拝啓、お姉さまへ

一華

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第一章 4月

お姉さまの足跡 ★6★

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「私も、苗字が一緒という事で、驚かれたりしたので、出来ればお話しを伺いたいです」

そういうと、遥先輩はなるほど、苦笑しながら頷いた。
「小鳥遊さんは珍しい苗字だから、つい気になってしまうのよね。小鳥遊志奈様は、いろんな面でとても目立つ人だったし」
「色んな面で、ですか?」
「そう。部誌を見たなら知っているでしょうけど、昨年の生徒会長。普通科から生徒会長が立ったのは、常葉学園の理事が変わってからは初だったわ」
「それってすごいことなんですか?」
「どうなのかしら?」
遥先輩は首を傾げてから、微笑んだ。
曖昧な返事ではあるが、その表情から、遥先輩自身は凄いことだと思っているのが分かった。
「生徒会長は、生徒会を手伝う機会の多い特進科の生徒から出ることが多いのよ」
凛子先輩が付け加えると、遥先輩は頷いた。
「常葉学園は西クラスが一番人数が多いから、やっぱりそれだけでも人気があったわね。あとは一年の頃から『見守る会』という名前の先輩方のファンクラブがあったり」
「見守る会?」
「志奈さまは、入学してからすぐ、生徒会手伝いを始めて、助言者メンターも作らないと公言されたのよ。当時の生徒会長が決めたことだけど、本当にすぐ決まったから助言者メンターの申し出をしたくても出来なかった先輩方も多かったみたい。だから助言者メンター希望だった方々は勝手に後援会のようなものを作ってしまったの」
「それにしても、後援会、ですか」
志奈さんのことだから、入学すればすぐ、その容姿から目立つ存在になることは分かる。
とは言え、生徒会入りしても助言者メンターを持つことが出来るのに、持たないと言い切った理由も分からないし、『見守る会』が出来る理由も分からない。

遥先輩はにっこり笑ってから言葉を付け足した。
「最初は、2,3人くらいの先輩方がなんとなくそんな雰囲気になっただけだったみたいよ。でもその後、気難しいことで知られている『同窓会を取り仕切っているOGの方』を、手懐けてしまったことで話が進んだのよ」
「遥。手懐けるなんて、表現が悪いわ」
凛子先輩がたしなめると、遥先輩は肩を竦めた。
「凛子だって、今では随分困らせられてるんじゃないの?志奈様が卒業して、『あの方』がいつまでも大人しくしてるとは思えないもの」
「私のことは良いのよ」
凛子先輩は苦笑すると、遥先輩は肩を竦めてから、言葉を繋げた。
「志奈さまは、その立居振舞いでOGの方々から随分気にいられたのよ。そのOGの方々が先導して、『見守る会』が形になったのよ」
「え」

思わず声を上げてしまい、幸の顔を見ると、向こうも目を丸くしてこちらを見ている。
「それってつまり、OGの方が『見守る会』のメンバーだったってことですか?」
「そうよ。主体はあくまでも常葉学園の生徒だけど、OG公認なんて、常葉学園で正式に認められてる組織と変わらないわ。そうして志奈さまが成果を上げるたびに、人数が増えていったのよ」
「成果って」
言葉を返すと、凛子先輩が口を開いた。
「志奈さんは、トラブル解決が上手だったのよ。同窓会もだし、同級生や下級生の揉め事も、あの人にかかると不思議なくらい上手く収まっていたの」
そう言ってもう一口、ハーブティーを口に含む。
「入学してすぐから、まず生徒会が抱えていたOGとのトラブルを解決。上級生から可愛がられ、他校との交流も進んで指揮を取り、その後は生徒会会長に就任。その後も様々な生徒間のトラブルの解決に一役買い、下級生からは『皆んなのお姉さま』と慕われる。そんな方なのよ」
ざっくりとまとめてしまってから、凛子先輩は小さくため息をついた。
そのため息はどこか重い。
そんな功績のある生徒会長が前任者では、プレッシャーも相当なものの筈だ。
ため息に込められた重さはそのプレッシャーに対するもののようにも思えた。

「ご感想はいかが?」
遥先輩に問われて。
「なんか、すごいですね」
幸は、瞬きをしてから絞り出すように言ってこちらを見てくる。

「あ、うん」
頷いてから、ハーブティーを一口飲んだ。
なんだろう。柚鈴の心は複雑な気持ちだった。

いつも楽しそうに微笑んでいる志奈さんとしか思っていなかったが、在学中は上級生からも愛され、下級生からは慕われていた、とんでもなく憧れられた生徒会長だった。
その事実は、本当に想像を超えていて、その人が自分の義理の姉ということは、受け入れがたくもある。
だが、その様子は柚鈴は知らないし、志奈さんは既に卒業してしまっているのだから、人の話以外で知ることもないだろう。

もし、私がその立場だったら。
上級生からも下級生からも、そんな風に特別扱いされていたら。
なんだか、怖くて寂しいことのように思えた。

一瞬、浮かんだ考えを、間違っている気がして、ハーブティーと一緒に飲み込んだ。
足跡探しを楽しんでするつもりが、なんだか違う風に受け止めてしまっている自分がいるのだ。

志奈さんが私と同じように感じるかどうかは分からないんだから。
それを確信することだけは、辞めようと強く思った。
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