拝啓、お姉さまへ

一華

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第一章 4月

お姉さま、事件です ★1★

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遥先輩が扉を開けると、入って来たのは、制服姿の花奏だった。
部屋の中の時計を見れば、それなりに遅い時間だ。
部活帰りなのだろうか。
入寮者以外の寮への立ち入りは、時間が決まっているて、かなりぎりぎりの時間と言える。

「こんなに遅い時間に寮に来るなんて、どうしたの?」
この部屋の持ち主である、遥先輩もそう思ったのだろう。ツインテールを揺らして尋ねると、花奏が珍しく神妙な表情を浮かべていた。

「席を外しましょうか?」
気を使った凛子先輩が立ち上がりながら聞くと、花奏は慌てて首を振った。
「いえ、大丈夫です。むしろ凛子先輩にも相談出来たら良い気もするくらいで」
その言葉に、凛子先輩が何事かと言わんばかりに眉を顰めると、遥先輩は部屋の扉を閉め、花奏を中の方へ進ませた。

私たちは話を聞いていいのかと、幸と目を見合わせたが、花奏は気にした様子もなく、話始めた。
「ちょっと気になる話を聞いたんで、お耳に入れとこうかと」
「なに?まさか入学式の話じゃないわよね」
「え?なんですか、入学式って」
遥先輩の問いかけにきょとんとした様子を見ると、どうやら志奈さんの噂ではないらしい。

「あの、陸上部のことなんですけど」
「陸上部?」
花奏が言葉を繋げると、遥先輩は凛子先輩と顔を見合わせた。
「薫が、高村薫さんが、陸上部の二年生からの助言者メンターのペアへの指名を断った話がこじれているみたいで。それで私、本当は薫に会いに来たんですけど、部屋にいなかったので」
思いがけず、薫の名前が出て来て驚いてしまう。
しかもどうも穏やかな話ではなさそうだ。
あれから薫からは陸上部の話は出なかったのだが、しっかり話は進んでいたらしい。しかも、良くない方向に。
「どういうことなの?」
凛子先輩が聞くと、花奏は話をわかりやすくまとめた。

それによると、どうやら入学式の次の日、薫は助言者メンターのバッチを渡そうとした陸上部の次期部長と言われている二年生に、きっぱり断りを入れたらしい。
流石さすがに理由は本人には言わなかったようだが、そもそも断ったこと自体が陸上部では大問題になった。
陸上部では、先輩の申し出を後輩が断るなんて前例がなかったらしい。
しかも薫は陸上部1年のエースである。バッチは受け取って当然という空気があったようだ。
結果、薫は反省を求めた二年生一同から練習の参加を断られたのだが「じゃあ自主トレします」と1人別メニューを始めたらしい。この太々しさに、二年生の心象はとても悪くなったようだ。
二年生が連携して、薫は部活内で完全に孤立状態で数日過ごすことになった。

ようやく事態に気付いた陸上部部長が問題の解決をしようと、二年生と薫の話を聞き始めたが、これが中々上手くいかない。
二年生の先輩の方は陸上部部長のメンティでもあるが、しっかりとした家系を続けるために薫にバッチを受け取らせたいと言う気持ちが強いのだと言う。
どうしてもペアにしたい二年生と、ペアになる気がない薫なのだから、話は纏まりようがないのだ。
そんな状態が続き、どちらかと言えば二年生よりで、薫がバッチを受け取れば良いと思っている陸上部部長に、薫はペアになりたくない理由を言ってしまう。
『自分より記録が出ないひとに教わることはない』
それを聞いた陸上部部長は何を思ったのか、自分がくだんの二年生とのペアを解消して、新しく薫の助言者メンターになると言い出したのだという。

薫は勿論断ったが、それ以上に陸上部の二年生が激昂したらしい。
他の部員を巻き込んで大騒動になり、とうとう陸上部は部活動どころではない状態になってしまったと言うのだ。
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