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3 いざ、後宮へ。
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「おはよう、黒鈴!今日はよろしくね」
何事もなかったかのように、朝の挨拶をする。黒鈴は呆れたような目をしながら私を見つめてきた。
いける、これならそこまで怒ってない。
ちなみに、昔遠駆けをした際、急な豪雨に見舞われたのだが、雨宿りもせず土砂降りの中、走らせてしまったことがあった。その後しばらく乗せてくれなかったので、今回はその時ほどではないようだ。
黒鈴の機嫌を確認した蔡怜は、自分の準備にとりかかった。いつもは麻紐で簡単に束ねるだけの髪も、今日はさすがに簡単に結っておく。この日のためにあつらえた水色の絹の胡服を着用する。胡服そのもので入宮するわけにも行かないので、その上に裳と呼ばれる薄桃色のスカートのようなものを腰に巻きつける。そして、羽衣と呼ばれる薄絹で作った薄緑の羽織物を肩からかけた。濃いはっきりとした色が最近の流行だが、原色はがあまり好きではない蔡怜は、自分好みの色の物を纏うことにした。優しい色合いは、蔡怜の穏やかな美貌によく似合い、一目を引く出来となった。
支度の整った蔡怜はそのまま、少しの手荷物を持って、両親に別れを告げた。
「父様、母様、今まで育てていただきありがとうございました。それでは行ってまいります。」
「おお」
「頑張るのよ」
それぞれ大して興味なさそうに答える。
最後の別れになるかもしれないんだから、もう少しなんか言え。
まぁ、無事に入宮さえしてしまえば後はどうでもいいと思ってるんだろうけど。
心の中で両親に悪態をつきつつ、蔡怜はにっこり笑って家を出た。
後宮へは、黒鈴で駆けてしまえば、想像以上に早く着いた。
告げられていた場所に、蔡怜より早く着いていたのは二人だけだった。おそらく同じ境遇であろう二人を見て心から同情した。
おそらくこの二人も実家が貧乏な下位貴族なのだろう。しかし、蔡怜と決定的に違ったのは、二人とも悲壮な顔をしていたことだ。それが皇帝の子を出産したら死ぬ可能性が高いせいなのか、単純に身売り同然で後宮に送られたせいなのかは分からないが。
蔡怜とて決して陽気な心持ちでこの場にいる訳ではない。しかし、後宮での扱いがいかに酷いものであったとしても、実家よりはマシだろう、そう思っただけのことである。
放置。蔡怜が家で受けた扱いはこの一言に限る。両親は手をあげたり、罵詈雑言を浴びせることこそなかったが、驚くほど蔡怜自身に興味を示さなかった。まるで生きてようが死んでようが構わない、と言うでも言うように。
自分の分の食事を抜かれることも度々あった。いや、本人達にしたらただ単純に蔡怜の分を忘れていたのかもしれないが。たまに声をかけられることがあってもその大半は蔡怜の存在を疎んじる内容だった。
そんな中で育った蔡怜が普通の貴族の娘と同じように自分の命そのものに興味が持てるはずなかった。
死ぬなら死ぬで仕方ない。それまではできるだけ平穏に生きたい。
後宮で暮らす蔡怜の望みはその一点のみであった。
何事もなかったかのように、朝の挨拶をする。黒鈴は呆れたような目をしながら私を見つめてきた。
いける、これならそこまで怒ってない。
ちなみに、昔遠駆けをした際、急な豪雨に見舞われたのだが、雨宿りもせず土砂降りの中、走らせてしまったことがあった。その後しばらく乗せてくれなかったので、今回はその時ほどではないようだ。
黒鈴の機嫌を確認した蔡怜は、自分の準備にとりかかった。いつもは麻紐で簡単に束ねるだけの髪も、今日はさすがに簡単に結っておく。この日のためにあつらえた水色の絹の胡服を着用する。胡服そのもので入宮するわけにも行かないので、その上に裳と呼ばれる薄桃色のスカートのようなものを腰に巻きつける。そして、羽衣と呼ばれる薄絹で作った薄緑の羽織物を肩からかけた。濃いはっきりとした色が最近の流行だが、原色はがあまり好きではない蔡怜は、自分好みの色の物を纏うことにした。優しい色合いは、蔡怜の穏やかな美貌によく似合い、一目を引く出来となった。
支度の整った蔡怜はそのまま、少しの手荷物を持って、両親に別れを告げた。
「父様、母様、今まで育てていただきありがとうございました。それでは行ってまいります。」
「おお」
「頑張るのよ」
それぞれ大して興味なさそうに答える。
最後の別れになるかもしれないんだから、もう少しなんか言え。
まぁ、無事に入宮さえしてしまえば後はどうでもいいと思ってるんだろうけど。
心の中で両親に悪態をつきつつ、蔡怜はにっこり笑って家を出た。
後宮へは、黒鈴で駆けてしまえば、想像以上に早く着いた。
告げられていた場所に、蔡怜より早く着いていたのは二人だけだった。おそらく同じ境遇であろう二人を見て心から同情した。
おそらくこの二人も実家が貧乏な下位貴族なのだろう。しかし、蔡怜と決定的に違ったのは、二人とも悲壮な顔をしていたことだ。それが皇帝の子を出産したら死ぬ可能性が高いせいなのか、単純に身売り同然で後宮に送られたせいなのかは分からないが。
蔡怜とて決して陽気な心持ちでこの場にいる訳ではない。しかし、後宮での扱いがいかに酷いものであったとしても、実家よりはマシだろう、そう思っただけのことである。
放置。蔡怜が家で受けた扱いはこの一言に限る。両親は手をあげたり、罵詈雑言を浴びせることこそなかったが、驚くほど蔡怜自身に興味を示さなかった。まるで生きてようが死んでようが構わない、と言うでも言うように。
自分の分の食事を抜かれることも度々あった。いや、本人達にしたらただ単純に蔡怜の分を忘れていたのかもしれないが。たまに声をかけられることがあってもその大半は蔡怜の存在を疎んじる内容だった。
そんな中で育った蔡怜が普通の貴族の娘と同じように自分の命そのものに興味が持てるはずなかった。
死ぬなら死ぬで仕方ない。それまではできるだけ平穏に生きたい。
後宮で暮らす蔡怜の望みはその一点のみであった。
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