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第三章 5月‐結
お姉さま、お茶会参加のはずでした! 1
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茶道部のお茶会当日。
その日の授業が終わって招待状に記載された時間になると、柚鈴は明智さんと声を掛け合って、開催場所である中庭に向かった。
野点を模したお茶会と言っていたけれど、中庭には目隠しの黒い布が、会場の敷地内を覆ってあり、布を支えるためのロープが中庭の木を利用して張り巡らせいる。
野点、というのは、そんなに作法にこだわらず、外で季節を楽しむお茶の会の事をいうらしい。
本来の茶道とは少しばかり違うけれど、
お客様を多めに呼んで、もてなすには季節としてもちょうどいいそうだ。
茶道など、一度も嗜んだことがない柚鈴が慌てて調べた範囲ではそうなっていた。
学校の放課後の時間でのことだから、服装は制服で良いし、気楽に参加できるのはありがたい。
もっとも招待した側になる茶道部の部員は全員着物姿で、案内をするらしく、中々気合が入っている様子である。
「何かしら?」
先を歩いていた明智さんが不思議そうに立ち止まった。
今日のお茶会の入り口になると思われる場所で。人だかりができているのだ。
中心にいるのは茶道部部長である相原先輩と、背の高いシャツとパンツスタイルの髪の長い女性だ。女性はこちらに背中を向けて、相原先輩と対峙しているので顔は見えない。
相原先輩は少々苛立った表情をしていて、どうも緊迫している。
「ですから、本日のお茶会は茶道部か、招待状をお持ちの方しか中に入れないと申し上げておりますの」
「その理屈で、私の立ち入りを拒否するなんて随分じゃないのさ?」
相原先輩の愛らしいがきっぱりとした言い方に対して、相手の良く通る声が響いた。
歌うよう、とでもいうのだろうか。
女性にしては少し低いけれど、ハッとするほど艶のある声で、大人びた力強い声だ。
「私がここに入ることを拒否するのなんて、花蓮、あんただけよ?」
「そうであっても認めません」
「本当っに、あんたって面倒な子ねえ。もう少し愛想良くしてくれれば、私だって可愛がってあげるのに」
「必要ありませんわ」
「ああ、はいはい。素直じゃないもんね、花蓮ちゃんたら」
呆れたように肩を竦めた女性は、続けて何かを言おうと口を開いた相原先輩に背中を向けて、ふいに周りをくるりと見回した。
それで初めて容姿が見えたが、なんというか一言でいえば派手な美人。
お化粧をそんなにしているわけでもないだろうけれど、目鼻立ちがはっきりしていて、シンプルな服装の為にスタイルも良いのがすぐに分かる。そう、なんというか、魅力的な体付きというのは、こういう人のようなことを言うのだろう。
特に胸元が、柚鈴が決して持ちえない豊かなふくらみを持っている…
お、女同士でも、つい目線が…
その人は、人だかりを見回すと。
急ににっこり笑って、招待状を持っていたのの中に入れずに待っていた人達を中へと誘導しはじめた。
「ごめんなさいね。こんな風に取り込んでしまって。どうぞ、入って入って」
そういって、相原先輩や茶道部の人の方へ、客の背中をトントンと叩いて、押し付けていく。
それなりの時間、中に入るのを待たせていたのだろう。
押された客で人垣ができてしまい、あっという間に入口は見えなくなってしまった。
勿論、相原先輩も人垣の中だ。
それを満足そうに見つめてから女性は、周りの中から何かを探すようにきょろきょろして、やがて明智さんと柚鈴に目を止めて、ふらりと歩いてきた。
「ねえ、あなたたち。1年生?」
「え…は、はい」
目の前を急にふさがれて、柚鈴は固まった。
明智さんも一瞬息を飲んだようだったが、こちらは冷静に、すぐに持ち直す。さすがだ。
「1年生に、何か御用ですか?」
「お名前を教えてくれるかしら?」
「構いませんが、どなた様でしょうか?先にお伺いできれば助かります」
