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第三章 5月‐結
お姉さま、体育祭への準備です 4
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「昨年の茶道部の部長なのですけれど、ちょっと変わっていらして、予想もしないことをしだしますの。それもあってお茶会参加はお断りしたのですけれど、これなら目の届く所に置いておく方が良かったかもしれませんわ。少々、気になるお姿ではありましたけど…野放しにしてしまったのは間違いでした」
「いえ、あの。大丈夫です」
本当に申し訳なさそうに謝る相原先輩に、柚鈴は慌てて首を振った。
野放し…まあ、確かに。しのさんを放っておくということは、そういう言い方が合うのかもしれない。
真美子さんが言う通り、あの恰好も今日のお茶会への参加禁止を言い渡された理由の一つになったようだ。
しのさん、次回からは注意してくださいね。でも茶道部に行くときは私を巻き込まないでくれると助かります。
柚鈴はこっそりと心で話しかけた。
「小鳥遊さん、もしかして名前を聞かれたりしませんでした?」
「え?」
相原先輩は何を言いたいのだろう。
その質問には、少し動揺してしまう。
「あの方が大好きな人の名前が小鳥遊さんと苗字が一緒なんですの。それで面白がって連れていってしまったのではないかと思って」
「……ええと。つまり、昨年の卒業生の元生徒会長さんのことでしょうか?」
我ながらすっとぼけた答えだと思っていると、相原先輩は気づかなかったようで素直に頷いた。
「そうですわ。小鳥遊さん、ご存じでしたの」
「寮で先輩方に聞きまして」
「まぁ、そうでしたの」
ころころと、鈴の音のような愛らしく、相原先輩は納得したように笑った。
寮で先輩に聞いた、というのは本当の出来事であるが、それで納得されてしまうのも微妙な気持ちになる。
それから、もしかして、と思い至った。
「…もしかして、今日このお茶会に私が呼ばれたのも、名前のせいでしょうか?」
「ふふ。ばれてしまいましたわね。どなたか相応しくも、あまり目立っていない方を探していたら、お名前が目に止まりましたの。昨年の小鳥遊先輩には、ご姉妹やご親戚に柚鈴さんと同じ年頃の方はいないのは周知の事実ですもの。ちょっと面白く感じてしまいまして」
悪びれなく笑う相原先輩に、柚鈴は曖昧に笑うしかない。
志奈さんの義妹だから、でなかったのは良かったが、結局呼ばれたのは『小鳥遊』という志奈さんと同じ苗字が要因なのだ。
志奈さんの身内に柚鈴と同じ年頃の子がいないのが周知の事実、というのも、色々感じることがある。
一卒業生の家族・親戚構成が、周知の事実ってどういうことなんだろう。
『全校生徒のお姉さま』
この言葉の意味が深すぎる。
そして実際にここにいる柚鈴は、そのいないはずの身内。
…なんだろう。なんだか感慨深い気さえする。
しかし。こうして相原先輩からも、志奈さんの話を聞くことになると、常葉学園での志奈さんの存在の大きさに若干恐怖のようなものさえ感じてしまう。
『小鳥遊』が珍しい苗字とは言え、全く使われていない名前でもあるまいし、ここまで誰にも彼にも苗字だけでも通用するくらいの存在感。
これは、苗字が『小鳥遊』ではなく、例えば『佐藤』や『鈴木』でも起こり得たのではないだろうか。
…こんな高等部に当たり前のように根付いている『小鳥遊志奈』という存在感を感じつつ、どうして自分が義妹です、なんて名乗りあげることが出来るというんだろう。
黙っているのが申し訳ない気持ちと、知られてしまうことを恐れる気持ち。
背反する思いが重い。
全部、志奈さんのせいだ…!
