散華へのモラトリアム

一華

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第三章

華は猫に愛でられる 4

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母は無邪気に頼んでくれる筈だ
「うちの娘が九条家のお付き合いで、恥ずかしくなく堂々と振る舞えるように見ていて頂けない?助けて頂きたいの」 

そして『優しくも友人想い』の力を持っている夫人達は、九条の次期様の婚約者の代わりに様々なことをしたがる不作法な世間知らずな瑞華でも、微笑ましく後押しをしてくれる筈である。
もしその中に、愛情故の指導をしてくる方がいれば、その場しのぎで目を伏せて感謝すればそれでいい。 あしらう覚悟もしている。

旧家同士の付き合いはどれだけ根回しが出来るかによる。 
他にも、今までお世話になった習い事の師範代の方々にも口利きを、それと分からないように頼んでいる。 
あくまで瑞華は、九条風人の恋人候補としての自分に戸惑い、手助けしたくなる弱々しい存在。 

お節介な人間程、強い人間より弱い人間を庇う方が好きなものだ。 
そして女性であれば、多少なりとも「母性」と言う干渉本能がある。 
それは欲望にも等しいのだから、無意識に満たすための行動に出るのが女というもの。 

「頼りにしてるわ」
弥生はにっこりと笑った。
それを見て、瑞華は少しだけ表情を曇らせた。
「ただし、私が代わりが出来るのは、来年の卒業までと思ってください。いえ、実際はもう少し短いと思います」
「あら、どうして?」
「それまでには、何らかの結果が出ているでしょうから」

卒業までに、風人が結果を出せなければ、鷹羽のオジサマとの婚約が成立する。恐らくこちらの方が可能性の高い未来。
婚約の準備期間もあるだろうから、実際はもう少し早くに瑞華の将来は決まるだろう。
そうなれば、九条家に関わることに、鷹羽氏が寛容であるとはあまり思えなかった。
 
風人さんが結果を出せた場合、約束通りであれば婚約はなくなるが…
正直こちらの可能性は、今のところ期待はしていなかった。
少々の可能性があったとしても、万が一を考えて行動する方が正解。

だから約一年。 

その間に、夕凪弥生にはある程度の知識を形になるように付けてほしい。
瑞華はそう思っていた。


ある意味では弥生にもモラトリアムがあると言えるだろう。 
もっとも、九条月人氏との結婚が待っているのだから、決して悲観するような事柄ではないが。 

「あら。私は瑞華ちゃんとずっとお付き合いしたいなあ」
「弥生さん…」
「そうだ。本当に風人くんとお付き合いしちゃえばいいじゃない!私は可愛い妹が出来るし、大歓迎よ」
「そ、それはあり得ません」
ニコニコととんでもないことを言いだす弥生に、瑞華は慌てて否定した。
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