散華へのモラトリアム

一華

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第四章

華は友愛に力を借りて 4

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「気づいてなかったの?瑞華は昔から、勉強に習い事とか憑りつかれたようにやってたでしょう?優秀な子だって自慢も勿論、してらしたけど、年頃の女の子らしく我儘いったり遊んでないことは心配されてたのよ」
「……」
「だから私が、瑞華のピアノの先生になるって言った時も、それで友達との時間を作れるならって。それで了承してくれてたんだから」
「ぜ、全然気づいてませんでした」
思いもよらない内容に、瑞華は戸惑うばかりだった。
確かに瑞華の両親はピアノの先生をしてくれるなら、歓迎して、とバイト代として美沙にお金を渡している。
美沙は断っていたが、それはとても嬉しそうに、どうしてもどうしてもと譲らず、とうとう美沙が折れたくらいの勢いだった。
家に尋ねてくれば、雇っている立場というより、お客様として丁重に対応している。
そうか、あれは美沙の存在が、瑞華の『年頃の女の子としての時間』だと思っての対応だったのかと今更ながらに気付いた。
だからこそ、わざわざ美沙に瑞華の現状まで報告しているのだとすると、なんというか涙ぐましい気さえしてくる。
曖昧な表情しか取れない瑞華に、美沙は肩を竦めて見せた。

「だから、瑞華のご両親は、そもそも瑞華が自分で華屋の仕事に関わることに反対なのよ。すぐのめり込んで、他を見る余裕残さなさそうだから。年頃の女性らしく、恋愛したり遊んだり、親としてさせたいみたい」
「そう、だったんですか…」
「鷹羽とかいう人との結婚勧めたのも、たぶんその辺からよ。年上の余裕ある男性に会社経営を任せて、瑞華が色々遊んでくれるのを期待してるの。だからそのオジサマと瑞華が出かけて食事に行くの、本当に嬉しそうに話してたもの」
「…」

瑞華は黙りこくるしかなかった。
確かに鷹羽氏との婚約で『会社に援助を受けているから断れない』と両親に言われたことは一度もなかった。
良い相手だからと、推し進められてきた気がする。

それに逆らうように勉強に勉強を重ねて来たものの、中々認めてくれないどころか、更に優秀な『九条風人』と比べられることに落ち込んだりしていたが、それは認めていなかったというよりも、心配されていた、という。
俄かには信じがたいところもあるのだけど、言われてみれば、そういえばと思う点も多かった。

両親が認めてくれないことで、瑞華は更に勉強し、瑞華が勉強に没頭することで両親は、結婚が必要だと思ったり、より優秀な人間を褒めてやる気をそごうとする。
なんという悪循環なんだろう。

これでは瑞華の独りよがり、『自己犠牲っていう安っぽいヒロイニズム』と言われても仕方ないかもしれない。

結婚しなくてもいい。
そう頭で反芻してみて、首を傾げた。
それを会社の援助の問題があるから断れないと思い込んできたのは、誰でもない瑞華自身なのか、と。

いや、もう一つ要因がある。
鷹羽一王の態度だ。
瑞華は絶対に自分と婚約、結婚すると思わせる態度。
その根拠に鷹羽氏なしではいられない華屋の現状。

それを楯に、瑞華を捕らえている態度は、瑞華が断らないと確信しているような気さえする。

結婚しないと言えばどうなるか。
そう考えた先に鷹羽の目線を思い出して、理由も分からず小さく震えた。
両親の方が鷹羽氏を勧めるのが会社の為ではないと思っても、じゃあ単に断ってしまえばいい、と思うことは瑞華には出来ない。
してはいけない気がする。

「ちょっと、暗いんだけど。どうしたの?」
瑞華の表情に気付いた美沙の言葉に、首を振った。
「ううん…なんだかちょっと反省を」
「しなくていいわよ。いつも瑞華は一生懸命やって失敗してるんだから。私はそういうの好きよ」
「…ありがとう」
一生懸命やっても失敗なのかと、思わなくもないが、美沙の笑顔に裏表はない。
素直にお礼を言えば。
「うん。だからちゃんと私の目が届く場所で失敗してね」
暗にちゃんと連絡しろと言われてるのが分かって、瑞華は苦笑した。

「とはいえ、瑞華のご両親、もう絶対結婚が瑞華の幸せだと思ってるから、今更ひっくり返すのは大変そうだけど大丈夫?」
「……」
さりげなく確信をつく美沙の言葉には返事のしようがなかった。
大丈夫というためには、華屋の現状を打破することが瑞華にとっては絶対条件だ。
会社の現状を知らなすぎる事実を再認識すれば、答えなど出るはずもない。

でも、ならば。
瑞華の中で何かが切り替わる気がした。
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