散華へのモラトリアム

一華

文字の大きさ
45 / 95
第三章

華はどこを向かされるのか 4

しおりを挟む
鷹羽一王は、余興を楽しんいるのだ。
自分の物になると決まっている瑞華を自分の思うように散らすまでを。
恐らくは、婚約を早めても構わない。今日本当に部屋に行ってもいい。そして今は瑞華を追い詰めてどうするのかを楽しんでいる。
華屋が自分によって立っていると確信した上で、そろそろ本当に瑞華へと歩を進めようとしている。しかし急がずに。あくまでも楽しむための悪趣味な余興。


瑞華は、鷹羽の望みどおりに差し出された手に触れた。
恐ろしいと、思っていた相手の本性がとうとう見え始めたのではないかと思いつつ、しかし逃げ道はない。

例えこの手を振り払ったとして、何が出来るだろう。
九条風人に助けてくれと縋る、とでも?
それで了承されるほどの引き換えに差し出せるものもない。
その件で出来るのは、強いて言えば願うくらいだろうか。
どうか、どうか少しでも早く、華屋を助けてくれますように、と。

それこそ、愚か。
自虐趣味と言われようとも、安っぽいヒロイニズムと言われても、可能性も分からないのに運命に他者に丸投げなんてことは出来ようはずもない。
だからこそ、瑞華は現状に甘んじているのではないか。
両親に泣きついてみるか。それで上手く縁切りできたとして、果たして『華屋』は無事かのか。
今のところは何とも言えない。
淡く期待を持つとすれば、もう少し時間を持てさえすれば、本当に九条風人により希望が持てるかもしれないが。
きっとそれも今ではない。

それでも、何の希望もないよりはマシか。
自分でも気づかない程度に小さく口元だけで笑みを浮かべて、心をしまった。


瑞華は感情など無くしてしまったように、両手で鷹羽の手を包んだ。
「鷹羽さん、今日は」
一瞬躊躇ったが、それを選んでしまったのは他に選択肢がなかったからだ。

視線を落として、テーブルに指示された言葉を転がすように紡いだ。
「今日は、見逃してください…」

鷹羽は包んでいる瑞華の手を握り返すように触れて、その感触を楽しむ。
そして少しばかり名残惜しそうに手を戻した。
「勿論ですよ。部屋なんて取ってません。安心なさい」

感情が凍るような想いだったが、瑞華は薄く微笑んだ。
手を戻して、その感触が気味か悪いと思いつつ、表情には出せない。
だが少しばかり涙腺が少し緩むの感じたが、どうしようもない。
目線を落として、感情が収まるのを待った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...