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第二章 5月‐序
姉妹っぽいこと ★3★
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お母さんは運転こそ出来るが、車は所持したことがない。
買うのも勿論だが維持費がしっかり掛かるので、公共機関が一番だと思っているようだ。
「夫婦なのに、ねぇ。柚鈴ちゃんからも今度言ってくれないかな?」
夫のお金で妻が車を買う。
確かに夫婦では一般的な話なんだろう。オトウサンが希望する気持ちも分かる。
本当はオトウサンは、柚鈴の学費だって全然出す気でいるし、お母さんが仕事を辞めてもいいと思っていることも知っている、何度も言われたことである。
でもお母さんにそのつもりが全くない。
柚鈴と二人の時は、一家の大黒柱を自負していたし、娘は自分の手で大人にすると決めているのだ。
結婚して娘を育てるのに人の手を借りるのであれば、結婚せずに自分を全うしたい、という信念があるらしい。
もちろん夫婦となれば人(=他人)ということではなく、また家族の一員であるのだが、お母さんはそこは別換算だ。
「結婚の意味は経済的にはちゃんとあったわ。家賃が必要なくなったことって、すっごく大きいのよ」
このお金の問題の折り合いは中々着かず、結婚は柚鈴の高校卒業まで待つという話も出たくらいだ。
オトウサンとしても、強くは言えないが根強く気にしている部分らしい。
夫婦の間の生活格差、というほどではないかもしれないが、いつまでも自転車と電車で通勤する母を気にする気持ちは分かるは分かる。
だけど、だ。
「うーん。常葉学園の特待制度にこだわる私が言っても、効果ない気がします」
「あぁ、そうだね。似た者親子か」
とほほと肩を竦めたオトウサンにすみませんと頭を下げた。
そう、柚鈴はお母さんの気持ちを分かる側だ。偉そうなことは言えない。
「朝食、食べに戻ろうか」
「はい」
やれやれといった感じのオトウサンと食卓に戻ると、志奈さんが起きてきていて、テーブルに座っていた。
だけなら良いのだが柚鈴の食べかけのトーストを、ちゃっかりもぐもぐと食べていた。
「し、志奈さん!なんでそれを食べているんですか」
「そこに焼きたてがあったから」
トーストを食べ終わった志奈さんが指差した方にはオトウサンが志奈さんのために焼いていたトーストが焼きあがっていた。
いや、志奈さんおかしい。
焼きたてのトーストと、食べかけのトーストがあったなら、普通食べるのは焼きたての方のはずだ。
それをわざわざ、食べかけに手をつける意味が分からない。
お行儀が悪いとさえ言えるだろう。
文句言いたげな柚鈴に対して、志奈さんはしれっとした表情だ。
「私が食べたの、柚鈴ちゃんのでしょう?焼きたてではなくなってたし、それなら焼きたてを半分こした方が姉妹っぽくない?」
「ぽくないです。姉は焼きたてを喜んで食べるべきだと思います」
冷静に突っ込んでから、椅子に座って更に気付いた。
「そもそも私のトーストが焼きたてじゃないなんて、食べてみるまで分からなかったんじゃないですか?」
「ばれたか」
志奈さんはクスクスと笑った。
「ばれたかじゃないですよ」
どうやら志奈さんは、あえて柚鈴の分と分かって食べたらしい。
「姉が妹に与えられたものを敢えて奪うというのも、一つの姉妹の形だと思うのよね」
「妹の迷惑を顧みない、というわけですか」
呆れた顔をしていると、オトウサンが焼きたてのトーストを半分に切って、柚鈴と志奈さんに出してくれる。
「だってやってみたかったんだもの。半分こ」
「さっぱり気持ちは分かりません」
志奈さんは半分のトーストにたっぷりジャムを塗っている。
