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第一章
その華は拙く演じる 5
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昨年もそうだ。
いくつかの大学と大手企業が合同で行った販促コンペ。
学生でありながら参加できるという協賛企業も多い試みだった。
受賞すれば、企業に採用、商品化されるという一世一代のチャンス。
瑞華も受賞したら大きな成果として両親にアピールできると思い、もちろん応募した。
そうして何日も時間を費やして、案を絞った上でのものだったが
受賞候補には選ばれたものの、入賞には至らなかった。
『最優秀賞が九条くんに決まってね。他の賞は他大学に譲るという話になったんだよ。すまないね。君の案も素晴らしかったんだけど』
後々、審査員の一人だった教授にそう声を掛けられ、泣きそうになったことは今でも忘れない。
そして九条風人の案は本当に素晴らしく、協賛企業をくまなく利用した無駄のない案で、文句のつけようもなかったことも、瑞華の悔しさに追い打ちをかけた。
チャンスはあった。
だが、力が足らなかった。
成功を手にするためには、ただ優秀なだけではダメなのだ。
九条風人に勝るぐらいでなければ。
そう思い知ってしまった瑞華に。
『九条家の次男がお前が話していた大きなコンペで賞を取ったそうだね』
お父様から無邪気に言われた言葉は深く刺さった。
努力が実ってないとは言わない。
認められていないのが、九条風人のせいとばかりもいえない。
だが、皮肉にも自分の憧れである人の弟が、自分にとっては未熟だと知らしめる存在になっているのだ。
「本当、腹が立つったら」
ぼそっと呟いて、誰にも気づかれてない事を確認して立ち上がり
不意にガンガンと地面を蹴り、ちっと舌打ち。
何事もなかったように座ってから頬杖をついた。
九条風人が心底、羨ましい。
あの麗しい人を兄に持ち、また同じ旧宮家でありながら、なんの因果か一つ上の学年で、平穏に憂愁にのほほんと生活してる九条風人が憎らしいのだ。
完全に八つ当たりなのは分かってる。
優秀な人間がのほほんと出来ないことも知ってる。
でも・・・羨ましい。
だって九条風人には、モラトリアムなんてないではないか。
大学卒業と同時に、籠の鳥が籠から出されれば、好きでもない男の手の中で飼われるなんていう、そんな結末は待っていない。
だから、多少は妬む人間がいたっていいはずなのだ。
本当に羨ましくて、妬ましい。
希望のない未来と対照的な、瑞華の欲している全てを持っている人。
それが瑞華にとっての九条風人という人物なのだ。
わずかに自分に許したマイナスの感情を抱きながら、瑞華は悲しくも無駄なため息をついた。
いくつかの大学と大手企業が合同で行った販促コンペ。
学生でありながら参加できるという協賛企業も多い試みだった。
受賞すれば、企業に採用、商品化されるという一世一代のチャンス。
瑞華も受賞したら大きな成果として両親にアピールできると思い、もちろん応募した。
そうして何日も時間を費やして、案を絞った上でのものだったが
受賞候補には選ばれたものの、入賞には至らなかった。
『最優秀賞が九条くんに決まってね。他の賞は他大学に譲るという話になったんだよ。すまないね。君の案も素晴らしかったんだけど』
後々、審査員の一人だった教授にそう声を掛けられ、泣きそうになったことは今でも忘れない。
そして九条風人の案は本当に素晴らしく、協賛企業をくまなく利用した無駄のない案で、文句のつけようもなかったことも、瑞華の悔しさに追い打ちをかけた。
チャンスはあった。
だが、力が足らなかった。
成功を手にするためには、ただ優秀なだけではダメなのだ。
九条風人に勝るぐらいでなければ。
そう思い知ってしまった瑞華に。
『九条家の次男がお前が話していた大きなコンペで賞を取ったそうだね』
お父様から無邪気に言われた言葉は深く刺さった。
努力が実ってないとは言わない。
認められていないのが、九条風人のせいとばかりもいえない。
だが、皮肉にも自分の憧れである人の弟が、自分にとっては未熟だと知らしめる存在になっているのだ。
「本当、腹が立つったら」
ぼそっと呟いて、誰にも気づかれてない事を確認して立ち上がり
不意にガンガンと地面を蹴り、ちっと舌打ち。
何事もなかったように座ってから頬杖をついた。
九条風人が心底、羨ましい。
あの麗しい人を兄に持ち、また同じ旧宮家でありながら、なんの因果か一つ上の学年で、平穏に憂愁にのほほんと生活してる九条風人が憎らしいのだ。
完全に八つ当たりなのは分かってる。
優秀な人間がのほほんと出来ないことも知ってる。
でも・・・羨ましい。
だって九条風人には、モラトリアムなんてないではないか。
大学卒業と同時に、籠の鳥が籠から出されれば、好きでもない男の手の中で飼われるなんていう、そんな結末は待っていない。
だから、多少は妬む人間がいたっていいはずなのだ。
本当に羨ましくて、妬ましい。
希望のない未来と対照的な、瑞華の欲している全てを持っている人。
それが瑞華にとっての九条風人という人物なのだ。
わずかに自分に許したマイナスの感情を抱きながら、瑞華は悲しくも無駄なため息をついた。
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