散華へのモラトリアム

一華

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第四章

波打ち際の風に 3

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どうやら誰か点を入れたらしく、バレーをしてる男性陣が騒いだところで、
「今、点を入れたのが九条魁斗兄様。九条家の分家の方になります。審判席に座ってるのが近衛鏡夜兄様」
雪乃さんの説明に目を向けると、恐らく二人とも社会人なのだろう。
九条魁斗と呼ばれた人は、親戚なだけあってどこか風人に面影が似ているだろうか。だが、かなりの高身長で、動きも迫力があり、少々怖い気もする。
反対にもう一人の近衛鏡夜と呼ばれた人は、優しげな雰囲気だが、どこかインテリ系の気配を感じて、プライベートで話しかけるには気を引き締めないといけないように感じた。
九条分家というのがどういう立ち位置なのか、あまり聞こえて来たことはないが、瑞華すればどちらにしろ、敷居が高い九条の次期様のご親戚。
どうしてもその印象にはフィルターが掛かってしまうのかもしれない。

二人紹介されて、月人氏と風人と数えれば、あと知らない顔は一人。
その一人を指し示すと、雪乃の顔は嬉しそうに顔を綻ばせた。
「あちらの方は…」
紹介しようとした時、その相手の方がこちらに気づいて、その場にボールを置いてしまった。
勢いよく他のメンバーに
「お疲れ様でした」と明るく挨拶して、一目散に雪乃に向かって掛けてくる。

「おい、珪!途中だろうが」
「俺のバレータイムは終了!悪いけど優先順位があるんだよ」
引き止める風人の声が響くが、悪びれた様子などカケラも見せず、軽く手を振って試合から抜けたその人は、雪乃の横に座った。
それでこちらに気付いたらしい風人と目が合った気がしたのだが、思わず逸らしてしまった。
大きな麦藁帽子に表情は隠れていればいいが、なんとも気まずい気持ちになる。

「よろしいのですか?珪さん。途中でしたのでしょう。わたくしのことは、お気になさらず…」
「いいんだよ。そもそも俺の予定では、海は雪乃と二人で行く予定だったんだから。それを過保護な兄サン方が、やれ人混みに妹を連れ出すなだの、せっかくなら静かな場所がいいだろうだの、結局言いくるめられたわけだからね。これくらい許してもらわなきゃ」
どこか甘さを感じる笑顔が好ましさを感じさせるその人は、恐らく雪乃の恋人なのだろう。
「疲れたから、雪乃の水着姿でも見てエネルギーチャージしないと」
聞いているほうが恥ずかしくなりそうなことを言いつつ、機嫌良く雪乃の姿を眺めてから、瑞華に気づいてニコリと笑った。

「花宮瑞華さん?」
「はい、はじめまして」
「どうも。萬屋よろずやです。萬屋けい。雪乃サンとお付き合いさせていただきます。花宮さんのことは噂程度に聞いてるよ」
「噂…?」
「あら、珪くん」
何のことかと疑問を口にするまえに、ちょうど弥生が飲み物を持って戻って来た。
「もう少しゆっくり遊んでくれてればいいのに」
「充分、遊びましたよ。どうせこの炎天下じゃ、月の兄サンだって、そろそろ止め時でしょう?」
「あー、そうかもね。じゃあ私ももうすぐ貸し切りか」
試合になるのか分からないが、ビーチバレーのグループは珪が抜けたので仕方なく2対1でのゲームを始めている。その姿を見つめてから、弥生は瑞華を見て笑った。

「その前に瑞華ちゃん行きましょ」
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