後宮にて、あなたを想う

じじ

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4 後宮での初日①

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結局、後宮に入ることができたのは全員が揃った夕刻であった。

こんなことなら、もっとゆっくり来ればよかった。揃うまで中に入れないなんて。
蔡怜は心の中で、外で待たされることへの不満を呟く。
比較的気候の良い季節だったとはいえ、外で長時間待たされるのは苦痛だ。

位が低いとはいえ、皇帝の子を産むことを求められて来たのだ。もう少し丁重に扱ってくれてもよいのではないか。
そんな不満気な空気が娘達の周りから漂い始めた頃、最後の一人が到着した。
おそらく辺境から来たのであろう、移動による疲労が色濃く表れた姿を見て、待っている自分たちのほうがマシだったと皆気づいた。

蔡怜さいれいは最初こそ建物に入れてもらえないことにがっかりしたが、もとより面倒ごとを嫌う性格。談判しようなどとは、つゆほども考えなかった。ひとしきり心の中で悪態をついた後は、自分と同じく待っている令嬢達について、知っていることを思い返していた。

まず、自分より先に来ていた二人の令嬢はおそらく、家とぼう家だろう。花家と茅家は数世代に一度婚姻を繰り返しているため、縁戚関係にある。
このニ家は位こそ低いが、建国当初から皇室に使えた由緒正しき血筋だ。家格が低いのは、何世代か前に謀反の疑いをかけられたためだ。取り潰しとなるところ であったが、協議中に謀反の噂が出鱈目であることが判明したため、現在の形での存続が許された。出鱈目だったのならお咎めなしだろ、と思ったからよく覚えている。皇家が全面的な間違いを認めることを嫌ったためだ。
花家の姫、らんはすらりとした長身の色白の美女で、豊かな黒髪と一重の涼し気な目元が印象的だ。薄い唇には鮮やかな紅をさしている。
茅家の姫、朱華しゅかは小柄で愛らしい雰囲気の女性だ。二重の大きな瞳は潤んでいるようで、小さな唇は桃色に彩られている。
容姿だけみるとまるで似ていない二人だが、どことなく醸し出す雰囲気が同じだ。

そんなことを考えていると、二人の会話が聞こえてきた。
「蘭姉様、私もう疲れたわ。父様も母様も本当にひどいのよ。別れの時は心配するふりをしていたけど、本当は私のことなんて、どうでもいいのよ。」
それはそうだろう、そうでなければ今の皇室に娘を差し出せないだろうな、と蔡怜が心の中で思っていると、蘭が嗜めるように朱華に答えた。
「朱華、この前も言ったが叔父上も叔母上もお前のことは本当に心配している。そうでなければ、私にまで入宮を勧めては来ない。」
娘のみならず、姪にまで迷惑をかけているのか。それに比べれば自分の親は、まだましだろうか、と蔡怜は思わず考え込む。
そして、二人の会話を聞き茅家と花家の娘が後宮入りを志願させられた理由に見当をつけた。
おそらく家格の引き上げだろう、と。現在の家格が蔡怜より低いとはいえ、このニ家は下位貴族の中では比較的裕福なはずだ。
なら、後宮入りで望むことは皇帝の子を成し、実家の地位を向上させることのはずだ。
花蘭の実家はおそらく当初は後宮入りなど考えなかったのだろう。しかし、二家が足並み揃えてこれからもやって行くためには、どちらかの娘だけを犠牲にするわけにはいかなかったのだろう。

娘が大事なら家格の引き上げなど諦めて茅家を説得し、入宮を断念させればいいのに、そんな感想と共に、蔡怜は溜息をついた。
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