淡々とした口調で現状把握をする明智さんは流石としか言いようがなかった。
その日の授業が終わって招待状に記載された時間になると、柚鈴は明智さんと声を掛け合って、開催場所である中庭に向かった。
野点を模したお茶会と言っていたけれど、中庭には目隠しの黒い布が、会場の敷地内を覆ってあり、布を支えるためのロープが中庭の木を利用して張り巡らせいる。
野点、というのは、そんなに作法にこだわらず、外で季節を楽しむお茶の会の事をいうらしい。
本来の茶道とは少しばかり違うけれど、
お客様を多めに呼んで、もてなすには季節としてもちょうどいいそうだ。
茶道など、一度も嗜んだことがない柚鈴が慌てて調べた範囲ではそうなっていた。
学校の放課後の時間でのことだから、服装は制服で良いし、気楽に参加できるのはありがたい。
もっとも招待した側になる茶道部の部員は全員着物姿で、案内をするらしく、中々気合が入っている様子である。
「何かしら?」
先を歩いていた明智さんが不思議そうに立ち止まった。
今日のお茶会の入り口になると思われる場所で。人だかりができているのだ。
中心にいるのは茶道部部長である相原先輩と、背の高いシャツとパンツスタイルの髪の長い女性だ。女性はこちらに背中を向けて、相原先輩と対峙しているので顔は見えない。
相原先輩は少々苛立った表情をしていて、どうも緊迫している。
「ですから、本日のお茶会は茶道部か、招待状をお持ちの方しか中に入れないと申し上げておりますの」
「その理屈で、私の立ち入りを拒否するなんて随分じゃないのさ?」
相原先輩の愛らしいがきっぱりとした言い方に対して、相手の良く通る声が響いた。
歌うよう、とでもいうのだろうか。
女性にしては少し低いけれど、ハッとするほど艶のある声で、大人びた力強い声だ。
「私がここに入ることを拒否するのなんて、花蓮、あんただけよ?」
「そうであっても認めません」
「本当っに、あんたって面倒な子ねえ。もう少し愛想良くしてくれれば、私だって可愛がってあげるのに」
「必要ありませんわ」
「ああ、はいはい。素直じゃないもんね、花蓮ちゃんたら」
呆れたように肩を竦めた女性は、続けて何かを言おうと口を開いた相原先輩に背中を向けて、ふいに周りをくるりと見回した。
それで初めて容姿が見えたが、なんというか一言でいえば派手な美人。
お化粧をそんなにしているわけでもないだろうけれど、目鼻立ちがはっきりしていて、シンプルな服装の為にスタイルも良いのがすぐに分かる。そう、なんというか、魅力的な体付きというのは、こういう人のようなことを言うのだろう。
特に胸元が、柚鈴が決して持ちえない豊かなふくらみを持っている…
お、女同士でも、つい目線が…
その人は、人だかりを見回すと。
急ににっこり笑って、招待状を持っていたのの中に入れずに待っていた人達を中へと誘導しはじめた。
「ごめんなさいね。こんな風に取り込んでしまって。どうぞ、入って入って」
そういって、相原先輩や茶道部の人の方へ、客の背中をトントンと叩いて、押し付けていく。
それなりの時間、中に入るのを待たせていたのだろう。
押された客で人垣ができてしまい、あっという間に入口は見えなくなってしまった。
勿論、相原先輩も人垣の中だ。
それを満足そうに見つめてから女性は、周りの中から何かを探すようにきょろきょろして、やがて明智さんと柚鈴に目を止めて、ふらりと歩いてきた。
「ねえ、あなたたち。1年生?」
「え…は、はい」
目の前を急にふさがれて、柚鈴は固まった。
明智さんも一瞬息を飲んだようだったが、こちらは冷静に、すぐに持ち直す。さすがだ。
「1年生に、何か御用ですか?」
「お名前を教えてくれるかしら?」
「構いませんが、どなた様でしょうか?先にお伺いできれば助かります」
淡々とした口調で現状把握をする明智さんは流石としか言いようがなかった。
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