拝啓、お姉さまへ

一華

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第二章 5月‐序

姉妹っぽいこと ★5★

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志奈さんに案内されたのは小鳥遊家の裏手。
そこには洋風な家とはちぐはぐなまさに和の土蔵がある。
それこそ志奈さんの祖父母より前の時代から、しまってある物もあるらしい歴史を感じる建造物。
であると同時に、家もそうだが、しっかり警備会社と契約してセキュリティ万全。監視カメラがしっかり設置され、扉は暗証番号と指紋のロックで開くようになっている。
そのあたりがかなり厳重な気がする。
土蔵ってそういうイメージではないのだけど、最近はそうなのか、それともこの家が珍しいのか。
正直、柚鈴からすると、監視カメラがついている所には、あまり入りたくはない。

ロックを解除するための指紋は今の所、オトウサンと志奈さんの2人ぶんが登録されているらしい。
お母さんは登録していない。
これはそうだよね、とものすごく気持ちが分かった。
出来れば、柚鈴も登録したくはない。
登録することで得られるのは、妙な緊張感と責任のように思えるからだ。
いつか登録することになるとしても、それは出来るだけ後回しでお願いしたい。

そんな重圧なんて全く感じる様子のない志奈さんは手慣れた様子でロックを解除して扉を開けた。
おもちゃの箱でも開けるかのような気軽さに、ミスマッチな程、その装置はハイテクで厳重。
違和感しかない。
「随分物々しいですね」
黙っているのも苦しくて、柚鈴が声を掛けると、志奈さんはそうねぇと、おっとりと返事をした。

「うちはお父様と2人だったし、去年までは私も寮生活だから、何事も備えておこうっていうことみたい」
「はぁ」
「ここは色々入っているのよ。食器とか着物とかの衣装類もだし、家系図や代々伝わる書物なんかも。古いものも多いけれど、使えるものも多いのよ」
なれた様子で入っていくと、奥の棚の方へと進んでいく。
柚鈴の方は、渋々とそれについていった。
もはや、早く出たい気持ちだ。

「明日はお母さんもお休みで家にいるみたいだし、何か料理を作るでしょう。この辺りは食器を色々置いているから、それを使ってもいいと思うのよね」
「はぁ」
志奈さんの指さす方を見る。そこには高そうな箱やふくさに包まれた、明らかに芸術品の気配を感じる食器が並んでいた。

「し、志奈さん?これ、高級品なんじゃないですか?」
「柚鈴ちゃん」
恐れおののく柚鈴に対して、志奈さんはおっとりとした声で、仏様のように微笑んだ。
「これは食器よ?」
「い、いや、そうは言っても」
「食器は使うことに価値があると思わない?」
「その通りなんですけど。万が一使って壊れちゃったら」
「壊れてもいいのよ」
志奈さんは微笑んだまま、とんでもないことを言い出した。
「母の日なんて特別な日になら使ってもいいじゃない。私の友人も特別な日には特別な食器を使って食事を作るって言ってたわ」

志奈さんの友人とは、もしや北や西クラスのお金持ち諸君でしょうか?
いや、きっとそうなんだろう。
柚鈴は勢いよく首を振る。
「お母さん、卒倒しちゃいます!絶対ダメです!!」
「えー」
不満そうに頬を膨らませた志奈さんから距離を取るように後ずさる。
えーじゃない。
「そもそも、小鳥遊家で普段使いしてる食器だって充分良い食器なんですよ。無茶言わないでください。食器に関してはいつも通りのもので大丈夫です。長年娘をやってる私が言うんだから間違いありません」
「そういうものなの?難しいわね」
いまいち納得していない顔を見せる志奈さんに、柚鈴は背中を向けてため息をついた。
そう言えばオトウサンも、倉庫に使えるものがあったらなんでも使って良いといっていた。
つまり、志奈さんと似たような考えなのかもしれない。
なんて、恐ろしい親子なんだっ。 
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