41 / 282
第一章 4月
お姉さま、事件です ★2★
しおりを挟む「その話が、新体操部までいってるって言うの?」
遥先輩が驚いたように聞くと、花奏は頷いた。凛子先輩は、額に手を置いてため息をついている。
「結局、今日は薫がやってられないって帰ってしまったんで、お開きになったみたいなんですけど」
「あら、まぁ」
呆れたのか、感心したのか。
遥先輩が思わず、と言ったように声に出した。
確かにそこは流石、薫だ。
激昂する先輩と、自分がペアを解消して薫をメンティにすると言う陸上部部長とで、騒然とした状態から、さっさと1人帰ってしまうのだ。
中々の根性では出来ない。
「ということは、薫さんはもう帰って来ているのね」
「多分」
その姿を見ていない花奏は自信なさそうに頷いた。
遥先輩は、そうと相槌を打ってから凛子先輩を振り返った。
「どうする?凛子」
「そうね」
思慮深けに目を伏せてから、凛子先輩は顔を上げた。その表情はどこか冷静を装っていて、なにを考えているかは見えにくい。
「薫さんに相談する気があるか分からないのに、出来ることなんてあるかしら」
「あら、冷たい」
凛子先輩の答えに、遥先輩は不満げにツインテールを揺らした。
「私はうちの花奏が相談してきたんだもの。寮長としても、トラブルには口を挟ませていただくわ」
きっぱりと言い切る遥先輩に、凛子先輩は落ち着いて言い返す。
「口を挟む方が感情が強すぎては、上手くまとまらないこともでてくるでしょう」
「あら、私の感情が強いみたいな言い方ね」
「遥はまっすぐすぎるのよ。いつでもね。それにあなたと運動部じゃ相性が悪いでしょう」
「だから話をまとめることが出来ないというの?」
「そんな意味では言っていないわ」
ゆったりとした口調で淡々とした対応で返す凛子先輩に、遥先輩は明らかにムッとしたような顔をした。
ちょ、ちょっと。これどうしたら良いの?
なんとも言えず険悪な雰囲気が立ち込め、どうすればいいか分からない一年生は三人でアワアワして目線を泳がせてしまう。
その時。
悪い空気を止めるように、ドアの方からコンコンと高い音がした。
「あの、すみませんが」
ハッとしてそちらを見ると。
いつの間に来たのだろうか。開いた扉に体重を預けるようにして、苦笑した薫が立っていた。
「私のことで色々申し訳ないんですが、ちゃんと自首してきたんで、とりあえず矛を収めていただけませんか?」
薫は肩を竦めてみせる。
「別に喧嘩なんかしてないわよ」
遥先輩は、ふと我に返ったように周りを見渡してから、ツンと顎を逸らしてツインテールを揺らした。
それから一度ため息をついて力を抜いてから、花奏を見る。
「とりあえず、あなたはお帰りなさい」
「えええ!?」
花奏が不満そうに声を掛けると、遥先輩は再度、ツンとそっぽを向いた。
「寮に部外者がいて良い時間でもないわ。夜道も危険になるでしょう。タクシー呼んであげるから、早く帰りなさい」
その言葉に花奏は慌てたように首を振る。
「良いですよ、タクシーなんて!分かりました!帰ります」
最後は拗ねたように言うと、遥先輩は眉を顰めた。
「良いわけないでしょう。あなた、何時だと思ってるの」
遥先輩の声が低くなると、さすがに花奏も怯んだ。
その可愛らしい姿に似合わず、迫力があるのだ。
しかも今は少々気が立っている。
「お、親に電話します。すぐ迎えに来てもらいます」
「本当でしょうね?」
「本当です!」
「よろしい。では、お帰りなさい」
頷いて許可を得ると、花奏はがっくりとうな垂れた。
本当は薫を気にして、わざわざ寮まで来たのだから帰りたくないのだろう。
気の毒にもなるが、確かに時間も遅いのでこればかりはどうしようもない。
花奏ちゃん、気を付けて帰ってね。
せめて心の中でそう祈って見送るしかない。
「皆様、ごきげよう」
花奏は全員に挨拶をすると、扉の前まで進んで、薫を見上げた。
その表情に何を感じたのか薫はふっと笑って見せた。
「心配掛けて、悪いね」
とポンッと花奏の肩を叩いた。
「べーつに」
少し照れたような顔をしてから、花奏はわざとらしくツンとした態度を見せた。
それからにっこり笑って。
失礼しますと花奏が帰っていくと、薫が中に入って来て肩を竦めた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
目の前で始まった断罪イベントが理不尽すぎたので口出ししたら巻き込まれた結果、何故か王子から求婚されました
歌龍吟伶
恋愛
私、ティーリャ。王都学校の二年生。
卒業生を送る会が終わった瞬間に先輩が婚約破棄の断罪イベントを始めた。
理不尽すぎてイライラしたから口を挟んだら、お前も同罪だ!って謎のトバッチリ…マジないわー。
…と思ったら何故か王子様に気に入られちゃってプロポーズされたお話。
全二話で完結します、予約投稿済み
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる