散華へのモラトリアム

一華

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第三章

華は猫に愛でられる 3

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「あと、これが弥生さんに手を付けて頂きたい習い事の一覧なんですけど。特に重要なのはご招待いただいた場での所作やお作法ですから、全て習得しなくてはならなない、と言うことはないと思います。ですから基本的なことだけはしっかりと身に付けて頂きたくて。お着物の着付けくらいは出来ますか?」 
「着付けくらいは」 
にこやかに笑う表情に、ほっとして頷いてみせた。 
「それは結構です。後日、確認させて頂きます。お茶は如何です?茶道も勿論なんですけど、アフタヌーンティーパーティーも良くありますから。しきたりやマナーなどはご存じですか?」 
「通用するような知識はないわ」 

あっさり言われるが、想像の範囲。むしろ、着付け出来るだけでも助かる。 

「ではこちらはまず客側の作法だけに的を絞ってしっかり教えます。お付き合いが必要になるでしょうから」 
「もし茶会の席でお茶を立てろとか、そういった類のお願いをされたらどうしようか?」 
「その時が私がやります。そのために一緒にいると思ってください」 
瑞華は弥生を真っすぐに見返し、穏やかに宣言した。 

この件を頼まれた時に、自分の役割はそういうことなのだろうと思い、そう出来る様に手筈している。 
瑞華は母と二人きりの時に、こんな風に話をしておいた。 

「私、風人さんに好意を感じてはいます。でも、正直自信がなくて」
女同士の打ち明け話と言う風に装って、戸惑いがちに見えるように努力した。
「瑞華ちゃんなら大丈夫よ。どこに出しても恥ずかしくないわ」
「お母様…」
めったに相談などしない瑞華の言葉に、なにか感じるものがあったのか、力を込めて応援してくる母親に慎重に次の言葉をかけた。
「次期様はもうすぐ、ご婚約されるのですって。お相手は一般家庭の方らしくて、不安もおありだと思うんです。私、出来るだけサポートをしようと思っています」
「まあ、あなたが?」
「上手くいけば自信も付きますし、私が九条風人さんの恋人として認められる人間か、精一杯やってみたいんです」 

もちろん、母にアピールするための作戦だ。
『花宮瑞華は、九条月人さんの婚約者をフォローするのに、一生懸命でしゃばりますよ』
と、特に分かっていてもらわないといけない。 


瑞華の母の実家は、旧家の中でも名門にあたる。 
家自体は叔父が継いでいて、母には何の権限もない。 
だが、母が好んで行くお茶会に参加しているお友達は、現役で様々な「権限」を所有する人の奥様方だ。 
しかも、母と同じで苦労知らずで、素直で優しい「幸せが約束された」女性たち。 
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