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第四章
波打ち際の風に 4
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「え?」
「せっかくだから、ちょっと一緒に戯れましょ。ハイ、雪乃ちゃん珪くん。これあげるわ」
雪乃に一つ、珪に二つグラスに入った飲み物を渡してしまうと、弥生は瑞華の腕を掴んで、ビーチサンダルを脱がせてから、波打ち際に招いた。
瑞華が小走り連れられる。熱く熱された砂浜を裸足で感じつつ、慌てて波の来る所まで踏みこんだ。
「弥生さん、強引すぎます」
「まあま。少しは雪乃ちゃんだって二人きりになりたいでしょ」
クスクス笑いながら、楽しそうに波を足で払う弥生は絵になる。
ふと後ろを振り返れば、雪乃は楽しそうに恋人と語らいあっているのだから、言われる通りなのかもしれない。
「私も瑞華ちゃんと二人きりになりたかったしね」
「私、まだバレーやってる人達に挨拶もしてないんですけど、良いんでしょうか?」
「良いのよ、気づいてて向こうだってしてないじゃない」
しかし、向こうがこちらに気付いたのに、目線を逸らしたのは瑞華だ。
少々気まずい気持ちになりつつ、にっこり笑った弥生の顔をみれば言葉は飲み込まれた。
「こんな風に海に来るのなんて、すごく久しぶりです」
「そうなの?」
「色々忙しくて」
勉強や習い事が趣味みたいな時も多かったし、大学に入ってからは、尚更経営の勉強に明け暮れていた。
鷹羽氏のことがあったからも、起死回生の手段を考えては全く両親に相手にされず挫折するばかりで、思えばこの『若い盛り』なんて呼ばれる時期にむやみに遊ぶということはなかった。
強いていえば、唯一の親友に連れられて、お酒を飲みに行ったことくらいだろうか。
二人の共通の趣味は音楽だったので、クラシックコンサートなどに一緒に行ったりもしたが、それは遊びと言っていいのかは疑問だ。
「あらそう?ふふ、じゃあ、海を堪能しなきゃね」
誘うように先を歩き出した弥生の後を追いかけながら、波打ち際を歩きだす。
裸足の足に波が絡んで、行ったりきたり。
ただ歩いているだけなのに、これは思いのほか楽しい。
たまに振り返って付いてきてることを確認する弥生は少し、親鳥みたいだなと瑞華は思った。
油断はならない相手なのに、ちゃんと見ていてもらっているのに気づけば、それは嬉しいし温かい気持ちになる。
だから、付いていくのもなんだか楽しくなって笑みが浮かんでしまうのだ。
そのまま岩場まで歩くと、上の方がが景色がいいからと登らされる。
よく登られるのだろうか、どこか階段のようになっている岩場だ。とはいえ、ひょいひょいっと身軽に行ってしまう弥生のようには中々行かない。
おっかなびっくり、一歩ずつだ。
確かに少し高台になっているその場所は、ビーチが一望出来た。
キラキラした海も綺麗だし、先ほどより遠くなったのでバレーをやってる姿も見るのに躊躇いが少ない。
九条の次期様のビーチバレー姿なんて、次いつ見れるか分からないと、少しドキドキした気持ちで見ていると自然と一緒に遊んでいる風人の姿も目に写った。
瑞華は無意識に麦わら帽子で顔を少し隠しつつ、弥生に目線をずらした。
「弥生さん」
「なあに?」
「今日の海、ご褒美にって誘われたんですけど。私がここに来ることって、風人さんのご褒美になると思いますか?」
「……」
弥生はキョトンとした顔をして、瑞華を見てから、バレーをやっている一団を見た。
「風人くんのご褒美、ねえ。まあ、そういうお話なら私も瑞華ちゃんという可愛い妹が出来るチャンスが出来たということで大歓迎なんだけど」
「あ、いやいや…」
そんな話じゃないでしょうと思いつつ、瑞華は苦笑してみせた。
いや、そういう話になるんだろうか?なら一層あり得ない。
