拝啓、お姉さまへ

一華

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第一章 4月

私の居場所 ★4★

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放課後、私服に着替えて薫を探すと、薫は外で草むしりをしていた。
今日は天気が良いにも関わらず、帽子すらしておらず、黙々と草をむしっている。
それも仕方ない。寮の庭は草が生える所が多く、今日中には終わりそうにもない。

「薫、手伝いにきたよー」
幸が手を振ると、薫は呆れたような顔をした。
「一応、建前とは言え罰則扱いなんだから、手伝っちゃダメなんじゃないの?」
「そうなのかな?」
幸が柚鈴の方を振り返り、目を合わせて首を傾げると、薫は肩を竦めた。
「そりゃそうでしょ」
「薫って意外と真面目だねぇ」
「おや、幸。意外っていうのはどういう意味かな?」
その言葉が引っかかったと言わんばかりに、薫が睨んでくる。

「せっかく来たんだし、何かさせてほしいという意味です!」
幸がむうっと頬を膨らませると、薫は日陰になっている場所を指差した。
「ひとまず気持ちだけもらっとくから、そこに飽きるまでいれば?」
そう言って、しゃがみこんで草むしりに戻ってしまう。
譲る気はないらしい。
帰れとは言われなかったわけだし、仕方なく幸と日陰に入った。
「せっかく手伝いに来たのに」
「はいはい。感謝はしてるけどね。草むしりとか結構好きだし、とりあえず今は良いよ。ありがとさん」
不満そうに口を尖らせた幸を、薫は宥めるように礼を言った。

その雰囲気は昨日のようなものはなく、いつも通りの薫だったので、一先ず安心した。
幸もそう思ったのか、座り込んでから、こっそり笑っている。

話しかけるのは良いかな、と柚鈴は薫に声を掛けた。
「そういえば昨年度の文芸部の部誌があってね。『憧れのあの人神7』ていうんだけど」
「何それ」
薫は鼻で笑う。少しばかり興味を引けたらしく、そのままの勢いで言葉を繋げる。
「緋村楓さんっていう去年の陸上部部長さんが載っているのを見たよ」
「へぇ。そうなんだ」
「すごく厳しい人だったみたいだね」
「聞いたことあるよ。まあ厳しいけど、教え方とか上手かったらしいし、良い先輩だって聞いてるよ」
薫は黙々と草をむしりながら、こちらを振り返りもせず、相槌を打つ。

「にしても去年の文芸部の部誌なんて、どうしたの?」
「私が文芸部に入ったんだよ」
幸が答えれば、へぇっと薫はちらりとこちらを一度振り返った。
「柚鈴も?」
「ううん。私は部活に入るつもりないから」
「ふうん」
背中を向けて、薫は気のない返事を返した。
「なのにわざわざその部誌を見に行ったの?あんた、そんなのに興味あったんだね」
「え?」
「過去の人気あった先輩方なんて、今のうちらには関係ない話じゃない?それとも知り合いでも載ってたの?」
「......」
鋭いツッコミに思わず言葉を失ってしまう。
沈黙してると、薫は一度振り返ってからまた背中を向けた。
「あぁ、悪い。なんか話したくないことだった?」
「い、いや。そういうわけじゃないんだけど」
「まぁ、気にしなさんな」

柚鈴の話を遮るように薫は軽く言った。
その態度に、逆に柚鈴は慌ててしまう。
「話したくないわけじゃないんだよ。なんというか、その」
「んー?」
こ、これは難しい。
この聞く態勢の全く出来てない薫に、何をどう説明すれば良いのか。

友達に話したくないような話ではないが、軽く話す内容でもない。
いや、『義理のお姉さんが部誌に載ってるって聞いて、見せてもらってたの』って、もしかしたらこの状況で言っても問題なく軽く済む話だったりするだろうか。
そんなことを一人、ぐるぐる考えていると、幸がすくっと立ち上がった。
薫の前まで進んでいく。

「薫は一先ず、ちゃんとこっち見て話を聞けば良いと思うよ」
腰に手を当てて、きっぱり言った。
薫は幸を凝視してから、頷いて、くるりとこちらを向いた。
柚鈴がぎょっとしている間に、近づいてきて、目の前で座り込んだ。
話を待つの姿勢だ。

「よろしい」
幸は頷いて、柚鈴の隣に戻って来て座った。
ここでこんなに素直に、薫が幸の言うことを聞くとは思っていなかったが、そこは感じることがあったのかもしれない。
なんだかんだで、話すための形が整っていた。
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