柚鈴のトーストには何も塗っていなかった。甘党の志奈さんがそこまで柚鈴のトーストを食べたいなどと、どう理解しろ言うのだろうか。いや出来ない、無理無理。
買うのも勿論だが維持費がしっかり掛かるので、公共機関が一番だと思っているようだ。
「夫婦なのに、ねぇ。柚鈴ちゃんからも今度言ってくれないかな?」
夫のお金で妻が車を買う。
確かに夫婦では一般的な話なんだろう。オトウサンが希望する気持ちも分かる。
本当はオトウサンは、柚鈴の学費だって全然出す気でいるし、お母さんが仕事を辞めてもいいと思っていることも知っている、何度も言われたことである。
でもお母さんにそのつもりが全くない。
柚鈴と二人の時は、一家の大黒柱を自負していたし、娘は自分の手で大人にすると決めているのだ。
結婚して娘を育てるのに人の手を借りるのであれば、結婚せずに自分を全うしたい、という信念があるらしい。
もちろん夫婦となれば人(=他人)ということではなく、また家族の一員であるのだが、お母さんはそこは別換算だ。
「結婚の意味は経済的にはちゃんとあったわ。家賃が必要なくなったことって、すっごく大きいのよ」
このお金の問題の折り合いは中々着かず、結婚は柚鈴の高校卒業まで待つという話も出たくらいだ。
オトウサンとしても、強くは言えないが根強く気にしている部分らしい。
夫婦の間の生活格差、というほどではないかもしれないが、いつまでも自転車と電車で通勤する母を気にする気持ちは分かるは分かる。
だけど、だ。
「うーん。常葉学園の特待制度にこだわる私が言っても、効果ない気がします」
「あぁ、そうだね。似た者親子か」
とほほと肩を竦めたオトウサンにすみませんと頭を下げた。
そう、柚鈴はお母さんの気持ちを分かる側だ。偉そうなことは言えない。
「朝食、食べに戻ろうか」
「はい」
やれやれといった感じのオトウサンと食卓に戻ると、志奈さんが起きてきていて、テーブルに座っていた。
だけなら良いのだが柚鈴の食べかけのトーストを、ちゃっかりもぐもぐと食べていた。
「し、志奈さん!なんでそれを食べているんですか」
「そこに焼きたてがあったから」
トーストを食べ終わった志奈さんが指差した方にはオトウサンが志奈さんのために焼いていたトーストが焼きあがっていた。
いや、志奈さんおかしい。
焼きたてのトーストと、食べかけのトーストがあったなら、普通食べるのは焼きたての方のはずだ。
それをわざわざ、食べかけに手をつける意味が分からない。
お行儀が悪いとさえ言えるだろう。
文句言いたげな柚鈴に対して、志奈さんはしれっとした表情だ。
「私が食べたの、柚鈴ちゃんのでしょう?焼きたてではなくなってたし、それなら焼きたてを半分こした方が姉妹っぽくない?」
「ぽくないです。姉は焼きたてを喜んで食べるべきだと思います」
冷静に突っ込んでから、椅子に座って更に気付いた。
「そもそも私のトーストが焼きたてじゃないなんて、食べてみるまで分からなかったんじゃないですか?」
「ばれたか」
志奈さんはクスクスと笑った。
「ばれたかじゃないですよ」
どうやら志奈さんは、あえて柚鈴の分と分かって食べたらしい。
「姉が妹に与えられたものを敢えて奪うというのも、一つの姉妹の形だと思うのよね」
「妹の迷惑を顧みない、というわけですか」
呆れた顔をしていると、オトウサンが焼きたてのトーストを半分に切って、柚鈴と志奈さんに出してくれる。
「だってやってみたかったんだもの。半分こ」
「さっぱり気持ちは分かりません」
志奈さんは半分のトーストにたっぷりジャムを塗っている。
柚鈴のトーストには何も塗っていなかった。甘党の志奈さんがそこまで柚鈴のトーストを食べたいなどと、どう理解しろ言うのだろうか。いや出来ない、無理無理。
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