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第三章 5月‐結
お姉さま、体育祭です! 8 ~凛子~
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「いえ、その。噂で、本日の体育祭に昨年の卒業生がいらっしゃるかもしれないと聞きまして」
「…そう、なんです?」
凛子が間を置いて確認するように答えると、相原さんは一瞬困ったような顔をした。
誰を探していたかの質問には、少々曖昧な返事だったと、本人も分かっているのだろう。
その表情に、凛子は口を開いた。
「うちの体育祭は5月の末日だから去年も平日だったはずだけど、確かに一人二人は前の年の卒業生が来ていたようだから、そんな噂がたったのかしら」
「そうかもしれませんわね」
さりげなく凛子が作った逃げ道を、相原さんは頷いて受け入れたようだった。
「私が見過ごしているのかもしれなせんし、一応テントの中、覗いて確認します?」
「…いえ。ありがとう。大丈夫ですわ」
相原さんは凛子の申し出は断った。
それもそうだろう。探しているとすれば、誰もが見逃せず、はっきり記憶に残していく相手のはずだ。
立ち去っていく後ろ姿を見送りつつ、実際にテントの中に卒業生は見ていないのだが、凛子は多少後ろめたさを感じて、小さくため息をついた。
『岬紫乃舞さんが、体育祭の日に現れるかもしれないわ』
そう忠告してくれた声を頭の中で思い出して、そのことを相原さんに言わなかったのは凛子自身の判断だ。
岬紫乃舞という人が、もし体育祭に現れるとすれば。
それが皮切りで、色んな意味での大騒ぎになりそうな予感がする。
少なくとも相原さんは、そのことを聞いて先ほどのようなどこか期待を持つような表情はしないだろう。
憤って、岬先輩探しを始めるかもしれない。
彼女と岬先輩の因縁は常葉学園の2,3年生の間では、知らない人はいないと言うくらいのものだ。
どこでそんな噂を聞いたのかは知らないが
実際、凛子は昨年卒業生の姿をまだ見ていない。嘘は言っていなかった。
体育祭はまだまだこれからだ。
これから何が起きるかはわからないが、凛子がそのきっかけの一因を作るわけにはいかなかった。
だけど。
もし、あの人も来てくれたなら。
凛子自身も思うことがあり、首を振って苦笑した。
会いに行こうと思うのなら、いつでも出来ると言うのに、自分自身でそれをしないのだ。
分不相応であるとか、迷惑ではないかとか、遠くで見てればいい憧れだとか。
そんな沢山の理由で、自分で自分の感情に対して決まりごとを作って、自分で選んでるそうしているくせに、あちらから来てくれることを望むなんて甘えている。
相原さんのように、小さな期待であっても、その期待を大切にして行動していることの方がずっと偉い。
一度、上級生との関係では失敗しているからと言って、それを理由にしてどこか狡くなっている気がして、凛子は再度、小さくため息をついてから、余計な感情を払った。
「凛子先輩」
ふいに掛けられた言葉にハッとして振り返った。
そこには小鳥遊柚鈴が立っていた。
凛子を見つけて、ほっとしたと言うように歩み寄ってくる。
「どうしたの?」
「あの。岬紫乃舞さんを見かけなかったですか?」
「え?」
柚鈴の言葉が想定外で、凛子は思わず聞き返すと、何か勘違いさせてしまったようだった。
「あ、昨年の卒業生の岬紫乃舞さんです」
「…ええ。その方のことは勿論知っているけれど」
「今日、いらしてるんじゃないかと思って」
歯切れの悪くなってしまっている凛子に気付かず、柚鈴は話を進めていく。
「まだ、見ていないけれど」
思わずそういってから、凛子は自分がまだ、と言ったことに気付いて内心舌を出した。
想像していなかった展開に、どうも動揺しているらしい。
だが、柚鈴に気付いた様子はない。
そうですか、と少し困ったような表情を見せた
その時、タイミング良く競技のスタートを告げるピストルの音がする。
凛子はその音に、自分がこの場所に立っている理由を思い出した。
慌てて、グラウンドに目標の姿を見つけるために、視線を動かした。
「柚鈴さん。明智絵里さんの競技が始まったわよ。こちらで一緒に観戦しましょう」
