散華へのモラトリアム

一華

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第四章

鷹は狡猾に獲物を見据える 2

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午後。

鷹羽一王はいつも通り、華屋の本社に挨拶を済ませてから、駐車場に向かった。
止めているのは来賓用だが、あることを確認するために 重みのあるカバンに入った幾つもの資料を抱えて、従業員専用駐車場に入る。
本来ならそこまで入ることは出来ないが、ここで鷹羽がどこにいたとしても、それを注意する人間はもはやいない。
そうして、ずらりと並んだ乗用車の中から一台、見逃しようもない車を見つける。
九条メーカーの車。 

花宮瑞華に夢中になっている大学生がいるということは、最近になって鷹羽の耳にも入っていた。
催事など、今までになかった企画が上がり、それを目にすれば自然と情報は入ってくるものだ。

鷹羽の唇の端が微かに上がる。
自分の物になるものに虫が寄ってくるのは悪い気分ではない。
ここ最近の華屋の社長が、鷹羽に対する態度を変えたかと言えばそうではないが、相手先からの意見や行動はしっかりと変わってきているのだ。

九条グループと華屋では、分野違いがはなはだしく、手を出すとしては企業としてのメリットが少ない。しかし、花町宮の経営陣に数字を動かす力があるとは思ってもいなかった。 

やはり九条風人という青年が個人的感情で、手を出してきていると思うのが妥当である。
それには華屋に対してのかなりの知識もなくてはならないはずではあるが。

花宮瑞華。 

あのお嬢さんがどれだけのものなのか、が鍵だ。 
九条グループがどの程度絡んでいるかとすれば判断には難しとはいえ、油断をするように愚かでもない。
物事はきちんと手筈通りなのだから、一つずつ自分の思うものになっているのを確認しながら、見るべきところを見ていればそれでいいのだ。


しかし。 


鷹の獲物として狙われているのだ。 
どんな動きも些細なこと。 
本当に狙われていることを「解っている」なら。今のこの動きは遅い。 


せいぜい、楽しませてくれ 


機嫌よく、鷹羽はその場を立ち去った。 

会社も、瑞華お嬢さんも 

獲物のデザートとして。
甘い香りで、さあ召し上がれと皿の上に乗っているに過ぎないのだ。 
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