散華へのモラトリアム

一華

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第二章

月に導かれるなら 1

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あくる日。 
若干、二日酔いにて。瑞華は頭痛を感じながら重い溜息をついた。
講義もあったが、どうせ身に入らないのは自分でもわかる。
大学は夏風邪ということにして休むことにした。 

決して、決して九条風人に会いたくなかったわけではないんだから・・・ 
言い訳のように一人呟いた。

自室のベットで、蜂蜜入りのレモンティーを飲んで身も心も癒しているとメールを受信する。 

婚約者予定のおじ様、鷹羽一王である。 

『体調が悪いと聞きました。 
昨日の疲れが出てしまったかな?夏風邪は長引くから気をつけて。 
お見舞いに行きたいが、気を使うと悪いから遠慮します。 
何かあれば連絡するように』 


本当に熱が出そう・・・ 
ふう、とため息をついた。 
心配する言葉にさりげなく足された、まるで所有者であるかのような指示。
それに従わなければならない義務はないが、言葉だけは受け入れたように返事をしなくてはならない。
今は苦痛すぎる作業だ。

言葉を選びつつ、出てもいない熱が上がってきた気分になり、携帯を置いた。
返事をしなきゃ。でも夏風邪だということになってるなら、即返事を打たなくても良いかもしれない。
言い訳のようなに免罪符を掲げて、フカフカの枕に沈みこんだ。


鷹羽一王のおじ様は43歳と言う年齢の割には、すらりとして、なかなか顔もいいと思う。 
成り上がりとは言え、手腕があるのは事実。頭も良くて気が利く。 
そう、だから。悲観することは…
・・・・・・ 
・・・・・・ 

無意識に自分に言い聞かせようとしていることに気付く。
九条風人の嘲笑う声が聞こえた。 

何、楽な方に逃げようとしてるの?と。 

全くもってその通りなのだ。 
どれだけ足掻いても結果を変えられないならば、その状況を受け入れようと考え始めている自分がいる。
それは逃げだと、誰よりも自分が思っていた。
悔しいよぉ。 

ブランケットを被ってベットに丸くなった。 
風人ウイルスにやられたのか風人ノイローゼである。 


いつもは大学で、あんなに外面良い癖に、なんで私だけ、あんな冷たい視線だったのだろう。

そもそも瑞華の妬みの視線に気付いていたのだから自業自得なのだが、昨晩はあまりに衝撃だったため反省の気持ちは追いつかない。くすん、といじけてしまう 。
人に冷たくされるというのは堪える。
それが弱っている時なら、尚更だ。

もう今日はふて寝を決め込もうと思った時。
ドアが開いた。 

「瑞華ちゃん、大変よ」 

高いソプラノの声。ふんわりと整った艶のある長い髪が揺らして現れた品のある女性――瑞華の母が部屋に入って来た。 

夏風邪という建前もあるのだから、寝たフリをしてしのぎたかったが相手は諦める気などない。パタパタとベットの周りを歩きまわりオロオロした雰囲気が伝わってくる。
やがて瑞華の方が根負けして顔を覗かせた。 
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