凛子は柚鈴の手を取り、傍に引き寄せると見えやすい場所に誘導した。
「あ、はい!」
柚鈴は釣られて。
グラウンドに向かって立った。
「…そう、なんです?」
凛子が間を置いて確認するように答えると、相原さんは一瞬困ったような顔をした。
誰を探していたかの質問には、少々曖昧な返事だったと、本人も分かっているのだろう。
その表情に、凛子は口を開いた。
「うちの体育祭は5月の末日だから去年も平日だったはずだけど、確かに一人二人は前の年の卒業生が来ていたようだから、そんな噂がたったのかしら」
「そうかもしれませんわね」
さりげなく凛子が作った逃げ道を、相原さんは頷いて受け入れたようだった。
「私が見過ごしているのかもしれなせんし、一応テントの中、覗いて確認します?」
「…いえ。ありがとう。大丈夫ですわ」
相原さんは凛子の申し出は断った。
それもそうだろう。探しているとすれば、誰もが見逃せず、はっきり記憶に残していく相手のはずだ。
立ち去っていく後ろ姿を見送りつつ、実際にテントの中に卒業生は見ていないのだが、凛子は多少後ろめたさを感じて、小さくため息をついた。
『岬紫乃舞さんが、体育祭の日に現れるかもしれないわ』
そう忠告してくれた声を頭の中で思い出して、そのことを相原さんに言わなかったのは凛子自身の判断だ。
岬紫乃舞という人が、もし体育祭に現れるとすれば。
それが皮切りで、色んな意味での大騒ぎになりそうな予感がする。
少なくとも相原さんは、そのことを聞いて先ほどのようなどこか期待を持つような表情はしないだろう。
憤って、岬先輩探しを始めるかもしれない。
彼女と岬先輩の因縁は常葉学園の2,3年生の間では、知らない人はいないと言うくらいのものだ。
どこでそんな噂を聞いたのかは知らないが
実際、凛子は昨年卒業生の姿をまだ見ていない。嘘は言っていなかった。
体育祭はまだまだこれからだ。
これから何が起きるかはわからないが、凛子がそのきっかけの一因を作るわけにはいかなかった。
だけど。
もし、あの人も来てくれたなら。
凛子自身も思うことがあり、首を振って苦笑した。
会いに行こうと思うのなら、いつでも出来ると言うのに、自分自身でそれをしないのだ。
分不相応であるとか、迷惑ではないかとか、遠くで見てればいい憧れだとか。
そんな沢山の理由で、自分で自分の感情に対して決まりごとを作って、自分で選んでるそうしているくせに、あちらから来てくれることを望むなんて甘えている。
相原さんのように、小さな期待であっても、その期待を大切にして行動していることの方がずっと偉い。
一度、上級生との関係では失敗しているからと言って、それを理由にしてどこか狡くなっている気がして、凛子は再度、小さくため息をついてから、余計な感情を払った。
「凛子先輩」
ふいに掛けられた言葉にハッとして振り返った。
そこには小鳥遊柚鈴が立っていた。
凛子を見つけて、ほっとしたと言うように歩み寄ってくる。
「どうしたの?」
「あの。岬紫乃舞さんを見かけなかったですか?」
「え?」
柚鈴の言葉が想定外で、凛子は思わず聞き返すと、何か勘違いさせてしまったようだった。
「あ、昨年の卒業生の岬紫乃舞さんです」
「…ええ。その方のことは勿論知っているけれど」
「今日、いらしてるんじゃないかと思って」
歯切れの悪くなってしまっている凛子に気付かず、柚鈴は話を進めていく。
「まだ、見ていないけれど」
思わずそういってから、凛子は自分がまだ、と言ったことに気付いて内心舌を出した。
想像していなかった展開に、どうも動揺しているらしい。
だが、柚鈴に気付いた様子はない。
そうですか、と少し困ったような表情を見せた
その時、タイミング良く競技のスタートを告げるピストルの音がする。
凛子はその音に、自分がこの場所に立っている理由を思い出した。
慌てて、グラウンドに目標の姿を見つけるために、視線を動かした。
「柚鈴さん。明智絵里さんの競技が始まったわよ。こちらで一緒に観戦しましょう」
凛子は柚鈴の手を取り、傍に引き寄せると見えやすい場所に誘導した。
「あ、はい!」
柚鈴は釣られて。
グラウンドに向かって立った。
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