散華へのモラトリアム

一華

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第三章

華はどこを向かされるのか 4

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鷹羽一王は、余興を楽しんいるのだ。
自分の物になると決まっている瑞華を自分の思うように散らすまでを。
恐らくは、婚約を早めても構わない。今日本当に部屋に行ってもいい。そして今は瑞華を追い詰めてどうするのかを楽しんでいる。
華屋が自分によって立っていると確信した上で、そろそろ本当に瑞華へと歩を進めようとしている。しかし急がずに。あくまでも楽しむための悪趣味な余興。


瑞華は、鷹羽の望みどおりに差し出された手に触れた。
恐ろしいと、思っていた相手の本性がとうとう見え始めたのではないかと思いつつ、しかし逃げ道はない。

例えこの手を振り払ったとして、何が出来るだろう。
九条風人に助けてくれと縋る、とでも?
それで了承されるほどの引き換えに差し出せるものもない。
その件で出来るのは、強いて言えば願うくらいだろうか。
どうか、どうか少しでも早く、華屋を助けてくれますように、と。

それこそ、愚か。
自虐趣味と言われようとも、安っぽいヒロイニズムと言われても、可能性も分からないのに運命に他者に丸投げなんてことは出来ようはずもない。
だからこそ、瑞華は現状に甘んじているのではないか。
両親に泣きついてみるか。それで上手く縁切りできたとして、果たして『華屋』は無事かのか。
今のところは何とも言えない。
淡く期待を持つとすれば、もう少し時間を持てさえすれば、本当に九条風人により希望が持てるかもしれないが。
きっとそれも今ではない。

それでも、何の希望もないよりはマシか。
自分でも気づかない程度に小さく口元だけで笑みを浮かべて、心をしまった。


瑞華は感情など無くしてしまったように、両手で鷹羽の手を包んだ。
「鷹羽さん、今日は」
一瞬躊躇ったが、それを選んでしまったのは他に選択肢がなかったからだ。

視線を落として、テーブルに指示された言葉を転がすように紡いだ。
「今日は、見逃してください…」

鷹羽は包んでいる瑞華の手を握り返すように触れて、その感触を楽しむ。
そして少しばかり名残惜しそうに手を戻した。
「勿論ですよ。部屋なんて取ってません。安心なさい」

感情が凍るような想いだったが、瑞華は薄く微笑んだ。
手を戻して、その感触が気味か悪いと思いつつ、表情には出せない。
だが少しばかり涙腺が少し緩むの感じたが、どうしようもない。
目線を落として、感情が収まるのを待った。
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