拝啓、お姉さまへ

一華

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第一章 4月

お姉さまの足跡 ★3★

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「私も部誌で見た分でしか知らないんだけど」
せめて自分が知っていることをと、幸が言葉を繋いだ。
「小鳥遊志奈さんって『全校生徒のお姉さま』だったらしいよ」
「はぁ」
よく意味が分からない。
「全校生徒のお姉さまって、なに?」
途方に暮れた目で、力なく口にすると幸はうんうん、と頷いた。
「気になるよね。それについては、後で調べよう」
「調べるの?」
「常葉学園で有名だったんだから、調べられるでしょう」

そういうと幸はにっこりと笑った。
「それでそろそろ入学式に来ていたこの人は柚鈴ちゃんとどんな関係なのか、ロマンスが聞きたいんだけど!」
「ろ、ロマンスなんてないよ」
「ロマンスはこの写真に溢れてるよお!」
なんだかんだ言っても全くぶれない幸が、印籠の様に、志奈さんと柚鈴が並んで立っている写真を突きつけた。

目が真剣だ。
確かに良く撮れていて、しかもとても仲よさそうな写真ではある。
あるのだが、ロマンスと言われると否定したくなる。

「な、なんでそんなに熱心なの?」
そう聞くと、幸は写真を見てウットリした。
「この写真が色んなトキメキを与えてくれるの」
「……」
うん。これは弥生さんもだけど、幸も困ったさんだ。
幸の目は、何か特別な素敵を見つけたようにキラキラしてて、困る。
本当に、おもちゃを発見した子犬だ。
そして今、おもちゃは柚鈴だ。遊ばれる側が嬉しいわけがない。

「そんなにロマンスを期待されても、困るんだけど」
「困ることはないよ。安心していいよ、我が友よ。ひとまず教えてくれれば、勝手にロマンスを妄想できる自信あるもん」
どんな自信なの?!
なんの安心もないどころか、かえって不安になったのだが、幸は拗ねたように口を尖らせた。
「この写真のために、今日は弥生ちゃんに会いに行くことになったんだよ」
「それを言われたら、弱いけど」
「会いに行ったら、とびきり美味しいオムライスが出て来て、余計帰りづらくなったし」
「それは、私のせいじゃないよね?」
思わず突っこむと、幸はじぃっと見つめてきた。
「そんなに言いたくないようなことなの?」
覗き込んだ瞳はまっすぐで、思わず言葉を失う。

言いたくないようなことかどうか。
改めて聞かれるとどうなんだろう。
確かに、常葉学園において有名人らしい志奈さんの妹ということは、誰にも彼にも知られることはあまり良いことではないように思えている。だが、部誌でしか志奈さんを知らなかった幸もに言いたくないかというと、そこまでではなかった。
義理とは言え、志奈さんの妹というのは事実なのだ。
そのこと自体を嫌だと思ったことはない。
そして幸は友人である。
大人しくこちらの言葉を待っている子犬みたいな幸をみると、なんだか、話しても良いかなと言う気になってきた。

そんな気持ちになると自然に口元が緩んでしまう。幸はそれに気づいてにっこり笑った。
これは仕方ない。
柚鈴は、話すことにした。
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