散華へのモラトリアム

一華

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第一章 

その華は拙く演じる 2

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花宮はなみや瑞華みずか。 
都内有数の名門大学に籍を置き、評判は上々。
それは誰に聞いても当然のように良いはずだ。 
柔らかな表情で、美人。穏やかだが才女。 
専攻している経済学部では恐らく首席か、悪くても次席で卒業するだろう見込みのある、大学三年生。 

純情で恋愛事には免疫がないという噂。 古くから続く旧宮家の一人娘で、浮いた噂など欠片ほども存在しない。
おっとりと首を傾げれば、大抵の男性は言うことが聞きたくなる、清純、愛らしさ、聡明さを兼ね備えた女性である。  

だが瑞華は今、危機的状況にあった。
瑞華の家は、没落しかかってる。
もう少し正確に言えば、両親の会社は倒産寸前。火の車だ。 
代々続く資産家でもある父と、良家の子女として蝶よ花よと育てられた母の経済感覚は致命的になかった。祖父の時代では繁栄の極みとも言える程だった、百貨店グループ『華屋』は客足が年々減っていき先細り。
名家と名高い旧宮家も、今は本当に名前だけ。
家族と稼業である百貨店グループの歴史と空間を愛しているといって過言ではない瑞華には、耐えようもない悔しい事実だ。 
名家の名など、売れるものなら売りたいくらいだ。 


二つ目の理由。 
本当に名家であることを、そして瑞華自身を両親が売りやがったこと。 
と、言うのも。 
年々雲行きが怪しくなっていく会社の経営難を少しでも明るくしようと、こうして経済学部で勉学に勤しんでいたのに。 
両親はなんと、瑞華に成り上がり企業の社長、43歳バツイチとの縁談を持ってきたのである。 
しかも瑞華が知ったのは、既に多額の資金援助を頂いた後、だ。 

思い出すのも苦々しい、大学二年生になったばかりの去年の春。

「瑞華ちゃん、とっても素敵な男性との結婚をお父様が決めて下さったのよ」
「お前は、すこし夢みがちで子供っぽいから。歳上の人が安心できて良かったと思うよ」
「しかもうちの会社にとっては救世主なのよ」
「良い相手が見つかってよかったな。お前の幸せがなにより嬉しいんだよ」
両親が、瑞華からすると意味の分からない言葉を並び立て。
さあすぐ婚約だ、結婚だ、とはしゃぐのを混乱したものの。

「そんな、急なお話は無理です。そんな慌ただしくされたら、私卒倒してしまいます」
どこまでも子供の様に首を振り続けるもいう気の長い作業で、ようやく『我が儘を少しだけ聞いてくれる両親』へと方向転換することが出来た。

この育ちの良い、お花畑思考の両親に、なにをバカなことをなんてまともにやり合っても理解はしてもらえない。
まだまだ幼い子供のダダくらいがせいぜい限界なのだ。
どうにか婚約発表を大学卒業まで伸ばしてもらったのは、我ながら上出来だったと思う。

本当に危なかった。


本音のままに口答えをしたりしたら、大学なんてあっさり中退勧告されていたはずだ。
お嫁に行くのに、学歴なんて必要じゃないでしょう、ぐらいは言いかねない両親なのだ。

そんな年上の、しかもバツイチの人を相手に可哀想、なんて考えは両親にない。

昔から放っておくと勉強や習い事に熱心になりすぎる瑞華をいつまでも手のかかる子供のように思っているのだから、『年上のしっかりした男性』が相手の方が幸せになれると考えているのだ。
女はただ愛想よく、夫となる人に従ってればよい。
そう思って相手を信用しすぎる、素直な育ちの良い二人は、バツイチの原因なんて探ろうともしない。
きっと深い事情があると、同情的なぐらいなのだから恐れ入る。

そしてそう瑞華が思っていても、資金援助を貰っていて、一人娘である瑞華のこの結婚が破談になれば即倒産が待っているはずだ。

会社の経営状況を理解しすぎている瑞華には、簡単に察しがいった。

分かってる。
だから本性を出して徹底抗戦という選択も瑞華にはなかった。

どこか諦めている。
この本心を隠した生き方のまま、一生を過ごすことを。
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