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第一章
その華は拙く演じる 4
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大学の昼休み。
食事が終わり、大学の中庭のベンチで読書をしていると
ふんわり、と膝に乗せていたハンカチが飛んだ――。
たまたま通りかかった男子学生の集団の一人が、拾ってくれるのが見え、慌てて駆け寄る。
「あ、あの…ありがとうございます」
自らの失敗を恥じるように、朱に染まりかねない表情で両手で頬を押さえてから、ハンカチを受け取った。渡してくれた男子学生の方が、表情に似合いもしない愛想わらいを浮かべるくらいの愛らしさがある。周りの数人の男子も釣られたように愛想笑い。
奇妙な光景だが、日常の出来事だ。
ふっとその中に特にこちらを見もしない、周りの友人達と楽しそうに話している華やかな一の人男性に気づけば。
――九条風人!!――
一瞬、瑞華の中にその人柄にあるまじき光が目に宿り、すぐに消えた。
荒れる感情をいつも通り押さえ捩り伏せ、再度丁寧にお礼を言ってから立ち去る。
重い足取りでベンチに戻り、それと気づかれぬ様に集団が見えなくなったのを見届けると、どっと疲れが出た。
馬鹿な、私。
悔しがったって仕方ないのに。
ふうっとため息をついて、再度本に目を落とすが、ちらついた風人の笑顔に苛立ち本を閉じた。
九条家の次男、九条風人。
母親似の月人さんと違い、父親似とされている風人さんは、月人さんとは全くタイプが違う。
華やかで社交的で、人の輪に入ることを簡単にしてしまう。多少のミスはするが、才に長けて応用が効き、成功を確実に手にするタイプだ。
大学入学以来、一学年上に大学の女生徒の間で密かに経済学部の王子様と呼ばれる九条風人がいたことは、瑞華には不運だった。
勿論、憧れの月人さんの弟だ。最初は同じ大学であったことに驚いて、心の中だけではあるが喜びさえ感じた。
だがしばらくすると、瑞華の大学進学の目的には、随分その存在が邪魔になることに気付いたのだ。
瑞華が大学で経済学を学ぼうと思ったのは、改めて言うが、傾きかけた経営を上向かせるのに、どうにか自分も役立ちたいと思ったからだ。
それこそ月人さんのように、早くから才と手腕で打って出る人間もいる。
天賦の才が自分にあるとは思わなかったが、努力をすることは苦手ではない。
瑞華がいつまでも「小さな愛すべき子供」だと思って、仕事を手伝わせる気がまるでない両親を説得しやすいようにと、考えられる大学の中で一番難関の大学を選んだ。
そうして努力を実らせて、優秀な成績を維持している。
だが、その瑞華の上には、必ず九条風人がいるのだ。
『お父様お母様、私とても優秀だと教授方からも言っていただいているのよ』
そう言うと、必ず言われるのだ。
『ああ、そうらしいね。それにしてもあの大学には九条家の風人くんも通われてるそうだね。それそれは開校以来の逸材だって聞いているよ』
『やっぱり九条様は素晴らしいわ。あなたは女の子なんだし、そんなに頑張らなくても大丈夫よ』
『でも』
『ああ、お前は優秀だよ。女の子にしておくのは勿体ないくらいだ』
『素晴らしい先輩がいる大学に行けて良かったわね』
瑞華がどんなに頑張って成績を上げても変わらない。
そこには必ず、九条風人がいるのだ。
食事が終わり、大学の中庭のベンチで読書をしていると
ふんわり、と膝に乗せていたハンカチが飛んだ――。
たまたま通りかかった男子学生の集団の一人が、拾ってくれるのが見え、慌てて駆け寄る。
「あ、あの…ありがとうございます」
自らの失敗を恥じるように、朱に染まりかねない表情で両手で頬を押さえてから、ハンカチを受け取った。渡してくれた男子学生の方が、表情に似合いもしない愛想わらいを浮かべるくらいの愛らしさがある。周りの数人の男子も釣られたように愛想笑い。
奇妙な光景だが、日常の出来事だ。
ふっとその中に特にこちらを見もしない、周りの友人達と楽しそうに話している華やかな一の人男性に気づけば。
――九条風人!!――
一瞬、瑞華の中にその人柄にあるまじき光が目に宿り、すぐに消えた。
荒れる感情をいつも通り押さえ捩り伏せ、再度丁寧にお礼を言ってから立ち去る。
重い足取りでベンチに戻り、それと気づかれぬ様に集団が見えなくなったのを見届けると、どっと疲れが出た。
馬鹿な、私。
悔しがったって仕方ないのに。
ふうっとため息をついて、再度本に目を落とすが、ちらついた風人の笑顔に苛立ち本を閉じた。
九条家の次男、九条風人。
母親似の月人さんと違い、父親似とされている風人さんは、月人さんとは全くタイプが違う。
華やかで社交的で、人の輪に入ることを簡単にしてしまう。多少のミスはするが、才に長けて応用が効き、成功を確実に手にするタイプだ。
大学入学以来、一学年上に大学の女生徒の間で密かに経済学部の王子様と呼ばれる九条風人がいたことは、瑞華には不運だった。
勿論、憧れの月人さんの弟だ。最初は同じ大学であったことに驚いて、心の中だけではあるが喜びさえ感じた。
だがしばらくすると、瑞華の大学進学の目的には、随分その存在が邪魔になることに気付いたのだ。
瑞華が大学で経済学を学ぼうと思ったのは、改めて言うが、傾きかけた経営を上向かせるのに、どうにか自分も役立ちたいと思ったからだ。
それこそ月人さんのように、早くから才と手腕で打って出る人間もいる。
天賦の才が自分にあるとは思わなかったが、努力をすることは苦手ではない。
瑞華がいつまでも「小さな愛すべき子供」だと思って、仕事を手伝わせる気がまるでない両親を説得しやすいようにと、考えられる大学の中で一番難関の大学を選んだ。
そうして努力を実らせて、優秀な成績を維持している。
だが、その瑞華の上には、必ず九条風人がいるのだ。
『お父様お母様、私とても優秀だと教授方からも言っていただいているのよ』
そう言うと、必ず言われるのだ。
『ああ、そうらしいね。それにしてもあの大学には九条家の風人くんも通われてるそうだね。それそれは開校以来の逸材だって聞いているよ』
『やっぱり九条様は素晴らしいわ。あなたは女の子なんだし、そんなに頑張らなくても大丈夫よ』
『でも』
『ああ、お前は優秀だよ。女の子にしておくのは勿体ないくらいだ』
『素晴らしい先輩がいる大学に行けて良かったわね』
瑞華がどんなに頑張って成績を上げても変わらない。
そこには必ず、九条風人がいるのだ。
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