散華へのモラトリアム

一華

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第六章

風雅公の企み 2

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「ほら、頼まれてた資料」
渡された封筒の中を見れば、資料には、華屋の今の取引先とテナント一覧と横にチェックが入れてあり、それが頼んでいた、鷹羽が関わっている分だということが分かった。

「ありがとうございます」
お礼を言うが、その量をみるとあまり嬉しい声にはならない。
以前よりも確実に増えているのだ。
一見しても何を取り扱っているか分からない名前もいくつかあり、少し調べてみようと思いつつ資料を眺めた。
今更だったとしても、鷹羽のあの態度の理由を確認するつもりがあった。
瑞華にとって、一番大切なのは華屋の将来。それを取引に使う鷹羽の切り札が何なのかくらい、理解しておきたい。

「そんなもん見て、どうするの?」
「…どうするか、見てから決めようと思いまして」
軽く聞かれて、瑞華は微笑んで答えた。
へえ、と返事をしてから、風人は瑞華を探るように見る。
その視線に含みがあるような気がして、瑞華は顔を上げて、言葉を促した。

「鷹羽さんとは会ってる?」 
「…」

一瞬、どう答えたものかと視線が彷徨う。
あまり風人に聞かれたい質問ではなかった。
ここ最近の鷹羽の言動を教えたりしていないが、聞いて愉快なものでもないだろう。
特に、瑞華がどこか諦めてしまっていることを、九条風人には知られたくない。
『絶対助けるから』
その言葉に、心が揺り動かされてしまっている自分に気付けば、尚更だ。

瑞華のその様子を、どう捉えたのか、風人はため息をついた。

「会わない方がいいと思うぜ?」
「そういうわけにも…」
目線を逸らしたまま、曖昧に笑う。
その態度がまた思わせぶりになってしまったのだろうか、風人の声は低く響いた。

「会わせたく、ねえんだよなあ」
どきりとして。
一体どういう意味なのかと、風人を見上げて。

ゆっくりと視線がこちらに向かい目が合って。
その色の深さに、言葉を失った。 

見惚れた、のかもしれない。 

揶揄からかうような視線でもなく、冷たい視線でもない。
真っ直ぐに何か想うことがあるという意思が含まれているその視線に、瑞華は動けない。
「そう言っても、聞かないだろうし」

思案するように、瑞華を見つめて発せられる言葉に心までを絡めとられる。
ゆっくりと、風人の手が伸びた。
そして手を取られた、と思った次の瞬間に。

抱き寄せられていて、息がとまりそうになった。
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