散華へのモラトリアム

一華

文字の大きさ
4 / 95
第一章 

その華は拙く演じる 4

しおりを挟む
大学の昼休み。 

食事が終わり、大学の中庭のベンチで読書をしていると 
ふんわり、と膝に乗せていたハンカチが飛んだ――。 

たまたま通りかかった男子学生の集団の一人が、拾ってくれるのが見え、慌てて駆け寄る。 

「あ、あの…ありがとうございます」 

自らの失敗を恥じるように、朱に染まりかねない表情で両手で頬を押さえてから、ハンカチを受け取った。渡してくれた男子学生の方が、表情に似合いもしない愛想わらいを浮かべるくらいの愛らしさがある。周りの数人の男子も釣られたように愛想笑い。
奇妙な光景だが、日常の出来事だ。

ふっとその中に特にこちらを見もしない、周りの友人達と楽しそうに話している華やかな一の人男性に気づけば。
――九条風人かぜひと!!―― 

一瞬、瑞華の中にその人柄にあるまじき光が目に宿り、すぐに消えた。 
荒れる感情をいつも通り押さえ捩り伏せ、再度丁寧にお礼を言ってから立ち去る。 

重い足取りでベンチに戻り、それと気づかれぬ様に集団が見えなくなったのを見届けると、どっと疲れが出た。 

馬鹿な、私。 

悔しがったって仕方ないのに。 
ふうっとため息をついて、再度本に目を落とすが、ちらついた風人の笑顔に苛立ち本を閉じた。 
九条家の次男、九条風人かざひと
母親似の月人さんと違い、父親似とされている風人さんは、月人さんとは全くタイプが違う。
華やかで社交的で、人の輪に入ることを簡単にしてしまう。多少のミスはするが、才に長けて応用が効き、成功を確実に手にするタイプだ。

大学入学以来、一学年上に大学の女生徒の間で密かに経済学部の王子様と呼ばれる九条風人がいたことは、瑞華には不運だった。
勿論、憧れの月人さんの弟だ。最初は同じ大学であったことに驚いて、心の中だけではあるが喜びさえ感じた。
だがしばらくすると、瑞華の大学進学の目的には、随分その存在が邪魔になることに気付いたのだ。
瑞華が大学で経済学を学ぼうと思ったのは、改めて言うが、傾きかけた経営を上向かせるのに、どうにか自分も役立ちたいと思ったからだ。

それこそ月人さんのように、早くから才と手腕で打って出る人間もいる。
天賦の才が自分にあるとは思わなかったが、努力をすることは苦手ではない。

瑞華がいつまでも「小さな愛すべき子供」だと思って、仕事を手伝わせる気がまるでない両親を説得しやすいようにと、考えられる大学の中で一番難関の大学を選んだ。
そうして努力を実らせて、優秀な成績を維持している。

だが、その瑞華の上には、必ず九条風人がいるのだ。

『お父様お母様、私とても優秀だと教授方からも言っていただいているのよ』
そう言うと、必ず言われるのだ。

『ああ、そうらしいね。それにしてもあの大学には九条家の風人くんも通われてるそうだね。それそれは開校以来の逸材だって聞いているよ』
『やっぱり九条様は素晴らしいわ。あなたは女の子なんだし、そんなに頑張らなくても大丈夫よ』
『でも』
『ああ、お前は優秀だよ。女の子にしておくのは勿体ないくらいだ』
『素晴らしい先輩がいる大学に行けて良かったわね』

瑞華がどんなに頑張って成績を上げても変わらない。
そこには必ず、九条風人がいるのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

冷徹公爵の誤解された花嫁

柴田はつみ
恋愛
片思いしていた冷徹公爵から求婚された令嬢。幸せの絶頂にあった彼女を打ち砕いたのは、舞踏会で耳にした「地味女…」という言葉だった。望まれぬ花嫁としての結婚に、彼女は一年だけ妻を務めた後、離縁する決意を固める。 冷たくも美しい公爵。誤解とすれ違いを繰り返す日々の中、令嬢は揺れる心を抑え込もうとするが――。 一年後、彼女が選ぶのは別れか、それとも永遠の契約か。

夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。

Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。 そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。 そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。 これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。 (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

お父さんのお嫁さんに私はなる

色部耀
恋愛
お父さんのお嫁さんになるという約束……。私は今夜それを叶える――。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

処理中です...