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第二章
猫の戯れ 4
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「花宮瑞華さんの実家でやってる商売が傾いてるから、九条グループが援助することを条件に私を助けてもらう話だったんだけど、そう。結婚…」
ふうん、と興味深げにつぶやいてから、ニヤリと風人を振り返った。
「大変じゃない。乙女のピンチってわけね」
「……」
「やだ。そんなことまで知ってるんだもの、風人くんたら隅におけないわ」
何を思ったのか、実に楽しげに笑われて。そこに乗るのも相手の思うツボなので、にっこり笑ってみせた。
「いや。弥生さん。別に…」
「うんうん。風人くんたら嫌われてるのよね。あ、でもほら、事と次第によっては嫌われ者だった風人くんがヒーローになれちゃうかもよ」
何を思いついたのか、目を輝かせる弥生は風人に多少は不安を感じさせる。
この分なら婚約のご破算は勿論目論見に入るだろう。
その上で風人をヒーローにする思いつきとはどういうことか。
嫌な予感に背中にひやりとした物を感じる。
「い、いやいや」
「ああ、これはちょっと面白いかも。風人くんの男を上げるチャンスじゃない?うんうん。月人さんと要相談ねえ」
「相談?!」
この話に月人が加われば、風人にとっては試練しか待っていない気がする。
くるりと方向転換した弥生を、焦ったように風人が止めようとするが。
勿論止まるはずもなかった。
あとを追いかけようとするのを止めるなさいとでも言うように、その顔だけで振り返り、クスクスと笑う。
「風人くん、今何時だと思っているの?」
「は?」
「ここから先の時間、月人さんの部屋に入るなんて野暮よ?」
しなやかに歩く姿は猫のように。
どこか澄んでいて楽しげな眼差しは、追従を許さない。
風人は意味を悟って、大きなため息をついた。
それはそう、確かに諦めざるを得ない。
兄の恋人である、夕凪弥生と共にこの時間部屋を訪れたとしても、黙殺されるだけで済めば良いほう。
弟とはいえ、容赦はされないだろう。
それこそ野暮としてしか扱われない。
だから引き止めたいと思ったとしても、ご機嫌で去っていくその背中を見送る以外の、手はなかった。
九条家の次期様と言われる人が望んでいるのは、たった一人の女性の訪れだけなのだ…。
夜に浮かんだ月は美しく、光を降り注いでいた。
ふうん、と興味深げにつぶやいてから、ニヤリと風人を振り返った。
「大変じゃない。乙女のピンチってわけね」
「……」
「やだ。そんなことまで知ってるんだもの、風人くんたら隅におけないわ」
何を思ったのか、実に楽しげに笑われて。そこに乗るのも相手の思うツボなので、にっこり笑ってみせた。
「いや。弥生さん。別に…」
「うんうん。風人くんたら嫌われてるのよね。あ、でもほら、事と次第によっては嫌われ者だった風人くんがヒーローになれちゃうかもよ」
何を思いついたのか、目を輝かせる弥生は風人に多少は不安を感じさせる。
この分なら婚約のご破算は勿論目論見に入るだろう。
その上で風人をヒーローにする思いつきとはどういうことか。
嫌な予感に背中にひやりとした物を感じる。
「い、いやいや」
「ああ、これはちょっと面白いかも。風人くんの男を上げるチャンスじゃない?うんうん。月人さんと要相談ねえ」
「相談?!」
この話に月人が加われば、風人にとっては試練しか待っていない気がする。
くるりと方向転換した弥生を、焦ったように風人が止めようとするが。
勿論止まるはずもなかった。
あとを追いかけようとするのを止めるなさいとでも言うように、その顔だけで振り返り、クスクスと笑う。
「風人くん、今何時だと思っているの?」
「は?」
「ここから先の時間、月人さんの部屋に入るなんて野暮よ?」
しなやかに歩く姿は猫のように。
どこか澄んでいて楽しげな眼差しは、追従を許さない。
風人は意味を悟って、大きなため息をついた。
それはそう、確かに諦めざるを得ない。
兄の恋人である、夕凪弥生と共にこの時間部屋を訪れたとしても、黙殺されるだけで済めば良いほう。
弟とはいえ、容赦はされないだろう。
それこそ野暮としてしか扱われない。
だから引き止めたいと思ったとしても、ご機嫌で去っていくその背中を見送る以外の、手はなかった。
九条家の次期様と言われる人が望んでいるのは、たった一人の女性の訪れだけなのだ…。
夜に浮かんだ月は美しく、光を降り注いでいた。
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