62 / 91
本編【第二章】
2-35 エリナの独白
しおりを挟む
カレン様付きになった、あの日。私は本当に嬉しかった。優しげな美貌。天使のような甘い微笑み。自分より幼い少女に一目で心を射抜かれた。
日を追うごとにカレン様がわがままで、カリーナ様の方が穏やかな性格であることは分かった。度重なる無茶な要求に心が折れそうになったこともある。時にはカリーナ様付きのアンを羨ましく思うこともあったほどだ。
しかし、私は容姿も性格も非の打ち所がないカリーナ様よりは、カレン様の方が人間味があり好きだった。
そう、カリーナ様の完璧さには悲しみが宿っている。自らの美しさを隠すための老女のような格好も、他者を傷つけないようにするための振舞いも、細い綱を渡り続けるような危うさを見てしまう。
その点、カレン様は分かりやすい。魅力を最大限に引き出すために美しく着飾り、気に入らない者は容赦なく排除する。
人間性で言えばカリーナ様の方が素晴らしいことは分かっているが、それでも私は天使のような美しさを持ちながら、人間臭いカレン様のことを愛した。
そのカレン様が今、カリーナ様のために、全てを曝け出そうとしている。美しく取り繕っていた自分も、他者を陥れるために流した噂も…その身でもって贖おうとされている。
それほどまでにカリーナ様に焦がれていたのか、私のお嬢様は。全てを捨ててもその瞳にもう一度自分を映してもらえるなら構わないと思えるほど…
カリーナ様のことをカレン様が気にしていたのは分かっていた。それが憧憬と嫉妬と羨望が入り混じった複雑な感情だったことも。
でも、カリーナ様のために全てを捨てようとなさっているカレン様の瞳は恐ろしいほど澄んでいて、その瞳はまるで…カリーナ様のようだ。
私が大切に慈しんできたお嬢様の変化が恐ろしい。カレン様が変わったからと言って、カリーナ様がカレン様を再び受け入れられるのかは分からない。
だからこそ私はカレン様には、わがままで傲慢なカレン様のままでいていただきたかった。
だって、今更カリーナ様に気に入られる行いをしようとしても、それが実を結ぶかは分からない。もしカリーナ様がカレン様に対して無関心だったら、あまりにもカレン様が…滑稽でしょう?
日を追うごとにカレン様がわがままで、カリーナ様の方が穏やかな性格であることは分かった。度重なる無茶な要求に心が折れそうになったこともある。時にはカリーナ様付きのアンを羨ましく思うこともあったほどだ。
しかし、私は容姿も性格も非の打ち所がないカリーナ様よりは、カレン様の方が人間味があり好きだった。
そう、カリーナ様の完璧さには悲しみが宿っている。自らの美しさを隠すための老女のような格好も、他者を傷つけないようにするための振舞いも、細い綱を渡り続けるような危うさを見てしまう。
その点、カレン様は分かりやすい。魅力を最大限に引き出すために美しく着飾り、気に入らない者は容赦なく排除する。
人間性で言えばカリーナ様の方が素晴らしいことは分かっているが、それでも私は天使のような美しさを持ちながら、人間臭いカレン様のことを愛した。
そのカレン様が今、カリーナ様のために、全てを曝け出そうとしている。美しく取り繕っていた自分も、他者を陥れるために流した噂も…その身でもって贖おうとされている。
それほどまでにカリーナ様に焦がれていたのか、私のお嬢様は。全てを捨ててもその瞳にもう一度自分を映してもらえるなら構わないと思えるほど…
カリーナ様のことをカレン様が気にしていたのは分かっていた。それが憧憬と嫉妬と羨望が入り混じった複雑な感情だったことも。
でも、カリーナ様のために全てを捨てようとなさっているカレン様の瞳は恐ろしいほど澄んでいて、その瞳はまるで…カリーナ様のようだ。
私が大切に慈しんできたお嬢様の変化が恐ろしい。カレン様が変わったからと言って、カリーナ様がカレン様を再び受け入れられるのかは分からない。
だからこそ私はカレン様には、わがままで傲慢なカレン様のままでいていただきたかった。
だって、今更カリーナ様に気に入られる行いをしようとしても、それが実を結ぶかは分からない。もしカリーナ様がカレン様に対して無関心だったら、あまりにもカレン様が…滑稽でしょう?
