拝啓、お姉さまへ

一華

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第二章 5月‐序

姉妹っぽいこと ★10★

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「その…ルーは使わずに、色々スパイスを使って作るカレーなんです。レシピがあるわけじゃないので、その時ごとに味は違うんですけど」
「2人とも辛いのが好きなの?」
「辛いのが好き、というか」
どう説明しても、分かってもらえるように上手く話すことはできない気がしたが、柚鈴は一度口を閉じて、頭の中を整理してみた。

「以前住んでいた場所の近くに、辛いけど凄く美味しいカレーやさんがあったんです。一番辛いメニューは、数量限定で本当に辛いんですけど、それだけじゃなくて、とても美味しくて。それで家でも辛いけど美味しいカレーを作ってみようって話になって。私もお母さんも甘いもの食べないじゃないですか。誕生日にケーキは必要ないから、代わりに」
「け、ケーキの代わりがカレー?」
その言葉に志奈さんが急に絶望的な顔をした。
志奈さんは甘党だから、なんだかとても良くないイメージをしたんだろうか。
その想像が何かを思い至ってから、慌てて訂正した。
「勿論、志奈さんの誕生日にはケーキ用意すると思いますよ。そもそも志奈さん、そんなに辛いものは得意じゃないでしょう?」
「そうねぇ。嫌いというわけでもないけれど」
顔を引きつらせたまま、自分に言い聞かせるようにブツブツと呟く。
「確かに辛すぎるものは得意とは言えないわ。でもそれが2人の共通点なら、一緒に挑戦するのは私の…」
「姉の役割じゃないと思います」
志奈さんの言葉を読んで繋げる、志奈さんは柚鈴を見上げて、不満そうに頬を膨らませた。
その目線は話が進まなくなるので無視することにする。
「お母さんも、カレーを作ったとしても、志奈さん用に甘く出来るようにすると思いますし」
「別にそこまで辛いのが苦手なわけじゃないのよ」
フォローするつもりだったが、挑戦したい気持ちが捨てきれなかったらしく、志奈さんは諦めきれないように言った。

「普通に辛いカレーならいいんですよね。わかりましたから」
「私は柚鈴ちゃんが作ってくれるなら同じ辛さのカレーがいいんだけど」
自信なさそうに尚も引かない志奈さんに、柚鈴はため息をついた。
まさか、そこで意地になるとは思わなかったのだ。
甘党の志奈さんに、スパイシーなカレーを作るなんて考えてもいなかったし、志奈さんが食べたがるとも当然思わなかった。
柚鈴とお母さんが作るカレーは辛い。
辛さだけでなく、美味しさの追求もしようと、トマトやリンゴなども加えているので甘みもあるのだが、後から火を吹くような辛さが出る。
どうも志奈さんが好きそうな食べ物に思えなかった。

寮で出るカレーも甘めだったしなぁ。ああいうのが志奈さんっぽいんだけど。
そう考えながら、困った話になったと思ったが、一応は請け負うことした。

「わかりました。お母さんが料理を作っても良いと言ったら、ちゃんと同じ辛さで志奈さんの分を作ります」
一応、辛くないバージョンも作っておいて、もし食べきれなかったら、出し直せばいいかと思うことにする。
柚鈴のそんな打算を知らない志奈さんは
「ええ。私、頑張るわ。お母さんに料理当番を変わって頂いて、柚鈴ちゃんにはとびきりのカレーを作ってもらいましょう」
と妙なやる気をみせることを忘れない。
頑張るのは、カレーを食べることなのか、それとも料理当番を変わってもらうことなのか。

当然、カレーを食べることなんだろうな。何も頑張らなくてもいいのだけど。
とは言え、だ。
お母さんにも志奈さんにも食べてもらえるのだから、ちゃんと辛くて美味しいカレーを作ろう。

志奈さんのがうつったのか、柚鈴も無駄にやる気が出てきて、決意を固めた。
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