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第二章
猫の戯れ 1
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どうせ嫌われてるんだから、まあいいか。
そう思っての行動が、良策だったとは言えないと思ったとしても後の祭り。
その夜、本当は飲み明かすつもりだったが、色々と思うことがあり、結局飲み会から抜け出した。
「慣れないことはするもんじゃないねぇな」
自重めいて、言葉を漏らしたのは九条風人だ。
無防備に夜の街で一人、居酒屋にいる花宮瑞華を見つけた時には目を疑った。
まさか珪の言う通りだったか、と一瞬思ったが、相手はこちらに気付いている様子はなかった。
どうやらこちらに気付いた後に慌てて帰る姿を追ったのは、随分飲んでいる様子だったからだ。ちゃんと帰れそうかが気になった。
瑞華がぶつかった相手から預かった落し物はハンカチだったが、帰れそうなら引き止めず、気づかなかったことにしてハンカチも捨ててしまった方が親切だろうというぐらいの分別はあった。
だが、公園でどこかふらついた足取りを見れば、声を掛けた方がいいと判断する。
倒れ込んだのが風人を見て動揺したからだったとしても、それぐらいで気を失う状態なら休ませた方が良いはずだ。彼女を椅子に寝かせたのも人を呼ばずに介抱したのも、まずかったとは思わない。
意識を失った花宮瑞華は、なるほど友人らが言うように男好きのするタイプの清純派。
苦悶の表情で自分に身を預けている姿は、保護欲を誘う。
だが目を開ければ、露骨に自分に対して嫌そうな表情をするのだから面白くはなかった。
不機嫌な気持ちが手伝って、どうせ嫌われてるんだし、と老婆心ながらに悪い男の口調で、彼女の浅はかな行動を指摘して今後の注意を促そうと、かなり大げさに煽ったのは否定しない。
だがその口から、親に決められた縁談の話を聞いたら
妙に苛立った。
その感情を上手く説明は出来ないところもあるが、隠しているとは言え強い自我を持っているくせにと。
親の言いなりに、涙を浮かべる程嫌な相手を受け入れようとしているなんて、バカだろうと思った。
同じく、良家に生まれた立場だからこそ、そう思うのかもしれない。
もしかしたら今まで散々、家の事情に振り回されてきて、今も解放されたとは言い難い妹と、どこか重ねてしまったのかもしれない。
何はともあれ。
辛辣に皮肉り、傷つけたことは自覚している。
冷静になれば、助けてあげたいという気持ちも確かにあったはずなのに、口から出た言葉は、決して縋ることを許さない突き放した言葉だった。
激高して逃げ出した姿に我に返り、タクシーを捕まえて去る姿まで確認したが後味は悪く、居酒屋に戻ってもゆっくり酒を飲む気にもなれなかった。
最終電車に間に合って、揺られながら駅についたものの、迎えを呼ぶ気にもタクシーを拾う気持ちにもなれず、生ぬるい夜風に吹かれながら、決して近くない九条邸までの道のりで頭を冷やそうと歩いて帰ってきたのだ。
そう思っての行動が、良策だったとは言えないと思ったとしても後の祭り。
その夜、本当は飲み明かすつもりだったが、色々と思うことがあり、結局飲み会から抜け出した。
「慣れないことはするもんじゃないねぇな」
自重めいて、言葉を漏らしたのは九条風人だ。
無防備に夜の街で一人、居酒屋にいる花宮瑞華を見つけた時には目を疑った。
まさか珪の言う通りだったか、と一瞬思ったが、相手はこちらに気付いている様子はなかった。
どうやらこちらに気付いた後に慌てて帰る姿を追ったのは、随分飲んでいる様子だったからだ。ちゃんと帰れそうかが気になった。
瑞華がぶつかった相手から預かった落し物はハンカチだったが、帰れそうなら引き止めず、気づかなかったことにしてハンカチも捨ててしまった方が親切だろうというぐらいの分別はあった。
だが、公園でどこかふらついた足取りを見れば、声を掛けた方がいいと判断する。
倒れ込んだのが風人を見て動揺したからだったとしても、それぐらいで気を失う状態なら休ませた方が良いはずだ。彼女を椅子に寝かせたのも人を呼ばずに介抱したのも、まずかったとは思わない。
意識を失った花宮瑞華は、なるほど友人らが言うように男好きのするタイプの清純派。
苦悶の表情で自分に身を預けている姿は、保護欲を誘う。
だが目を開ければ、露骨に自分に対して嫌そうな表情をするのだから面白くはなかった。
不機嫌な気持ちが手伝って、どうせ嫌われてるんだし、と老婆心ながらに悪い男の口調で、彼女の浅はかな行動を指摘して今後の注意を促そうと、かなり大げさに煽ったのは否定しない。
だがその口から、親に決められた縁談の話を聞いたら
妙に苛立った。
その感情を上手く説明は出来ないところもあるが、隠しているとは言え強い自我を持っているくせにと。
親の言いなりに、涙を浮かべる程嫌な相手を受け入れようとしているなんて、バカだろうと思った。
同じく、良家に生まれた立場だからこそ、そう思うのかもしれない。
もしかしたら今まで散々、家の事情に振り回されてきて、今も解放されたとは言い難い妹と、どこか重ねてしまったのかもしれない。
何はともあれ。
辛辣に皮肉り、傷つけたことは自覚している。
冷静になれば、助けてあげたいという気持ちも確かにあったはずなのに、口から出た言葉は、決して縋ることを許さない突き放した言葉だった。
激高して逃げ出した姿に我に返り、タクシーを捕まえて去る姿まで確認したが後味は悪く、居酒屋に戻ってもゆっくり酒を飲む気にもなれなかった。
最終電車に間に合って、揺られながら駅についたものの、迎えを呼ぶ気にもタクシーを拾う気持ちにもなれず、生ぬるい夜風に吹かれながら、決して近くない九条邸までの道のりで頭を冷やそうと歩いて帰ってきたのだ。
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