拝啓、お姉さまへ

一華

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第三章 5月‐結

お姉さま、ペア作りが本格起動です ★4★ 

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「帰ろう。柚鈴ちゃん」
「…うん」

幸はにっこり笑って、再度声を掛けた。

考えてても仕方ないか。家に帰って勉強でもしよう。
他にやることはないのか、という気持ちにもなるが、なんせ中間考査が近い。
ここは大人しく、そして早々に帰った方がいいように思える。

同意して、一緒にクラスから出ようとすると。
ちょうど教室の出入り口の席の生徒がこちらに向かって声を掛けてきた。

「春野さん」
「ん?」
呼ばれているのは幸のようだ。
どうやら、教室の外に幸を呼んでいる生徒がいるらしい。

誰だろうとのぞきこむようにそちらを見た幸に、柚鈴も釣られるように覗き込んだ。
すらりと背が高く、にこやかに待っている感じの良い生徒。
柚鈴の知らない上級生だった。
先ほどの話のすぐ後だっただけに、クラスが一瞬ざわついている。
まさか、さっそく?
と言ったところだろうか。

「誰?」
聞いてみると、幸は外をよく見て、誰かわかった様子で、ふふっと笑った。
「なんだ、沢城先輩か。びっくりした」
誰かわかったのだろう。
柚鈴を振り返って、肩を竦めてみせる。
「安心したまえ。別に助言者メンター制度とは関係ないひとみたい。ちょっと行ってくるね。あ、待っててね」

そう念押しをして、幸は小走りに教室の外に出て行った。
文芸部の先輩かな?
思い当たる所は、柚鈴にはそのくらいだ。
待っててと言われたので仕方ない、と柚鈴は一度席に腰かけた。

「小鳥遊さん、ちょっといい?」
タイミングを見計らったように明智さんが話し掛けてきた。

先ほどまでも丁寧すぎる口調ではなく、同い年の同級生らしい話し方に、柚鈴はほっとしながら、話を聞く態勢を作った。
「先ほどは質問してくれてありがとう。助かったわ」
「ううん」
まさかそんなことでお礼を言われるとは思ってなかったので、慌てて首を振って見せた。
どちらかと言えば、見るからに優等生タイプで、質問なんて受け付けません、といった雰囲気さえ持っているので意外とさえ言える。

学年主席の明智絵里さん。
同じクラスでありながら、今まであまり会話もしたことがなかったのだが、思ったよりも話しやすい人なのかもしれない。
愛想が良いタイプとは言えなかったが、これに関しては柚鈴もどっこいな所があるので、返って親近感さえ湧く気がした。

「明智さんも生徒会手伝い、大変だね」
「え?ええ。忙しいわね。でも忙しいほうが好きだから」
「そ、そうなんだ。このプリント制作も大変だったんじゃないかと思ってたの。生徒会の助言者メンター制度の支援ってしばらく続くの?」
「それは助言者メンターの資格を持つ方の進捗状況次第みたい。一応今月末の体育祭までは企画が上がっているけれど、その後はなんとも言えないわ」
「体育祭…?え、何をするの?」
「それはまだ企画段階だから。小鳥遊さんは随分興味を示してくれるのね」
明智さんの言葉に、柚鈴はそういうわけでもないんだけど、と曖昧に笑った。
確かに、こんな風に質問が多ければ、そう思われても仕方ない。
なんせ、他のクラスメイトは質問一つしなかったのだから。

それだけ明智さんの説明が分かりやすくて素晴らしかったというのもあるだろうし、柚鈴のように助言者メンターを持たないという明確な目的がなければ質問も出ないのかもしれないけれど。

そういう意味では、明智さんにお礼を言われるようなことってなにもない気がする。
多少申し訳ない気持ちにさえなってしまった。

明智さんは、そんな柚鈴の表情をじっとみて何か考えてから、そういえばと思い出したように呟いた。
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