散華へのモラトリアム

一華

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第一章 

その華は風にさらされて 8

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「…そのうち…そうなりますね」
「あぁ、相手のこと好きじゃないわけ?」

察しが良すぎる言葉に、言葉に詰まった。
今、瑞華の表情はさぞや打ちひしがれたものになっているだろう。
何か言いかけて、自分でその言葉の意味も分からない。


しばらくの間があって。

呆れたようなため息がつかれた。
「君、自虐趣味極め過ぎだから」 
「え?」
掴まれてていた両手を解放される。
支えがなくなったものの、ホッとして一人で立った。
顔を上げれば、九条風人がどこか侮蔑とも思える視線で見ている。

「『私が・・・私さえ身を捧げれば全てが丸く収まる』ってやつ。そんなもんマスターベーションと変わらないだろ。結局は自己満足、なんだよ、お姫様」
なにかとてもバカにされている気がするが、そんなこと分からなくなりそうなくらい。
何を言われているんだろうと混乱していた。 

自己満足、と。
私が今受け入れている事柄が、自己満足していると言われている?
こんなに嫌なのに。
何一つ、受け入れていないのに。

「苦しいなら助けてあげようか?自己犠牲っていう安っぽいヒロイニズム、俺、嫌いなんだよ」 

耳元で囁かれる声に体が固まった。 

安っぽい……
ナニソレ。  

固まった思考で、再度相手の目を見て、その冷たさを感じて。 

震えた。 


瞬間、かっと血が上る。
自分でも反射的に、感情が暴走するようだった。 
気がつけば、心のままに叫んでいた。

「あんたなんかに、何が分かるのよ。女の、好きでもない男に触られる気持ちが分かるって言うの!?」 

口にして、はっとした。 
散華の時へのモラトリアムが。 
私にはどう足掻いても逆らえない、その枷が。 
まざまざと自分でも見えた気がした。

嫌だ。 
嫌で嫌で仕方ない。 

感情が体を支配すれば、口惜しくて震えて。 

捧げたいなんて思ってもいない。 
自己犠牲なんて反吐が出る。 

でも、それ以外の道が分からない。 

相手の言葉が、自分に突き刺さるくいの様に突き刺さって、抜けない。 

苦しくて、でも泣きたくなくて。 

九条風人、あんたにだけは言われたくない、と。 
吐き出すように口にして背中を向けた。

倒れそうな体を引きずるように走って。 
頭がクラクラとした。 

追いかけて来てるのだろうか? 
見られているのだろうか? 

悔しい、悔しすぎる。 


歯を食いしばり、道路に飛び込む様に抜けて、タイミング良く拾えたタクシーに乗り込んだ。 

後ろは見なかった。 

否、見れなかった。 

冷たい視線が、何処までも付き纏う思いがして、震えて車内で身を潜めた。
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