拝啓、お姉さまへ

一華

文字の大きさ
50 / 282
第一章 4月

私の居場所 ★5★

しおりを挟む
「あのね」
柚鈴は薫に話し始めた。
「常葉学園の去年の卒業生に私の義理のお姉さんがいるんだ」
「義理?」
流石に薫は驚いたように目を見開いてから、一度幸を見た。
幸が黙って頷くと、視線を柚鈴に戻す。
義理は義理だよ。ちゃんと聞いてね、といった様子だ。

「うん。この春にうちのお母さんの再婚して出来たお姉さん」
「そうなんだ」
「それでなんか、常葉学園ですごく有名な人だったみたいで」
「あぁ、部誌に載ってたんだ」
そこまで聞くと薫は納得したという風に頷いた。
「うん」
「そりゃ、すごいじゃん」
ふっと笑われて、思わずその笑顔に見惚れる。
「うん。すごい、よね」
釣られて思わず同じことを繰り返す。
志奈さんは、部誌に載っててすごい。

ただ、それだけの言葉だけど、そうか、そうだなと納得する。
薫のどこまでもシンプルな言葉は全く他意はなさそうだった。
幸とも違い、全く前年度の生徒会長の有名具合も、部誌での持ち上げられ方も知らない薫にとっては、あっさりしたものだ。
その反応が、逆にしっくりとして、なんだか安心した。

柚鈴が納得した顔になったことに気付いた薫は、軽く笑ってから改めて草むしりに戻った。
それだけ。
変に詮索することもないし、もちろん柚鈴を哀れむこともない。
ただ、ちょっとした世間話をしただけ、という様子が、幸の時とはまた違う安心をくれた。

よし、と立ち上がり、薫の横に並んで、ついに草をむしり始める。
それを見た幸も草むしりを一緒に始めた。

「いや、手伝わなくていいって」
「これは今の話に付き合ってくれた分だから」
「そうそう。それにせっかくだし」
二人で薫を黙らせて、黙々と草をむしり続ける。
しばらく黙って専念してると、なんだか3人で草むしりをしていることが楽しくなってきた。

そのせいなのか、急にどうしても2人に言いたくなった言葉が出てきて、ウズウズしてしまう。
2人の様子を見て、草をむしって、また様子を見て。
そうして迷ったけど、ついに口にしてしまった。
「なんか私、2人とも好きだな」

一瞬間があって。
「そりゃ光栄だ」
と薫が軽く笑えば
「なんか青春だね」
と幸が目を細めて笑った。

一人になれる場所を探して、常葉学園に来た。
その気持ちに嘘はなかったし、自分を迷子にしないために、どうしても必要だったと思う。
そう、私は迷子になりそうだったんだ。
自分の進んでいた道がよく分からなくなって。
でもこうして選んだ道で、もしかしたら選び方間違ってたかもなんて思ったりもするけど。
自分の居場所があるんだな、って。この道は正解だなって思えてきて。
なんだかとても嬉しくて、幸せな気持ちになっていた。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

目の前で始まった断罪イベントが理不尽すぎたので口出ししたら巻き込まれた結果、何故か王子から求婚されました

歌龍吟伶
恋愛
私、ティーリャ。王都学校の二年生。 卒業生を送る会が終わった瞬間に先輩が婚約破棄の断罪イベントを始めた。 理不尽すぎてイライラしたから口を挟んだら、お前も同罪だ!って謎のトバッチリ…マジないわー。 …と思ったら何故か王子様に気に入られちゃってプロポーズされたお話。 全二話で完結します、予約投稿済み

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

熟女教師に何度も迫られて…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
二度と味わえない体験をした実話中心のショート・ショート集です

処理中です...