拝啓、お姉さまへ

一華

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第二章 5月‐序

姉妹っぽいこと ★4★

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「姉妹って、こういうことをするものじゃないの?」
「少なくとも同じものを与えられていたらしないと思いますけど」
「なるほどね。違うものを食べればシェアしてもらえるのか」
志奈さんは分かったように頷いたが、その受け答えが朝だからか、どこかふわふわしている。

「志奈さん、もしかして、眠いんですか?」
「眠そう?」
「はい。違うんですか?」
「ううん。眠いの」
いまいち要領を得ない会話にオトウサンが小さく笑っている。
笑ってないで、この人どうにかしてください。
振り回されて困るのは、どこまでも柚鈴一人のようだ。

「昨日、寝る前に母の日どうしようかと色々考えたり調べたりしていたら、随分遅くなってしまって」
「え?言ってくれれば一緒にやったのに」
「ごめんなさい。本当に少しだけのつもりだったの。気がついたら時間が過ぎてて」
「大丈夫なんですか?」
「柚鈴ちゃんと朝食を食べるくらいは出来るわ」
「あ、そうですか」
そこにやる気を出す志奈さんには引いてしまう。
使命を感じているようですらあるのだから、どちらかと言えば迷惑だ。

「それに今日はお父様に邪魔されずに柚鈴ちゃんと姉妹っぽいことするんだから」
「僕は邪魔ですか」
そうよ、と拗ねたように志奈さんが視線を送ると、苦笑したオトウサンはやれやれと肩を竦めた。

「昨日2人でドライブする時間を、私は一人持ったことで、そう思っても良いという判断が下りました」
迷いない志奈さんの言葉から意思は固そうである。

「まぁ、昨日は志奈のお陰で、良い時間と美味しい夕食を手にできたわけだから感謝してるよ。ねぇ、柚鈴ちゃん?昨日の夕食は良かったよね」
「へ?あ、はい。昨日の手巻き寿司は美味しかったです」
そう柚鈴が同意すると、志奈さんは顔を綻ばせた。

昨晩の夕食は手巻き寿司。
なんと志奈さんとオトウサンは、家で手巻き寿司をしたことがなかったという。
酢飯と巻くためのノリ、あとは様々な具材を用意して、各々好きに手で巻く手巻きずし。
海鮮ネタは勿論だが、卵焼きや茄子の素揚げ、サイドメニューとしてから揚げなんかも準備されていて、中々豪華な内容だった。

柚鈴とオトウサンが帰ってきた頃は、志奈さんは酢飯作りに専念している所だった。
熱々ご飯を覚ますのが大変そうだったし、火を使う調理も緊張した気配があったけど、熱心にやり遂げてくれたし、家族で手巻き寿司をして食べるというのは、やっぱり楽しかった。
手巻き寿司初体験の志奈さんは尚更印象深かったらしい。
具を入れ過ぎて巻ききれなかったり、悪戦苦闘しながらだが、ものすごくはしゃいでいて、本当に楽しく美味しく夕食を頂いたのだ。

「手巻き寿司なんてする家庭が多いって聞いたときは、なんだかお行儀悪いんじゃないかしら、なんて思っていたけど、本当に楽しいのね。またしたいわ」
「ならたこ焼きも家で作ってみたいね」
オトウサンも楽しそうに笑う。

たこ焼きに、手巻き寿司。
一般家庭では当たり前に出てきそうなメニューに、これだけ2人がはしゃぐことに、柚鈴は心の中で驚いていた。
お母さんと二人暮らしだった柚鈴でさえ、それは珍しいメニューではない。
その辺は流石というべきかなんだろうか。
もしかしたら家政婦さんがいるようなお金持ちの家庭では、逆に縁がないメニューなのかも知れない。
それとも家族が多ければ、柚鈴が思うような『富裕層』でも出てくるメニューなんだろうか?
うん、さっぱり分からない。
柚鈴は考えることを諦めた。
統計を取れるわけでもないし、この先、小鳥遊家では「手巻き寿司」も「家でのたこ焼き」も当たり前のメニューになることは間違いないのだ。
今はそれだけ分かってればいい。
柚鈴は美味しいトーストを食べて、また一口かじった。
このトーストも、小鳥遊家に帰ったときには当たり前の朝食になるかもしれないのだ。
数えきれない程の当たり前が増える。
それが新しい家族になるということなのだろう。気にしていたらキリがない。
そう思った。

食事を終えるとオトウサンが片付けを始めて、志奈さんが柚鈴を手招いた。
「さあ、これから姉妹っぽいことを始めましょう」
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