30
あなたにおすすめの小説
【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない
朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。
地味令嬢は冤罪で処刑されて逆行転生したので、華麗な悪女を目指します!~目隠れ美形の天才王子に溺愛されまして~
胡蝶乃夢
恋愛
婚約者である王太子の望む通り『理想の淑女』として尽くしてきたにも関わらず、婚約破棄された挙句に冤罪で処刑されてしまった公爵令嬢ガーネット。
時間が遡り目覚めたガーネットは、二度と自分を犠牲にして尽くしたりしないと怒り、今度は自分勝手に生きる『華麗な悪女』になると決意する。
王太子の弟であるルベリウス王子にガーネットは留学をやめて傍にいて欲しいと願う。
処刑された時、留学中でいなかった彼がガーネットの傍にいることで運命は大きく変わっていく。
これは、不憫な地味令嬢が華麗な悪女へと変貌して周囲を魅了し、幼馴染の天才王子にも溺愛され、ざまぁして幸せになる物語です。
【完結】地味な私と公爵様
ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。
端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。
そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。
...正直私も信じていません。
ラエル様が、私を溺愛しているなんて。
きっと、きっと、夢に違いありません。
お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)
麗しの王子殿下は今日も私を睨みつける。
スズキアカネ
恋愛
「王子殿下の運命の相手を占いで決めるそうだから、レオーネ、あなたが選ばれるかもしれないわよ」
伯母の一声で連れて行かれた王宮広場にはたくさんの若い女の子たちで溢れかえっていた。
そしてバルコニーに立つのは麗しい王子様。
──あの、王子様……何故睨むんですか?
人違いに決まってるからそんなに怒らないでよぉ!
◇◆◇
無断転載・転用禁止。
Do not repost.
真実の愛がどうなろうと関係ありません。
希猫 ゆうみ
恋愛
伯爵令息サディアスはメイドのリディと恋に落ちた。
婚約者であった伯爵令嬢フェルネは無残にも婚約を解消されてしまう。
「僕はリディと真実の愛を貫く。誰にも邪魔はさせない!」
サディアスの両親エヴァンズ伯爵夫妻は激怒し、息子を勘当、追放する。
それもそのはずで、フェルネは王家の血を引く名門貴族パートランド伯爵家の一人娘だった。
サディアスからの一方的な婚約解消は決して許されない裏切りだったのだ。
一ヶ月後、愛を信じないフェルネに新たな求婚者が現れる。
若きバラクロフ侯爵レジナルド。
「あら、あなたも真実の愛を実らせようって仰いますの?」
フェルネの曾祖母シャーリンとレジナルドの祖父アルフォンス卿には悲恋の歴史がある。
「子孫の我々が結婚しようと関係ない。聡明な妻が欲しいだけだ」
互いに塩対応だったはずが、気づくとクーデレ夫婦になっていたフェルネとレジナルド。
その頃、真実の愛を貫いたはずのサディアスは……
(予定より長くなってしまった為、完結に伴い短編→長編に変更しました)
【完結】毎日記憶がリセットされる忘却妻は、自称夫の若侯爵に愛されすぎている。
曽根原ツタ
恋愛
見知らぬ屋敷で目覚めたソフィアは、ユハルと名乗る美貌の侯爵に──三年前から契約結婚していると告げられる。さらに……
「結婚後まもなく、風邪を拗らせた君は、記憶を一部喪失し、少々珍しい体質になったんだ。毎日記憶がリセットされる──というね。びっくりだろう?」
自分のことや家族のことはぼんやり覚えているが、ユハルのことは何ひとつ思い出せない。彼は、「義理で世話をしてるだけで、僕は君を愛していない」と言う。
また、ソフィアの担当医師で、腹違いの義姉のステファニーも、ユハルに恋心を寄せており……?
★小説家になろう様でも更新中
★タイトルは模索中
狂おしいほど愛しています、なのでよそへと嫁ぐことに致します
ちより
恋愛
侯爵令嬢のカレンは分別のあるレディだ。頭の中では初恋のエル様のことでいっぱいになりながらも、一切そんな素振りは見せない徹底ぶりだ。
愛するエル様、神々しくも真面目で思いやりあふれるエル様、その残り香だけで胸いっぱいですわ。
頭の中は常にエル様一筋のカレンだが、家同士が決めた結婚で、公爵家に嫁ぐことになる。愛のない形だけの結婚と思っているのは自分だけで、実は誰よりも公爵様から愛されていることに気づかない。
公爵様からの溺愛に、不器用な恋心が反応したら大変で……両思いに慣れません。
報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を
さくたろう
恋愛
その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。
少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。
20話です。小説家になろう様でも公開中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる