苦笑して答えた。
「いいえ。あそこで助け船を出していただけなかったら、また周りから誤解をされていましたし…まあ、今更誤解の一つや二つ関係ないと言えば関係ないのですが」
「あなたが妹の婚約者をたぶらかした、と。それはやめておいた方がいい。誤解されるにしてもあいつが相手などあなたに失礼だ。」
弟へのきつい一言に思わず私は笑ってしまった。
「シュナイダー様は女性達の間で大層人気があると伺いましたが」
「見る目がないのだろう。まあ、あなたの妹君にはちょうど良いかもしれないが。あなたが相手などあいつにはもったいない。」
カレンと私とを比べて、カレンを悪く言う人物などアン以外に知らなかった私は驚いて尋ねた。
「あの。妹が何かフォーゼム様に失礼をしたのでしょうか」
不安げな私の様子を見てとって、フォーゼム様は慌てたように答えた。
「ああ失礼。あなたの妹を悪く言うつもりは…」
私がじっと見つめると観念したようにフォーゼム様は息を吐き、話し出した。
「大したことではないのだが、弟の婚約が決まった後にカレン嬢を王宮でたまたま見かけてな。声をかけようとしたら、クゼン男爵家の長男と逢引きしている現場だったようだ。カレン嬢は私に気づかなかったし、私も取り立てて誰かに告げるつもりもなかったのだが。」
私は思わず額に手を当てた。
「それは本当に申し訳ございません。こちらは婚約破棄されても仕方のない身でありながら…」
「ああ、いや。シュナイダーもその点は似たりよったりだからな。それにあなたが謝ることではない」
そう言い置いてから、私を静かに見つめた
その声にカレンははっとしたように黙った。
「兄上…」
呟くシュナイダーの声を聞いて、声の主がフォーゼム様と分かった私はゆっくり振り返った。
そこに立っていたのはスラリとした美丈夫だった。シュナイダー様も美しい顔立ちをしているが、どこか軽薄そうな雰囲気がある。しかし、フォーゼム様は美しい顔立ちでありながらそのような気配を微塵も感じさせない。
「ああ。あなたでしたか、カリーナ嬢。先日は愚弟があなたに無理やり言い寄ったとか…本当に愚かなやつで申し訳ない。」
驚いて目を瞠る私の横で、カレンがシュナイダーを問い詰めている声が聞こえる。周りはその様子を面白そうに遠巻きに眺めている。私が居た堪れなくなり、俯くとフォーゼム様は私の手を取って一言告げた。
「少しお話よろしいですか」
「はい」
この場を早く離れたかった私はフォーゼム様の手に引かれるまま着いて行った。
バルコニーで二人きりになると、フォーゼム様は私の手を離し謝罪した。
「弟のみならず私まで…あのような場所でお身内に恥をかかせてしまい申し訳ない」
先ほどのカレンのことを言っているのだろう。私は苦笑して答えた。
「いいえ。あそこで助け船を出していただけなかったら、また周りから誤解をされていましたし…まあ、今更誤解の一つや二つ関係ないと言えば関係ないのですが」
「あなたが妹の婚約者をたぶらかした、と。それはやめておいた方がいい。誤解されるにしてもあいつが相手などあなたに失礼だ。」
弟へのきつい一言に思わず私は笑ってしまった。
「シュナイダー様は女性達の間で大層人気があると伺いましたが」
「見る目がないのだろう。まあ、あなたの妹君にはちょうど良いかもしれないが。あなたが相手などあいつにはもったいない。」
カレンと私とを比べて、カレンを悪く言う人物などアン以外に知らなかった私は驚いて尋ねた。
「あの。妹が何かフォーゼム様に失礼をしたのでしょうか」
不安げな私の様子を見てとって、フォーゼム様は慌てたように答えた。
「ああ失礼。あなたの妹を悪く言うつもりは…」
私がじっと見つめると観念したようにフォーゼム様は息を吐き、話し出した。
「大したことではないのだが、弟の婚約が決まった後にカレン嬢を王宮でたまたま見かけてな。声をかけようとしたら、クゼン男爵家の長男と逢引きしている現場だったようだ。カレン嬢は私に気づかなかったし、私も取り立てて誰かに告げるつもりもなかったのだが。」
私は思わず額に手を当てた。
「それは本当に申し訳ございません。こちらは婚約破棄されても仕方のない身でありながら…」
「ああ、いや。シュナイダーもその点は似たりよったりだからな。それにあなたが謝ることではない」
そう言い置いてから、私を静かに見つめた
62
あなたにおすすめの小説
恋愛戦線からあぶれた公爵令嬢ですので、私は官僚になります~就業内容は無茶振り皇子の我儘に付き合うことでしょうか?~
めもぐあい
恋愛
公爵令嬢として皆に慕われ、平穏な学生生活を送っていたモニカ。ところが最終学年になってすぐ、親友と思っていた伯爵令嬢に裏切られ、いつの間にか悪役公爵令嬢にされ苛めに遭うようになる。
そのせいで、貴族社会で慣例となっている『女性が学園を卒業するのに合わせて男性が婚約の申し入れをする』からもあぶれてしまった。
