拝啓、お姉さまへ

一華

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第一章 4月

お姉ちゃん、て呼んで? ★6★

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「お姉...さま?」 
言って、茶化すように笑いを浮かべる。 
やっぱり急にお姉ちゃんなんて私には、無理!
恐る恐る志奈さんを覗き込んで、すぐさま謝ろうかと思っていると。 

「ふぅん」 
志奈さんは満更でもないように声をあげて、目を瞑り考え込んだ。 
なんだろう?この反応は。

「あ、あの。志奈さん?」 
「あーうん。なるほどねぇ」 
うんうん、とうなづいてから、なにやら納得したような顔で指でクルクルと髪を巻きつけて、遊んでいる。 
なにがなるほど、なんだろう。 

「あの、すみません。不快でしたか?」 
もしや怒ったのかと、しどろもどろに取り繕おうとするが。
それより早く、ポケットから何やら取り出して、はいと渡された。 

小さなブロンズのバッチ?

「なんですか?これ」 
手で転がして形を確認する。円形のバッチの表面は一対の翼が描かれていた。その他には特に特徴はない。 
「お守り。あげるわ。これが私の秘密兵器だったの」 
「これが?」 
「そう。制服の襟元にこれを付けておくと、上級生の干渉がぐんと減るの」

バッチを眺めるが、全く意味が分からなかった。 
「何でですか?」 
「質問したければ、お姉ちゃん教えて?と毎回言ってくれなきゃ嫌」 
ぷいっと顔をそらされる。
とは言っても本当に怒ってる感じではない。どこかからかっているような横顔だ。
 
改めて、バッチを眺めた。 
志奈さんの秘密兵器。
襟元にバッチなんて。まるで何かの職業を示すようにしか思えない。

質問したくて志奈を見るが、愛らしくも不敵な笑みで見つめ返され言葉を失う。
それをこの場で聞くには、お姉ちゃんと今度こそ呼ばなければならないようだ。

すでに挑戦する気力は残ってなかった。 
「とりあえず、ありがとうございます」 

付けるかどうかは学園に行ってから決めれば良いことだ。 
秘密兵器というからには、何かあるのだろう。 
分からないまま、持っているのことには、少し心配もあるけれど。
新しい不安を手に入れた私に、そんなこととは知らないはずの志奈さんが心配そうにしている。

「柚鈴ちゃん。困ったことになったら、ちゃんと相談してね?」 
「困ったこと、やっぱりありそうなんですか?」 
怯えつつ聞き返すと、志奈さんは目を見開いた。
それから少し答えに迷ったように、沈黙する。

え?どうしたの?
その理由が分からず、なにか声をかけようかとした時
「分からないわ。そもそも私はあまり困らない方だから」 
そう言いながら笑う志奈さんは、どこか寂しそうに笑ってみせた。
「柚鈴ちゃんが言ってくれなかったら、困っててもきっと分からない。だから困ったことがあったら教えてね?」

寂しそうな笑顔は、いつも微笑んでいる志奈には珍しく思える。
だから思わず、素直に頷いていた。
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