59 / 95
第四章
鷹は狡猾に獲物を見据える 1
しおりを挟む
『今日は会えない?』
電話だと言うのに、威圧的な声の迫力は損なわれることがない。
鷹羽一王のその声は、別段怒りなど滲んでいるわけではない。
ただ怪訝そうに、意味を確認するように吐き出されただけだと言うのに、瑞華は思わず体を固くした。
「すみません、少し調子が悪いみたいで。夏風邪かと思うんですけど」
なるだけそれっぽく聞こえるように言葉を選ぶ。
友人である安達美沙と話した後、自分の立ち位置をもう一度考え直してみようと思った瑞華は、鷹羽氏と少しでも距離を置こうと決めた。
だからこそ、掛かって来た電話に今までにはなくお断りをすることにしたのだ。
鷹羽と会うと瑞華の心身の負担は大きい。
思考も影響を受けてしまう気がする、と思えば、やはり最善の選択は会わないことに思えた。
上手く断らなければと、なるだけ柔らかな言葉を選んだ。
「鷹羽さんに感染しても申し訳ないですし」
『感染して治りが早くなるなら、一向に構わないが…』
ふむ、と何か考えるような声の後に、揶揄うような言葉が繋げられた。
『この間の悪戯が、お気に召さなかったというなら謝るが?』
「……」
その言葉の意図するところが分からないはずもなく、瑞華は押し黙った。
口調から反省しているとも思えないし、そんな性格でもないだろう。
暗に仮病だろうと言われていることも察してしまう。
だが、認める気にもなれなかった。
『まあ、仕方ない。夏風邪だということにして、時間をあげよう』
「……」
『次に連絡するときには、良い返事が貰えることを期待しているよ』
「すみません…」
瑞華が絞り出しように言葉を出すと、鷹羽は低く笑った。
『瑞華さん、そこはお礼を言って頂きたい』
「……」
何気なく言われた言葉だったが、その響きは、瑞華に深く響いた。
貰った時間のお礼を望んでいるこの男は、既に瑞華を所有しているのだという様子である。
反抗する気持ちが一瞬湧き起こり、それからふっと我に返った。
美沙と会う前の瑞華なら、ここで反抗したりはしない。
ならば今、反抗するのが正しいこととは中々思えなかった。
だとすれば、例え嫌だと思っていても、相手の望むような言葉を口にするほうが良い。
「お時間を下さって…ありがとうございます」
その言葉は、意思がなくても力を持つように瑞華の心を傷つける。
だが、今は大丈夫。大丈夫、だからと言い聞かせた。
『構わないとも』
機嫌の良さそうな言葉で鷹羽は言った。
『次回は私をがっかりさせないと、思っているよ』
その声は、瑞華の決意を揺らがせるほどに、どこか余裕を持っていて。
怖いと思う心をひたすら煽る響きを持っていた。
電話だと言うのに、威圧的な声の迫力は損なわれることがない。
鷹羽一王のその声は、別段怒りなど滲んでいるわけではない。
ただ怪訝そうに、意味を確認するように吐き出されただけだと言うのに、瑞華は思わず体を固くした。
「すみません、少し調子が悪いみたいで。夏風邪かと思うんですけど」
なるだけそれっぽく聞こえるように言葉を選ぶ。
友人である安達美沙と話した後、自分の立ち位置をもう一度考え直してみようと思った瑞華は、鷹羽氏と少しでも距離を置こうと決めた。
だからこそ、掛かって来た電話に今までにはなくお断りをすることにしたのだ。
鷹羽と会うと瑞華の心身の負担は大きい。
思考も影響を受けてしまう気がする、と思えば、やはり最善の選択は会わないことに思えた。
上手く断らなければと、なるだけ柔らかな言葉を選んだ。
「鷹羽さんに感染しても申し訳ないですし」
『感染して治りが早くなるなら、一向に構わないが…』
ふむ、と何か考えるような声の後に、揶揄うような言葉が繋げられた。
『この間の悪戯が、お気に召さなかったというなら謝るが?』
「……」
その言葉の意図するところが分からないはずもなく、瑞華は押し黙った。
口調から反省しているとも思えないし、そんな性格でもないだろう。
暗に仮病だろうと言われていることも察してしまう。
だが、認める気にもなれなかった。
『まあ、仕方ない。夏風邪だということにして、時間をあげよう』
「……」
『次に連絡するときには、良い返事が貰えることを期待しているよ』
「すみません…」
瑞華が絞り出しように言葉を出すと、鷹羽は低く笑った。
『瑞華さん、そこはお礼を言って頂きたい』
「……」
何気なく言われた言葉だったが、その響きは、瑞華に深く響いた。
貰った時間のお礼を望んでいるこの男は、既に瑞華を所有しているのだという様子である。
反抗する気持ちが一瞬湧き起こり、それからふっと我に返った。
美沙と会う前の瑞華なら、ここで反抗したりはしない。
ならば今、反抗するのが正しいこととは中々思えなかった。
だとすれば、例え嫌だと思っていても、相手の望むような言葉を口にするほうが良い。
「お時間を下さって…ありがとうございます」
その言葉は、意思がなくても力を持つように瑞華の心を傷つける。
だが、今は大丈夫。大丈夫、だからと言い聞かせた。
『構わないとも』
機嫌の良さそうな言葉で鷹羽は言った。
『次回は私をがっかりさせないと、思っているよ』
その声は、瑞華の決意を揺らがせるほどに、どこか余裕を持っていて。
怖いと思う心をひたすら煽る響きを持っていた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる