146 / 282
第三章 5月‐結
お姉さま、デートの時間です 4 ★幸の時間★
しおりを挟む
バス停からしばらく歩いて。
少し高台にある、眺めの良い場所に洋食屋「アン」がそこにあった。
大きなガラス張りの窓枠は半円アーチ。幾つも並んだ窓を軽やかに彩るような半球円型の屋根の濃緑の屋根。
看板にはドレス姿の女の子の影絵がwelcomeの文字と共に描かれていて、可愛らしい。
「素敵なレストランですね」
「ありがとうございます。両親がこだわって設計してもらったんです」
幸が感想をいうと沢城先輩は嬉しそうな笑みを浮かべた。そのまま中に案内してもらう。
中はアンティークなテーブルや椅子で統一されていて、温かみのある雰囲気で、幸はますます目を輝かせる。
夫婦でやっているレストランらしく、中はこじんまりした感じでもあるが、それがまたアットホームで居心地がいい。
カウンター席が並びで二席、予約席になっていて、笑顔が素敵な沢城先輩のお母さんが案内してくれた。
「いらっしゃいませ。可愛らしいお客様が来てくれるって聞いて、楽しみにしていたの」
「は、はい!あの、初めまして。沢城先輩の後輩の春野幸です。今日は私も楽しみにしてきました」
なんと言って挨拶すべきか混乱しつつ自己紹介をすると、微笑ましそうに見つめられてしまう。幸は頬を染めてしまう。
「ゆっくりしていってね」
「ありがとうございます。あの、これ」
ここで忘れてはいけないと、慌てて用意していたお土産を手渡す。
「あら、ありがとう。嬉しいわ」
それはもうにっこりと、予想以上に喜んでもらえてホッとする。
ちなみにお土産の中身は、常葉学園近くの喫茶店で販売しているお土産用のクッキーだ。
ここのケーキが美味しいらしい、と甘いものは得意なわけではない柚鈴に噂話として聞いていたので、覗きに行って発見したのである。
ありがとう、柚鈴ちゃん。喜んでもらえたよ。
席に着いてから、幸は心の中でお礼を言った。
「お礼でお誘いしたのに、お土産まで頂いてしまってありがとうございます」
申し訳なさそうな様子の沢城先輩に首を振った。
「いえ。そろそろ学校近辺以外にも行動範囲を広めたかったので。こうして誘って頂けたお礼です。今日は迎えにも来て頂けたので助かりました」
なんとなく良い子モードのまま、そう言うと、沢城先輩は感心したような表情をしてから、笑ってくれた。
「そう言ってもらえるとまた誘いたくなりますね。春野さんは1人でお出かけはするんですか?」
そう聞かれて、幸は一瞬目線を泳がせた。
そういえば、お出かけは長野からこちらにきてからあまりしていない気がする。
このまま、しっかりものを見せたい一年生とすれば、良く一人で出かけます!と言いたいところではあるが、それを言うと嘘になってしまう。
沢城先輩は不思議そうに首を傾げたことに気付いて、曖昧に笑って見せた。
やっぱり嘘はいけない。
幸は言葉を選びつつ、本当のことを言った。
「1度行った所ならお出かけするんですけど…そうでないと少し緊張してしまうので、行かないことの方が多いかも知れません」
「そうですか」
「常葉学園の周辺は大体覚えたし、この間は常葉学園の大学部の場所も確認したので、少しずつ行動範囲を広めてるんです。今日はおかげさまで、ここも行動範囲となりました」
「また、ご一緒してくれるんですよね?」
「はい。友達とも来ますね」
「ええ。よろしくお願いします」
そんな風にお話をしている間に、カウンター側から幸の注文したオムライスと、沢城先輩の前には目玉焼きの乗ったハンバーグを出してくれた。
幸は目を輝かせて、それからふっと薫の忠告を思い出して、洋服を汚さないようにひざ掛けのナプキンを広げる。
助言者候補でないにしろ、せっかく誘ってくれた上級生の目の前で洋服を汚してしまうのは、恥ずかしい気がする。
飲み物はサービスだとオレンジジュースを出してもらい、可愛らしく盛り付けられたサラダも二つ並んでいる。
「美味しそうですね」
「はい。美味しいですよ。どうぞ召し上がってください」
少し高台にある、眺めの良い場所に洋食屋「アン」がそこにあった。
大きなガラス張りの窓枠は半円アーチ。幾つも並んだ窓を軽やかに彩るような半球円型の屋根の濃緑の屋根。
看板にはドレス姿の女の子の影絵がwelcomeの文字と共に描かれていて、可愛らしい。
「素敵なレストランですね」
「ありがとうございます。両親がこだわって設計してもらったんです」
