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第七章
瑞々しく咲く華とならむ 5
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そして言われたのは、思いもかけないことだった。
「最初に華屋に案内される前に、瑞華ちゃんのお父さんには一度会ってたんだけどさ」
「…初耳なんですが」
「初めまして、なんて挨拶しなかっただろう?」
悪戯めいて笑うが、そんなことは覚えていない。
覚えているのは…父が意外なほど早く、立ち去ったことだろうか。
「何の情報もなしに、急に会社に行ったってやることないでしょ?しかも娘に懸想してる男だぜ?
父親としたらゆっくり話したいだろうし、それやられると何しに行くかわからないからね」
「まあ、そうですね」
「そのメモリの中身、瑞華ちゃんが以前に花宮のお父さんに渡した施策案一覧と予想される削減数字。後はテナントの分析やら、企画とか一通り。
俺に渡してくれてね。使えるのがあったらって。
それで参考にしてお仕事させてイタダキマシタ」
「え、私?」
瑞華は、マジマジとUSBメモリを見つめた。
確かに父には何度となく、経営見直し案や企画を渡したことがある。
それが全てこれに入っているというのだろうか。
「餅は餅屋、勿論多少手直しはしたけど。車の催事企画も案だけは中にあったけど、覚えてないの?」
…そういえば、そんな企画も立てたかもしれない。
瑞華の父は車好きだから。しかしそれはあくまで案の一つ。
風人が形にしたのだがら、別に瑞華の手柄のように言うこともないのに、と心の中だけで思った。
恐らく伝えても、同意は得られないだろう。
「それで照らし合わせて現状の資料見てたら、施策の割に減ってるはずの数字が減ってなくて、おかしいことに気付いたわけ」
いい親父さんじゃん、と言われ、くすぐったい気持ちになる。
自分の施策案など気にもかけてくれないと思っていたが、大事に取って置いてくれたことは素直に嬉しい。
だが、同時に気付いた。
ある程度、瑞華の資料を参考にしたとしても、それは少なくとも半年より前の資料だ。
やはり風人自身の手腕がなくては、こうも上手くいかなかっただろうし、例えそれらがなくても、遅かれ早かれ結果は出した筈だ。
もしかしたら、もっと良い案が出せたかもしれない。
それでもあくまでUSBメモリにこだわったのは、恐らく今後、瑞華が華屋で自分の意見を出しやすくするため。
――やはり、風人さんが頭一つ分上を行っている。 叶わない。
湧いてきた感情に目を伏せた。
「悪かったな。怖い思いをさせて」
瑞華の様子に何を思ったのか、風人さんが申し訳なさそうに言葉を掛ける。
へっと思い、横から――鷹羽さんの会社から出るのに自然だろうと助手席に乗せられたのだが――見つめる。
「あ、いえ・・・」
咄嗟に曖昧な返事しか返せずに俯いてしまう。
「まあ、確かに。鷹羽さんと距離置かせるのにわざわざキスマークつけるなんて、やり過ぎと思いますけど・・・」
「あぁ、それは」
憎まれ口を叩くと、風人は何か言いかけて、ふっと笑った。
「反省してる」
瑞華は色々な感情が溢れてきそうで、ぐっと我慢した。
違う。本当に言いたいことはこんなことじゃない。 本当に言いたいことは。
…言わないといけない事は。
「ありがとう・・・ございます」
ようやく告げてから、もう一言言いかけて。
飲み込んだ。
それは難しくて、言えなかった。
「最初に華屋に案内される前に、瑞華ちゃんのお父さんには一度会ってたんだけどさ」
「…初耳なんですが」
「初めまして、なんて挨拶しなかっただろう?」
悪戯めいて笑うが、そんなことは覚えていない。
覚えているのは…父が意外なほど早く、立ち去ったことだろうか。
「何の情報もなしに、急に会社に行ったってやることないでしょ?しかも娘に懸想してる男だぜ?
父親としたらゆっくり話したいだろうし、それやられると何しに行くかわからないからね」
「まあ、そうですね」
「そのメモリの中身、瑞華ちゃんが以前に花宮のお父さんに渡した施策案一覧と予想される削減数字。後はテナントの分析やら、企画とか一通り。
俺に渡してくれてね。使えるのがあったらって。
それで参考にしてお仕事させてイタダキマシタ」
「え、私?」
瑞華は、マジマジとUSBメモリを見つめた。
確かに父には何度となく、経営見直し案や企画を渡したことがある。
それが全てこれに入っているというのだろうか。
「餅は餅屋、勿論多少手直しはしたけど。車の催事企画も案だけは中にあったけど、覚えてないの?」
…そういえば、そんな企画も立てたかもしれない。
瑞華の父は車好きだから。しかしそれはあくまで案の一つ。
風人が形にしたのだがら、別に瑞華の手柄のように言うこともないのに、と心の中だけで思った。
恐らく伝えても、同意は得られないだろう。
「それで照らし合わせて現状の資料見てたら、施策の割に減ってるはずの数字が減ってなくて、おかしいことに気付いたわけ」
いい親父さんじゃん、と言われ、くすぐったい気持ちになる。
自分の施策案など気にもかけてくれないと思っていたが、大事に取って置いてくれたことは素直に嬉しい。
だが、同時に気付いた。
ある程度、瑞華の資料を参考にしたとしても、それは少なくとも半年より前の資料だ。
やはり風人自身の手腕がなくては、こうも上手くいかなかっただろうし、例えそれらがなくても、遅かれ早かれ結果は出した筈だ。
もしかしたら、もっと良い案が出せたかもしれない。
それでもあくまでUSBメモリにこだわったのは、恐らく今後、瑞華が華屋で自分の意見を出しやすくするため。
――やはり、風人さんが頭一つ分上を行っている。 叶わない。
湧いてきた感情に目を伏せた。
「悪かったな。怖い思いをさせて」
瑞華の様子に何を思ったのか、風人さんが申し訳なさそうに言葉を掛ける。
へっと思い、横から――鷹羽さんの会社から出るのに自然だろうと助手席に乗せられたのだが――見つめる。
「あ、いえ・・・」
咄嗟に曖昧な返事しか返せずに俯いてしまう。
「まあ、確かに。鷹羽さんと距離置かせるのにわざわざキスマークつけるなんて、やり過ぎと思いますけど・・・」
「あぁ、それは」
憎まれ口を叩くと、風人は何か言いかけて、ふっと笑った。
「反省してる」
瑞華は色々な感情が溢れてきそうで、ぐっと我慢した。
違う。本当に言いたいことはこんなことじゃない。 本当に言いたいことは。
…言わないといけない事は。
「ありがとう・・・ございます」
ようやく告げてから、もう一言言いかけて。
飲み込んだ。
それは難しくて、言えなかった。
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