散華へのモラトリアム

一華

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第三章

華はどこを向かされるのか 2

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鷹羽にその晩連れて行かれたのは、恵比寿にあるホテルの高層階にある見晴らしの良いイタリアンレストラン。
窓際の席で向かい合って座る。料理はいつも通り鷹羽が注文済みのようで、程良いころ合いに運ばれて来た。
基本的に何が食べたいか確認されることはない。

「随分久しぶりにお会い出来た気がしますよ」
機嫌良く笑、酒を口に運ぶ鷹羽に、瑞華は控えめに笑顔を返した。
その笑顔をよく観察するように鷹羽は身を乗り出して来る。

「どうも最近、花宮の社長は付き合いが悪い気がして。もしかしたら今日はお会いできないのではないかと気が気でなかった」
「そんなこと…世間ではそろそろ夏休みですから、催事も多くて父も忙しいのだと思います」
「まあ、そうでしょうね。忙しいのはなにより」

にっこりと笑う顔も、どうしてもこの相手だと何か圧力を感じてしまう。
瑞華は素知らぬ様子を装った。
「鷹羽さんもお忙しいのではないですか?」
「勿論忙しいですが、可愛い女性の心変わりがないか確認する時間くらいはいつでも作りますよ」
「…」

ぞわりと寒気を感じつつ、その言葉の意味を理解していない様子を作るのが精いっぱいだった。
何を考えているか分からない若い女性だと思われていれば、もうそれでいい。
嫌そうにしてると気づかれた時の方が、どう物事が動くかわからないと思えていた。

「まあ、実際。2,3卸業者が頼んでいた商品が確保できないと泣きついてきたので、代わりを探していたりで忙しくはあった。花宮の社長の所に出入りのある業者でもあるので、放っておくわけにもいかないでしょう」
「そんなことが、あるんですか?」
「商品によっては仕方ないことですよ、瑞華さん」
専門的な商品を多く取り扱う鷹羽の主張は、どうも疑わしいことがあると思うのは瑞華の正直な意見だが、父が何度となく彼の取次で助かったと言っているので嘘ではないのだろう。

今、華屋が取り扱っている商品で、鷹羽は持つ繋がりかた仕入れてる商品はどの程度だろうか。
本社に立ち入ることのできない瑞華には細かく確認しようもない。

風人は、そういったことも確認してくれているだろうか。
口を出すのは憚られるのだが、聞いておいたほうがいいのかもしれない。
なんとなくそんな風な予感を覚える。もっとも答えてくれるかは不明だが。

「疲れると、どうも癒しが欲しくなるので急にお誘いしてしまいましたが、構いませんでしたね?」
「…はい」
自分のエゴを満たすだけの質問を、受け入れて従順な返事を返す。
いつもはそれで満足そうに頷く鷹羽であるが、どうも今夜は少々様子がおかしい。
ねっとりと絡むような視線の力が増したように思える。
そして高揚させるためのように酒を一息に飲み、考え込むように瑞華を見つめ続けているのだ。

一瞬、九条グループの干渉がもう耳に入ったのかと考えたが、その可能性は少ないはずである。
九条風人の動きは、とりあえずは企画や提案の状況が主で、資金的な援助の動きは開始されていない。
実際に耳に入るのはもう少し、先の筈。
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