幸が感想をいうと沢城先輩は嬉しそうな笑みを浮かべた。そのまま中に案内してもらう。
中はアンティークなテーブルや椅子で統一されていて、温かみのある雰囲気で、幸はますます目を輝かせる。
夫婦でやっているレストランらしく、中はこじんまりした感じでもあるが、それがまたアットホームで居心地がいい。
カウンター席が並びで二席、予約席になっていて、笑顔が素敵な沢城先輩のお母さんが案内してくれた。
「いらっしゃいませ。可愛らしいお客様が来てくれるって聞いて、楽しみにしていたの」
「は、はい!あの、初めまして。沢城先輩の後輩の春野幸です。今日は私も楽しみにしてきました」
なんと言って挨拶すべきか混乱しつつ自己紹介をすると、微笑ましそうに見つめられてしまう。幸は頬を染めてしまう。
「ゆっくりしていってね」
「ありがとうございます。あの、これ」
ここで忘れてはいけないと、慌てて用意していたお土産を手渡す。
「あら、ありがとう。嬉しいわ」
それはもうにっこりと、予想以上に喜んでもらえてホッとする。
ちなみにお土産の中身は、常葉学園近くの喫茶店で販売しているお土産用のクッキーだ。
ここのケーキが美味しいらしい、と甘いものは得意なわけではない柚鈴に噂話として聞いていたので、覗きに行って発見したのである。
ありがとう、柚鈴ちゃん。喜んでもらえたよ。
席に着いてから、幸は心の中でお礼を言った。
「お礼でお誘いしたのに、お土産まで頂いてしまってありがとうございます」
申し訳なさそうな様子の沢城先輩に首を振った。
「いえ。そろそろ学校近辺以外にも行動範囲を広めたかったので。こうして誘って頂けたお礼です。今日は迎えにも来て頂けたので助かりました」
なんとなく良い子モードのまま、そう言うと、沢城先輩は感心したような表情をしてから、笑ってくれた。
「そう言ってもらえるとまた誘いたくなりますね。春野さんは1人でお出かけはするんですか?」
そう聞かれて、幸は一瞬目線を泳がせた。
そういえば、お出かけは長野からこちらにきてからあまりしていない気がする。
このまま、しっかりものを見せたい一年生とすれば、良く一人で出かけます!と言いたいところではあるが、それを言うと嘘になってしまう。
沢城先輩は不思議そうに首を傾げたことに気付いて、曖昧に笑って見せた。
やっぱり嘘はいけない。
幸は言葉を選びつつ、本当のことを言った。
「1度行った所ならお出かけするんですけど…そうでないと少し緊張してしまうので、行かないことの方が多いかも知れません」
「そうですか」
「常葉学園の周辺は大体覚えたし、この間は常葉学園の大学部の場所も確認したので、少しずつ行動範囲を広めてるんです。今日はおかげさまで、ここも行動範囲となりました」
「また、ご一緒してくれるんですよね?」
「はい。友達とも来ますね」
「ええ。よろしくお願いします」
そんな風にお話をしている間に、カウンター側から幸の注文したオムライスと、沢城先輩の前には目玉焼きの乗ったハンバーグを出してくれた。
幸は目を輝かせて、それからふっと薫の忠告を思い出して、洋服を汚さないようにひざ掛けのナプキンを広げる。
助言者候補でないにしろ、せっかく誘ってくれた上級生の目の前で洋服を汚してしまうのは、恥ずかしい気がする。
飲み物はサービスだとオレンジジュースを出してもらい、可愛らしく盛り付けられたサラダも二つ並んでいる。
「美味しそうですね」
「はい。美味しいですよ。どうぞ召し上がってください」
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
光のもとで2
葉野りるは
青春
一年の療養を経て高校へ入学した翠葉は「高校一年」という濃厚な時間を過ごし、
新たな気持ちで新学期を迎える。
好きな人と両思いにはなれたけれど、だからといって順風満帆にいくわけではないみたい。
少し環境が変わっただけで会う機会は減ってしまったし、気持ちがすれ違うことも多々。
それでも、同じ時間を過ごし共に歩めることに感謝を……。
この世界には当たり前のことなどひとつもなく、あるのは光のような奇跡だけだから。
何か問題が起きたとしても、一つひとつ乗り越えて行きたい――
(10万文字を一冊として、文庫本10冊ほどの長さです)
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる