散華へのモラトリアム

一華

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第一章 

その華は拙く演じる 3

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そう瑞華は、幼少より完璧な女性を演じていた。

その発端は、花宮と同じ旧宮家の九条くじょう家にある。
九条家といえば旧宮家の中でも、もっとも事業を成功させた一族。
自動車産業をメインに様々な分野で活躍をしている日本有数の資産家である。
正真正銘の名家と言っていいのではないだろうか。

幼い瑞華は、母に連れられて、九条家の催しに出掛けていったことがある。
広い敷地に物語に出てくるような美しい庭。

その時、美しい少年を見た―― 
九条月人つきひと。九条家の跡取りとなるべく生まれた長男で瑞華よりも三歳年上。
昔話に出てくる天上人とはかくあらん、ともいえる程。
少年であるのに美しく艶やかなな眼差しは人を魅了し、微かに笑えばそれだけで絵になる。
本当に綺麗で。妖しいほどに存在感があって。 

家に帰った瑞華が、三日熱が出て寝込んだくらい印象的だった。 

すぐに家柄が釣り合わないのは分かったけど。 
同じ旧宮家と言えど、瑞華と九条家の『次期様』と呼ばれる存在では、月を見上げて地上で跳ねる兎くらいのものだ。
届くことなどあり得ない。
それでもなにかに憑りつかれてしまったのだろうか。
足元くらいに。せめてその光を浴びるのに恥ずかしくない程度にはなりたい。
そう思って、華道茶道日舞、ピアノ、ダンス、etc・・・と様々にお稽古に励み、誰が見ても恥ずかしくないお嬢さんになろうと猫かぶりを始めたのだ。 

笑い方は子供らしくなくていい。楚々として上品に。
流行りのメイクなんてどうでもいい。しっかり基礎ケアをして素肌を美しくナチュラルメイク。
恋愛事?ときめくことのできる男性なんてその辺にはいない。
奇妙なことに九条月人氏と恋に落ちたいなんて、雑念も湧かなかった。
理解してもらえないかもしれないが瑞華からすればこうだ。
「モナ・リザ」や「ダヴィテ像」のように至高の美術品に向かいあうとして、一方的に崇拝する以上にすべきことがあるだろうか。いや、ない。
子供ながらに、少々なにか違うものが目覚めてしまった気もするけれど、後悔は欠片もなかった。

強いていえば、あの習い事の数々が、家の没落寸前への道を早めた気もするが 

とにかく最大の憧れ。
成長した月人つきひと氏は、子供の頃以上に美しく完成体へと成長した。

今は御年24歳になられたその姿は、どこか中性的な艶さえも感じさせる雅なお姿。
絵巻物に出てくる殿上人のように、人目を惹きながら、気安くない高貴な存在。
すらりとした身長と、鍛え上げられた美しいラインに良く似合うオーダーでしか作りえない品の良いスーツを着こなし、その気配を感じるだけでも、自分とはかけ離れた世界を生きていることを周りに感じさせずにはいられない産まれながらの神の化身。ほほ笑まれれば、その言葉は「赤を白と言われても諾とせよ」と言いたくなる威力を持つだろうと確信している。

その美しい存在は経済会に羽ばたいて確実に勢力を伸ばし、今では経済誌の一面を飾っているのだ。

瑞華はそれを眺めて感嘆するだけ。
それが完璧な女性を演じる活動源に今でもなっているのだ。
我ながら困ったクセだが、もはや根付いてしまっているので仕方ない。
そう。恋なんていう生易しいものではない。一つの宗教かのように、崇拝の念を抱いてしまっているのだ。 

だが。
大学に入ってからは、その活動源を持つだけに一人だけ妬んでしまう存在が出来てしまった。
それは・・・
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