『ごめんね、柚鈴ちゃん』
柚鈴が自分のことで困ることが、どこか嬉しそうな志奈さんの声が脳裏に浮かんで来て、ため息が出てしまう。
おおよそ、そういうイメージが勝手に浮かび上がる程度に、志奈さんの考えてることは柚鈴の中でそう定まってきていた。
そんなことに憂鬱になっているうちに、残り少ないお茶会の時間は終了してしまった。
なんとも慌ただしく、のんびりできるような時間もなく柚鈴はすっかり疲れてしまったのだ。
「いえ、あの。大丈夫です」
本当に申し訳なさそうに謝る相原先輩に、柚鈴は慌てて首を振った。
野放し…まあ、確かに。しのさんを放っておくということは、そういう言い方が合うのかもしれない。
真美子さんが言う通り、あの恰好も今日のお茶会への参加禁止を言い渡された理由の一つになったようだ。
しのさん、次回からは注意してくださいね。でも茶道部に行くときは私を巻き込まないでくれると助かります。
柚鈴はこっそりと心で話しかけた。
「小鳥遊さん、もしかして名前を聞かれたりしませんでした?」
「え?」
相原先輩は何を言いたいのだろう。
その質問には、少し動揺してしまう。
「あの方が大好きな人の名前が小鳥遊さんと苗字が一緒なんですの。それで面白がって連れていってしまったのではないかと思って」
「……ええと。つまり、昨年の卒業生の元生徒会長さんのことでしょうか?」
我ながらすっとぼけた答えだと思っていると、相原先輩は気づかなかったようで素直に頷いた。
「そうですわ。小鳥遊さん、ご存じでしたの」
「寮で先輩方に聞きまして」
「まぁ、そうでしたの」
ころころと、鈴の音のような愛らしく、相原先輩は納得したように笑った。
寮で先輩に聞いた、というのは本当の出来事であるが、それで納得されてしまうのも微妙な気持ちになる。
それから、もしかして、と思い至った。
「…もしかして、今日このお茶会に私が呼ばれたのも、名前のせいでしょうか?」
「ふふ。ばれてしまいましたわね。どなたか相応しくも、あまり目立っていない方を探していたら、お名前が目に止まりましたの。昨年の小鳥遊先輩には、ご姉妹やご親戚に柚鈴さんと同じ年頃の方はいないのは周知の事実ですもの。ちょっと面白く感じてしまいまして」
悪びれなく笑う相原先輩に、柚鈴は曖昧に笑うしかない。
志奈さんの義妹だから、でなかったのは良かったが、結局呼ばれたのは『小鳥遊』という志奈さんと同じ苗字が要因なのだ。
志奈さんの身内に柚鈴と同じ年頃の子がいないのが周知の事実、というのも、色々感じることがある。
一卒業生の家族・親戚構成が、周知の事実ってどういうことなんだろう。
『全校生徒のお姉さま』
この言葉の意味が深すぎる。
そして実際にここにいる柚鈴は、そのいないはずの身内。
…なんだろう。なんだか感慨深い気さえする。
しかし。こうして相原先輩からも、志奈さんの話を聞くことになると、常葉学園での志奈さんの存在の大きさに若干恐怖のようなものさえ感じてしまう。
『小鳥遊』が珍しい苗字とは言え、全く使われていない名前でもあるまいし、ここまで誰にも彼にも苗字だけでも通用するくらいの存在感。
これは、苗字が『小鳥遊』ではなく、例えば『佐藤』や『鈴木』でも起こり得たのではないだろうか。
…こんな高等部に当たり前のように根付いている『小鳥遊志奈』という存在感を感じつつ、どうして自分が義妹です、なんて名乗りあげることが出来るというんだろう。
黙っているのが申し訳ない気持ちと、知られてしまうことを恐れる気持ち。
背反する思いが重い。
全部、志奈さんのせいだ…!
『ごめんね、柚鈴ちゃん』
柚鈴が自分のことで困ることが、どこか嬉しそうな志奈さんの声が脳裏に浮かんで来て、ため息が出てしまう。
おおよそ、そういうイメージが勝手に浮かび上がる程度に、志奈さんの考えてることは柚鈴の中でそう定まってきていた。
そんなことに憂鬱になっているうちに、残り少ないお茶会の時間は終了してしまった。
なんとも慌ただしく、のんびりできるような時間もなく柚鈴はすっかり疲れてしまったのだ。
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