拝啓、お姉さまへ

一華

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第三章 5月‐結

お姉さま、体育祭への準備です 9

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「うわ。いかがわしい言い方ですね。どういう指導ですか」
「なにがいかがわしいのよ!生徒会の手伝いに肉体労働しなさいって言ってるのよ。あなた分かってて言ってるわね?」

思わず声が大きくなった遥先輩が、周りの視線を気にして咳払いする。
その様子にニヤニヤしている薫を睨みつけると、ようやく薫は大人しくしますといった様子で肩を竦めてみせた。
どこか息があった様子の掛け合いで、険悪な雰囲気というわけではないのだから不思議だ。

…何かのコントですか。
そんなツッコミを心の中で入れつつ。
些か話の筋は逸れたような気もするが、おかげでなんとなく気持ちが切り替わった。
柚鈴は少し気持ちが落ち着いた気がしつつ、考えてみた。

そういえば東郷先輩といえば、組違いのペアに対して否定的な様子だった。
凛子先輩の過去の出来事も知っていた上でだ。
それはもしかしたら、凛子先輩と萩原先輩との関係性も関わっているのかもしれない。

そうだとすれば、なおさら借り物競争のお題の相手として凛子先輩を選ぶのは、間違いと言える。というか火に油の可能性もあるかも知れない。
かといって、誰を選べば正解になるのか。

競技中に柚鈴がお願いして連れて走れて、思わず東郷先輩が柚鈴を諦めようと思う誰か。
きっとそれには、思いがけない選択肢であった方がよく、なおかつこの窮地を救う気のある人。
そして出来れば、柚鈴の助言者メンターにはなり得ない人物。

そこまで考えて。
選択肢が頭に浮かんだ。
思わず自分が考えたことながら、恐ろしくなってしまい慌てて首を振った。

…多分、この答えは不正解じゃないと、いけない気がする。
あまり激しく振ったからだろう、気付いた遥先輩は訝し気に見てくる。
「どうなさったの?」
「あ、いえ…その」
柚鈴が言いよどむと、薫に揶揄われて気が立っていた遥先輩は、少々きつめに声色を変える。
「はっきりおっしゃい」
「あ、は、はい!」

柚鈴は思いついた言葉を渋々吐き出した。

「岬紫乃舞さん、とかはどうでしょう?」
「え?」
「岬…紫乃舞さんです」

昨年の茶道部部長。
マイペースで唯我独尊、という言葉が正しい意味でも誤った意味でも当てはまりそうな人物。
卒業生だから、柚鈴の助言者メンターにはなり得ないし、柚鈴のペア作りを全力で邪魔をする気があり、体育祭にも大学をどうにかして見に来ようとしている人物。

ジョーカー的にあり得そうな気がしつつ、そこを選ぶのは、なんというかモラルに反しているような気さえしてしまい、言葉を撤回しようと曖昧に笑った。

「な、ないですよね」
「柚鈴さん、紫乃舞さまのことをご存じなの?」
予想外な名前だったらしく、遥先輩は愛らしい顔に似つかわしくもなく、眉を顰めた。
紫乃舞さま。様付きだ。
その仰々しい呼ばれ方に、恐れを覚える。
これはやはり地雷を踏んだ、というやつだろうか。

「え、ええと。あの。今日のお茶会の前に、しばらく連れ攫われまして」
「はあ?どうしてそんな面白いことになるの??」
「ええ!?な、なんででしょう」

詰め寄るように一歩こちらに踏み出した遥先輩に対し、柚鈴はしらばっくれたくなって、体を引いた。
やばい、予想以上に食いつかれてる。そして面白いってなんですか、遥先輩?
どう誤魔化そうかと思っていると、薫がお茶を飲みながら、のんびりと口を挟んでくる。
「ああ、なんか茶道部のOGが、今日のお茶会に出禁くらったから、腹いせに一年生拉致したって聞いたけど、もしかしてその話ですか?」
「え?薫、知ってるの?」
「前田先輩も参加してたでしょ?お茶会終わった後に、ちょっとお小言と一緒にそんなこと言ってた」
なんのお小言を貰ったのか、薫が気にした様子も見せずに軽く言うと、遥先輩は確認するように柚鈴を見る。
「つまり腹いせに拉致された一年生が柚鈴さんということ?」
「そう、なると思います…」
「そんなことがあったの」
案外あっさりと納得してくれた遥先輩に少し申し訳ない気持ちになった。
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