拝啓、お姉さまへ

一華

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第三章 5月‐結

お姉さま、体育祭です! 12

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「私、遥先輩には、借り物競争のお題頼まなくてすむようにします」
柚鈴がそういうと小牧先輩はゆっくりと首を振った。
「私のことなら気にしなくていいのよ。気になっちゃうだろうけど。恨んだりしないし」
真面目に淡々とした口調で言ってしまう小牧先輩。
しかし恨んだりしない、なんて言葉に出すあたりが小牧先輩、な気がする。
思ったことは、結構口に出てしまう方なのかもしれない。

柚鈴が苦笑していると、小牧先輩は少し考えるように首を傾げてから口を開いた。

「でも、もし誰かと走るなら、なるべく一番好きな人が良いかも」
「一番、好きな人ですか?」
「嘘は少なく済むならその方が良いから」

ごく当たり前のことを言われて、柚鈴は思わず頷いた。

嘘は、少ない方が良い。
そんな当たり前のことを当たり前に感じなくなっていた気がする。
言い訳なら用意出来ないわけではないけど、そんな気にはなれなかった。
小牧先輩の言葉がまっすぐ胸に刺さってきたからだ。

柚鈴のそんな気持ちが分かったのかもしれない。
「柚鈴さんは素直ね」
小牧先輩は言った。

「そんなことはないです」
咄嗟に否定する言葉を返して、はっとしてしまう。
ほら、この言葉が既に素直じゃない。
でも小牧先輩は微かに笑っただけだった。
何事も無かったように見つめる先のグランドでは、3年生の400メールが始まっていて、周りは歓声を送っている。

釣られて柚鈴も声援と拍手を送るが、隣の小牧先輩は静かなままだ。
400m走には、あまり興味がなさそうに見えた。
目線が向いているのは、客席のテントの恐らくその向こう。
柚鈴からは全く見えないが、次の演目の準備をしている場所。
つまり吹奏楽部の待機場所だ。

探している、のかな?
柚鈴は気になって尋ねた。

「遥先輩見えますか?」
「見えないわ」
小牧先輩は少し悲しそうに呟いた。やっぱり探していたらしい。
なんとなく気になって、柚鈴は応援をそこそこに話しかけてしまう。

「遥先輩は、何の楽器なんですか?」
「今年はトロンボーンをしているはずよ」
トロンボーンというと。
たしか、カタツムリみたいにクルクル回ってる金管楽器だっただろうか。
恐らく近いものを頭に思い浮かべていると、小牧先輩は言葉を繋げた。

「遥さんは楽器はなんでも弾けるんじゃないかな」
「そうなんですか?すごいですね」
「ええ。音楽がとてもお好きなんですって。遥さんの元々のお住まいは学園からそんな遠いわけではないの。でも吹奏楽部の朝練や遅くまでの部活動に参加できるように寮住まいをしてるのよ」
「じゃあ、入学前から吹奏楽部に入ることを決めていたってことですか?」
「ええ。大学は音大に行くつもりと聞いているわ」
紡がれる話の内容が、初耳のことばかりで、柚鈴は思わず体育祭の競技どころではなくなってしまう。
遥先輩が音大志望なんて思いもしなかったののだ。

なんというか柚鈴にとって遥先輩は『3年の寮長』でしかなかった。
幸や薫は知っていただろうか。
なにかあった時は寮にいるイメージがあって。
良く言えばひたすら頼っていたのだけど、こうなってみると、あまりにも関心を持っていなかった気もする。

なんか、申しわけないなぁ…
多少、自己嫌悪を覚えつつ反省していると。

「柚鈴さん、始まるわ」

いつの間に400M走も終了していて、いよいよ吹奏楽部が各々の楽器を持ち入場するための列を作った所だった。
大きな歓声の中、マーチング演奏をするのだろう肩章付のお揃いのコスチューム。中には旗振りの生徒も何人か見える。
遥先輩のことは中々見つけられず、きょろきょろしていると、すぐにその場所に気付いた小牧先輩が指をさして教えてくれる。
その方向に確かに遥先輩を見つけて、その愛らしくも凛々しい姿に思わず声が漏れてしまう。
「遥さん、可愛いでしょう」
どこか自慢げに聞こえる、だが重々しい口調に、柚鈴は素直に頷いた。
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