拝啓、お姉さまへ

一華

文字の大きさ
74 / 282
第一章 4月

お姉さまと一緒に ★3★

しおりを挟む
「良かったあ」
柚鈴の部屋に入ると、幸はほっとしてようにため息をついた。
二人で床に座り込んで脱力する。
「うん、良かったね。これで薫も明日からは陸上部に戻れそうだし」
「うんうん。大学までつけたこともばれてないみたいだったし」
「つけてたのか」
ぱっと扉が開いて薫が覗き込み、幸が固まる。
「なるほど。私が言ってないのに、凛子先輩が大学に行ってたことを知ってたわけだ」
「か、薫!勝手に部屋に入るのは良くないと思うよ!プライベートだよ!」
「幸。あんた、どの口でそれを言ってるの」
「はう」
痛いところを薫に突かれて、幸は言葉を失った。
まあ確かに後をつけた私たちがプライベートを主張しても仕方ない。
「ごめんね」
柚鈴が床に座ったまま謝ると、薫は肩を竦めて、柚鈴のベットに腰を下ろした。

「まぁ、いいさ。ことは収まったんだし。でもどうやったの?」
「え?」
「え、じゃないよ。今回の件どうやって収めたの?」
「それはえっと」
幸が言葉につまり、柚鈴が困ったように笑った。
「一応、先輩方には内緒にしなきゃならないんだけど、いいかな?」
「は?そうなの?」
薫はそう言うとドアを開けて、外で誰か聞いていないか確認してから、再度中に入った。
「いいよ。私は幸よりかは顔に出ないから大丈夫」
「正直者なんだよ」
幸がねたように言ったのに思わず笑ってしまいながら、柚鈴は昨日の話を薫に聞かせた。

「へえ」
話を聞き終わると、納得したように薫は頷いた。
「そりゃ、柚鈴のお姉さんには随分、世話になったんだな。真美子さんって人が、黙っておいてくれって言ったのも了解したよ。確かにこんなに見事に収める人が前生徒会長じゃあ、凛子先輩も気苦労もプレッシャーも絶えないだろうね」
「志奈さんはそういうのは全然気にしないみたいだけに、私には凄いのか凄くないのか分からないよ」
柚鈴が正直に言うと、薫は気にしないように笑った。
「大物なんじゃない?まあ、私はお陰で助かったからどっちでもいいけどね」
「そういえば、真美子さんって」
幸が思い出したように言い出した。
「去年の生徒会副会長さんだねえ」
「そうなの?」
「そうだよ。柚鈴ちゃんにも見せた文芸部の部誌に載ってた一人だもん」
部誌というと『憧れのあの人~神7~』のことだろうか。
それに関しては、ほとんど志奈さんのページしか見てなかったから、全く気付いていなかった。
「そうか。生徒会にいたから、凛子先輩たちのことも気にしたんだね」
納得したように頷いた。
「笹原真美子さんは『氷の才媛』って出だしだったんだ。前生徒会長である志奈さんの参謀とも言える唯一無二の存在らしいよ」
幸は部誌の内容を思い出しながら言う。
「参謀って歴史小説かなんかみたいだな」
薫が微妙な顔で言うと幸は、困ったように笑った。
「そこは文芸部ならではの装飾かもね」

とは言え『氷の才媛』とは良く言ったものだ。
あの冷静な、頼もしさはあるが冷たく感じる視線を良く表している。
しかしあの様子だと、志奈さんが真美子さんの存在を認めながらも、話をたまに聞かずに好きにやってる気がする。
なんだか申し訳なくなってきた。
とは言え、柚鈴がコントロール出来る話でもない。

「幸は良く覚えてるね」
「なんか物語みたいで面白くて」
幸はキラキラと目を輝かせた。
「そのうち、陸上部エースたる薫も何か通り名がついちゃうかもねー。文芸部部誌に載ってさぁ」
「冗談でしょ?」
薫は実に嫌そうに顔をしかめた。
幸はふふっと笑う。
「つかなかったら私が付けちゃうから安心して」
「余計迷惑だって」
薫は唸って幸を威嚇した。二人できゃっきゃと戯れてから。
ところで、と柚鈴に目線を振ってきた。
「志奈さんとか、真美子さんに何かお礼が出来ないかな?」
「お礼?」
首を傾げると、薫は頷いた。
「凛子先輩や遥先輩もだけど、やっぱり迷惑掛けたわけだし、お礼くらいしたいわけだ。まぁ2人の先輩方には、今度の大会で新記録だせばそれで良いと言われちゃったけどね」
薫が肩をすくめて見せるが、自信がなさそうではなかったりするので流石だ。
きっと軽く請け負ったのだろう。

「うーん。志奈さんは甘いものとか好きみたいだけど、真美子さんはどうなんだろう?部誌は何か書いてなかった?」
幸に聞くと、思慮深げに考え込んで見せた。
「書いてあったよ。真美子さんは、貰って嬉しいものに書いてあったことが、印象的だったんだ」
「何?」
「物に込めなくても伝わる気持ち、だって」
「え?」
その抽象的な言い方に目を瞬かせると、幸は考えながら言葉を繋いだ。

「多分、もの、とかじゃない方がいいんじゃないかな?物も喜ぶかもしれないけど、物に頼ってしまったらダメなんだろうなって思った」
「なんか、難しいね」
幸はふんわり微笑んだ。なんとなく、真美子さんが言うことも分かるんだろう。
「そう言えば、志奈さんの貰って嬉しいものって何だった?」
「えぇ!?柚鈴ちゃん、ちゃんと見てなかったの?」
「その辺りは全然」
そう答えると、幸は呆れたように息をついた。
それから柚鈴の反応を伺うように、目を輝かせた。
「志奈さんは、欲しいものっていう質問だったんだよ」
「へぇ。それで?」
相槌を打って聞くと、幸はふふっと笑った。
「妹」
「は?」
「志奈さんの欲しいものには、『妹』って書いてあったんだよ」
その言葉に絶句すると、幸はクスクス笑った。
「柚鈴ちゃんのお姉さんは、柚鈴ちゃんが喜ぶだけで満足そうだね」
「......」

なんというか、志奈さんはブレないな、と思ってしまった。
あのアンケートに答えたのはいつなんだろう?
柚鈴のことを知る前か後なのかだけが少し気になった。


そうだ、と幸は閃いたように言った。
「それこそ、志奈さんに聞いてみたらどうかな?真美子さんが今回のお礼に喜びそうなこと。今日の報告も兼ねてさ」
そう言われて、柚鈴はそれもそうだね、と頷いた。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

目の前で始まった断罪イベントが理不尽すぎたので口出ししたら巻き込まれた結果、何故か王子から求婚されました

歌龍吟伶
恋愛
私、ティーリャ。王都学校の二年生。 卒業生を送る会が終わった瞬間に先輩が婚約破棄の断罪イベントを始めた。 理不尽すぎてイライラしたから口を挟んだら、お前も同罪だ!って謎のトバッチリ…マジないわー。 …と思ったら何故か王子様に気に入られちゃってプロポーズされたお話。 全二話で完結します、予約投稿済み

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

熟女教師に何度も迫られて…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
二度と味わえない体験をした実話中心のショート・ショート集です

処理中です...