九条風人が、そういう風な気持ちを瑞華に持つ、というのがどうしても想像つかない。
「せっかくだから、ちょっと一緒に戯れましょ。ハイ、雪乃ちゃん珪くん。これあげるわ」
雪乃に一つ、珪に二つグラスに入った飲み物を渡してしまうと、弥生は瑞華の腕を掴んで、ビーチサンダルを脱がせてから、波打ち際に招いた。
瑞華が小走り連れられる。熱く熱された砂浜を裸足で感じつつ、慌てて波の来る所まで踏みこんだ。
「弥生さん、強引すぎます」
「まあま。少しは雪乃ちゃんだって二人きりになりたいでしょ」
クスクス笑いながら、楽しそうに波を足で払う弥生は絵になる。
ふと後ろを振り返れば、雪乃は楽しそうに恋人と語らいあっているのだから、言われる通りなのかもしれない。
「私も瑞華ちゃんと二人きりになりたかったしね」
「私、まだバレーやってる人達に挨拶もしてないんですけど、良いんでしょうか?」
「良いのよ、気づいてて向こうだってしてないじゃない」
しかし、向こうがこちらに気付いたのに、目線を逸らしたのは瑞華だ。
少々気まずい気持ちになりつつ、にっこり笑った弥生の顔をみれば言葉は飲み込まれた。
「こんな風に海に来るのなんて、すごく久しぶりです」
「そうなの?」
「色々忙しくて」
勉強や習い事が趣味みたいな時も多かったし、大学に入ってからは、尚更経営の勉強に明け暮れていた。
鷹羽氏のことがあったからも、起死回生の手段を考えては全く両親に相手にされず挫折するばかりで、思えばこの『若い盛り』なんて呼ばれる時期にむやみに遊ぶということはなかった。
強いていえば、唯一の親友に連れられて、お酒を飲みに行ったことくらいだろうか。
二人の共通の趣味は音楽だったので、クラシックコンサートなどに一緒に行ったりもしたが、それは遊びと言っていいのかは疑問だ。
「あらそう?ふふ、じゃあ、海を堪能しなきゃね」
誘うように先を歩き出した弥生の後を追いかけながら、波打ち際を歩きだす。
裸足の足に波が絡んで、行ったりきたり。
ただ歩いているだけなのに、これは思いのほか楽しい。
たまに振り返って付いてきてることを確認する弥生は少し、親鳥みたいだなと瑞華は思った。
油断はならない相手なのに、ちゃんと見ていてもらっているのに気づけば、それは嬉しいし温かい気持ちになる。
だから、付いていくのもなんだか楽しくなって笑みが浮かんでしまうのだ。
そのまま岩場まで歩くと、上の方がが景色がいいからと登らされる。
よく登られるのだろうか、どこか階段のようになっている岩場だ。とはいえ、ひょいひょいっと身軽に行ってしまう弥生のようには中々行かない。
おっかなびっくり、一歩ずつだ。
確かに少し高台になっているその場所は、ビーチが一望出来た。
キラキラした海も綺麗だし、先ほどより遠くなったのでバレーをやってる姿も見るのに躊躇いが少ない。
九条の次期様のビーチバレー姿なんて、次いつ見れるか分からないと、少しドキドキした気持ちで見ていると自然と一緒に遊んでいる風人の姿も目に写った。
瑞華は無意識に麦わら帽子で顔を少し隠しつつ、弥生に目線をずらした。
「弥生さん」
「なあに?」
「今日の海、ご褒美にって誘われたんですけど。私がここに来ることって、風人さんのご褒美になると思いますか?」
「……」
弥生はキョトンとした顔をして、瑞華を見てから、バレーをやっている一団を見た。
「風人くんのご褒美、ねえ。まあ、そういうお話なら私も瑞華ちゃんという可愛い妹が出来るチャンスが出来たということで大歓迎なんだけど」
「あ、いやいや…」
そんな話じゃないでしょうと思いつつ、瑞華は苦笑してみせた。
いや、そういう話になるんだろうか?なら一層あり得ない。
九条風人が、そういう風な気持ちを瑞華に持つ、というのがどうしても想像つかない。
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