後宮にて、あなたを想う

じじ

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93 蔡怜の気持ち

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「あの、黄昭様。私のお気持ちをご存知のようですので、今さら隠そうとは思いません。ですが、私の思慕の情は陛下にとって煩わしいものになるかもしれません。ですからどうぞ…」
「捨ておけ、と?」

おっとりと、しかし嗜めるように言われ、蔡怜は一瞬肩を震わせた。

「はい」
「では、お聞きしますが、陛下が蔡怜様を強く望まれた場合はどうなさるのですか?仮初の皇后だからと拒まれるのでしょうか」
「それは」
「蔡怜様。蔡怜様のそのお考えは陛下のためを思っているのではありません。ただご自身が傷付かれないようにしたいだけです。」
「そんな」

あまりの言われように、蔡怜は絶句する。
黄昭は知らないことだが、蔡怜は皇帝のために自信の命すら差し出す覚悟でいる。それは真国の領地を与えられておきながら豊かにすることを放棄した蔡家の血を引くものとして納得している。しかしそのことを知らずに自分が傷つきたくないだけだと断じる黄昭に感じたことのない怒りが湧いてくるのが分かった。

「黄昭様のようなお生まれであればどれほどよかったか分かりません。」

言うつもりのなかった本音が思わず口をついて出てきた。

「え」

驚いたように蔡怜を見た黄昭の顔を見て、蔡怜は暗い笑みを浮かべたまま続けた。

「やはり黄昭様には、私の気持ちは絶対分からないと思います。黄島の王家の生まれで、両親から大切に育てられたお姫様には。」
「…」
「実家の地位も美貌も聡明さも、すべて兼ね備えておられる黄昭様には、私が本当に陛下を慕っているからこそ、陛下を困らせたくない一心で自分の気持ちに蓋をしているのがお分かりいただけないのでしょうね。だって、黄昭様がもし男性を想ってもその方がお困りになるはずありませんもの!」

一度言い出すと止まらず、蔡怜は思っていることすべてを黄昭にたいしてぶつけてしまった。

「そうですね。立場が異なることを忘れていたようです」

蔡怜がすべてを言い終わるまで言い返すこと一つせず聞いていた黄昭は、静かに答えた。

「ですが、一つお伝えさせていただきます。陛下は本当に蔡怜様のことを大切に思っておられます。もちろん私のしらないことがお二人の間にはあるのかもしれませんが…蔡家の娘としてではなく一人の女性として陛下のお気持ちにこたえて差し上げてください。蔡怜様には茶会の支度でお疲れのところ、心を乱すようなことをしてしまい申し訳ございませんでした。」

優雅に一礼して去っていく黄昭を見て蔡怜はいたたまれなくなった。彼女の言葉はすべて蔡怜を勇気づけるためのものであったのに、自分はそんな彼女に対して嫉妬するどころか自分の気持ちがわかるわけないと暴言まで吐いてしまったのだから。

謝りたい、けれど追いかける勇気もない自分に蔡怜は心の底からうんざりした。


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