拝啓、お姉さまへ

一華

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第三章 5月‐結

お姉さま、体育祭への準備です 7

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「薫は何の競技に出るの?」
この話題は、薫にとって楽しい話だったのだろう。
幸への目線をあっさりと外した。

「一応出れる競技は南組のメンツは4つまでだから。組対抗リレーと、スウェーデンリレーに400メートル走、200メートル走。あ、一応は応援合戦も出るよ」
4つまでだと言うのに、4つ出るという薫に驚いてしまう。しかも出る競技が全部本当に足の速い人が選びそうなものだ。借り物競走しか出ない柚鈴とは大違いだ。
しかもこれに加えて応援合戦もとは。あちこち走り回っているのに、そんな練習をする時間が良くあるなと感心してしまった。

「り、陸上部の本領発揮だね。私は借り物競走だけだから、なんか感心しちゃう。陸上部でいつも走ってるから、体育祭も部活の練習と変わらないなんてことはないの?」
「そんなことないよ。他の部活でも結構速い人いるしね。よその先輩じゃあ勝負も中々出来ないし」
「そんな人いるの?」
「噂ではソフトボール部とか、バスケ部のエース辺りは結構速いらしいよ?上級生じゃあ、体育祭とはいえリレーでもなきゃ一緒には走れないけど。今回は大いに期待できる。私、リレーは二つともアンカーだからね」
よほど速い人と競うのが楽しみなんだろう。薫はかなり機嫌が良かった。
そこで機嫌が良くなるというのは柚鈴には理解出来ないが、ワクワクしているのは分かってこちらまで楽しい気持ちになってしまう。
「応援してるね」
その言葉は自然と口に出た。
薫はどこか満足そうに笑ってから、揶揄うように目を細める。

「あはは?組は違うんだし、自分のとこ応援しなよ」
「あ、それもそうか…」
「勝負だし、お互い頑張ろうな。それよりさ、柚鈴。借り物競走に出るって、例のお題の方は誰にしておくか決めたの?」
借り物競争の例のお題。『ペアになりたい人』
柚鈴をメンティにしたいと諦めない東郷先輩も参加が予想されるこの競技で、先手を打って自分の意志表示をすることで、強制的にペアにされてしまうことを避けようという考えだ。
すでにメンティを持っている、もしくはメンティを持つ資格のない人と走れば良いんじゃないかという、志奈さんの案だったが、実際相手を考えると誰もピンと来なかったので随分困ってしまった。
正式に体育祭でその競技に参加が決まるまでは、悩みつつも決定は後回しにしていたのだが、いざ決まってしまえばそうもいかない。

柚鈴は改めて思いつく中で一番打倒なのは誰かを考えていた。

「う~ん…。凛子先輩にお願いしようかとは思っているんだけど」
「なるほど。生徒会長なら、まあ間違いはないか」
「でも、それで東郷先輩が納得してくれるかなぁ」

どうも大正解な気というがしない。
確かに生徒会長である凛子先輩は、柚鈴が憧れてもおかしくはない立場と言えるし、ペアも作れない。
しかも東郷先輩の件も知っているので頼みやすい。
あらゆる面で一番だとは思うのだけど。
それで、東郷先輩が納得して、柚鈴を諦めるのかどうか。
結局はそこが一番大切なのだ。

その時。
「無理ね」
悩んでいる柚鈴の悩みにきっぱりと言い切るようなタイミングで急に話に入ってきたのは、遥先輩だった。
今帰ってきたのか、しかし薫とは違い制服姿。
身支度をしっかり整えてから行動するのだろう、いつも通りのふわふわとツインテールが可愛らしくも美しくリボンでまとめられている。
「お、お帰りなさい。遥先輩」
突然話に参加してきた遥先輩に柚鈴は驚きつつ挨拶をする。

…ど、どこから聞いてたの?
別に聞かれてまずい話ではないものの、予想外でなんとなくわたわたしてしまうのは仕方ないと思う。
「ただいま、戻りました。ごきげんよう、みなさま」
挨拶を返して。ふんわりと愛らしく笑って見せてから、遥先輩はなんだか迫力のある真面目な表情を変えて話を仕切り直した。
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