家にも迷惑を掛けずに一人で生きていくためトップであり続けた成績を活かし官僚となって働き始めたが、仕事内容は第二皇子の無茶振りに付き合う事。社会人になりたてのモニカは日々奮闘するが――
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
【完結】虐げられて自己肯定感を失った令嬢は、周囲からの愛を受け取れない
春風由実
恋愛
事情があって伯爵家で長く虐げられてきたオリヴィアは、公爵家に嫁ぐも、同じく虐げられる日々が続くものだと信じていた。
願わくば、公爵家では邪魔にならず、ひっそりと生かして貰えたら。
そんなオリヴィアの小さな願いを、夫となった公爵レオンは容赦なく打ち砕く。
※完結まで毎日1話更新します。最終話は2/15の投稿です。
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています。
森に捨てられた令嬢、本当の幸せを見つけました。
玖保ひかる
恋愛
[完結]
北の大国ナバランドの貴族、ヴァンダーウォール伯爵家の令嬢アリステルは、継母に冷遇され一人別棟で生活していた。
ある日、継母から仲直りをしたいとお茶会に誘われ、勧められたお茶を口にしたところ意識を失ってしまう。
アリステルが目を覚ましたのは、魔の森と人々が恐れる深い森の中。
森に捨てられてしまったのだ。
南の隣国を目指して歩き出したアリステル。腕利きの冒険者レオンと出会い、新天地での新しい人生を始めるのだが…。
苦難を乗り越えて、愛する人と本当の幸せを見つける物語。
※小説家になろうで公開した作品を改編した物です。
※完結しました。
ヒロインしか愛さないはずの公爵様が、なぜか悪女の私を手放さない
魚谷
恋愛
伯爵令嬢イザベラは多くの男性と浮名を流す悪女。
そんな彼女に公爵家当主のジークベルトとの縁談が持ち上がった。
ジークベルトと対面した瞬間、前世の記憶がよみがえり、この世界が乙女ゲームであることを自覚する。
イザベラは、主要攻略キャラのジークベルトの裏の顔を知ってしまったがために、冒頭で殺されてしまうモブキャラ。
ゲーム知識を頼りに、どうにか冒頭死を回避したイザベラは最弱魔法と言われる付与魔法と前世の知識を頼りに便利グッズを発明し、離婚にそなえて資金を確保する。
いよいよジークベルトが、乙女ゲームのヒロインと出会う。
離婚を切り出されることを待っていたイザベラだったが、ジークベルトは平然としていて。
「どうして俺がお前以外の女を愛さなければならないんだ?」
予想外の溺愛が始まってしまう!
(世界の平和のためにも)ヒロインに惚れてください、公爵様!!
処刑された悪役令嬢、二周目は「ぼっち」を卒業して最強チームを作ります!
みかぼう。
恋愛
地方を救おうとして『反逆者』に仕立て上げられ、断頭台で散ったエリアナ・ヴァルドレイン。
彼女の失敗は、有能すぎるがゆえに「独りで背負いすぎたこと」だった。
ループから始まった二周目。
彼女はこれまで周囲との間に引いていた「線」を、踏み越えることを決意した。
「お父様、私に『線を引け』と教えた貴方に、処刑台から見た真実をお話しします」
「殿下、私が貴方の『目』となります。王国に張り巡らされた謀略の糸を、共に断ち切りましょう」
淑女の仮面を脱ぎ捨て、父と王太子を「共闘者」へと変貌させる政争の道。
未来知識という『目』を使い、一歩ずつ確実に、破滅への先手を取っていく。
これは、独りで戦い、独りで死んだ令嬢が、信頼と連帯によって王国の未来を塗り替える――緻密かつ大胆なリベンジ政争劇。
「私を神輿にするのなら、覚悟してくださいませ。……その行き先は、貴方の破滅ですわ」
(※カクヨムにも掲載中です。)
【完結】婚約破棄される前に察して距離を置いていたら、幼なじみの第三王子が本気になっていました〜義妹と元婚約者? もう過去の人です〜
井上 佳
恋愛
婚約者に裏切られた侯爵令嬢は、
嘆くことも、復讐に走ることもなかった。
彼女が選んだのは、沈黙と誇り。
だがその姿は、
密かに彼女を想い続けていた第三王子の心を動かす。
「私は、国よりも君を選ぶ」
婚約破棄、王位継承、外交圧力――
すべてを越えて選び取る、正統な幸福。
これは、
強く、静かな恋の物語。
2026/02/23 完結
【完結】悪役令嬢だったみたいなので婚約から回避してみた
22時完結
恋愛
春風に彩られた王国で、名門貴族ロゼリア家の娘ナタリアは、ある日見た悪夢によって人生が一変する。夢の中、彼女は「悪役令嬢」として婚約を破棄され、王国から追放される未来を目撃する。それを避けるため、彼女は最愛の王太子アレクサンダーから距離を置き、自らを守ろうとするが、彼の深い愛と執着が彼女の運命を変えていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる