拝啓、お姉さまへ

一華

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第一章 4月

お姉さまと一緒に ★1★

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その夜。
もう少しで寮の訪問者の許可された時間が終わろうと言う頃。
凛子先輩は、陸上部の有沢部長とそのメンティである前田光希みつきを連れて帰ってきた。二人とも部活着で着ていたジャージのままでの訪問だったが、いつになく無残な格好だ。
くたびれた表情もだし、髪は汗を流しすぎたせいなのかグシャグシャだ。
ジャージも随分土がついている。
ただ、眼だけは憑き物でも落ちたようにスッキリしていた。

時間も時間なので中には上げず、二人には玄関口で待ってもらい、薫が部屋から呼ばれた。
凛子先輩と遥先輩は立会人のように、玄関に立っている。
幸と柚鈴も気になって、玄関の音だけは聞こえる壁の先に二人並んで様子を伺う。
今日は薫が、寮の倉庫掃除をしていたため、帰ってきてから柚鈴も幸も手伝う以前に発見することが出来ず、ようやくさっき顔を合わせたばかりだった。
お陰で薫には、幸から「今日は陸上部で元部長がスペシャルメニューを指示して、全員すっごくしごかれたから、薫は明日から部活行っても大丈夫」という、分かるような分からないような話しか聞かせることが出来ていない。
きちんと説明する暇もなく、薫の『何言ってるの?』の顔だけが印象に残る無駄説明になってしまった。というわけで心配で覗いているわけだ。

「こりゃ、今日は随分張り切りましたね」
二人の先輩を見て、薫は驚いたように呟いた。
前田先輩は少しむっとした表情を浮かべたが、大きく息をすって呼吸を整えてから、真摯な表情を作って言った。
「高村さん。今回のこと、私のメンティにならないと言うことで、あなたの練習を妨げたことを謝ります。ごめんなさい」
そして勢いよく頭を下げた。
有沢部長はその様子を頷いて見守ってから薫を見た。
「私も強引に今回の件を推し進めようとして、ごめんなさい。光希とペアを解消して、高村さんとペアを組もうと言ったことは撤回します。私のバッチは光希が泣いて逃げ出したいと言うまでこの子に預けようと思うの」
そう笑って言うと、薫はにぃっと笑い返した。
「前田先輩が『泣いて逃げ出したい』ですか。有沢部長に噛みついてでも離れそうにないから大丈夫そうですね」
「どういう意味よ」
前田先輩は顔を引きつらせて言った。
「いや、前田先輩、そういう執念は強そうだなって」
「はあ!?」
薫が真顔で答えると、前田先輩は思わずと言った様子で反応した。
有沢部長がふっと笑い、凛子先輩は呆れたように口を出す。
「薫さん、相手は真剣に謝りにきているんだから、茶化すのはどうかと思うわよ」
「そうですね」
注意されると薫はあっさりと納得して、先輩方に頭を下げた。
「今回は色々生意気なことを言って申し訳ありませんでした」
その様子に遥先輩も肩を竦めて安心したように笑った。

「じゃあ、高村さん。明日から部活に復帰してちょうだい。寮長からの罰則という建前も明日までよね?」
遥先輩はぎょっとして、有沢部長を見るが、嫌味というわけではないらしく穏やかな表情だ。
つまり悪意を持って言っていないということに気づいて複雑そうな顔をした。
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