拝啓、お姉さまへ

一華

文字の大きさ
193 / 282
第三章 5月‐結

お姉さま、体育祭です! 13 ~荻原翔子~

しおりを挟む
吹奏楽部の演奏が鳴り響き始めて、3年東組の生徒であり体育祭の間は赤組である荻原翔子は、その音にようやく今日が体育祭だったと実感していた。
常葉学園では、東組に所属していると体育祭というイベント事の実感がどうも薄い。
それでも翔子にとっては今年で最後の体育祭である。
昨年までは生徒会の手伝いとして、同窓会のテントの出入りをしていたので、それほど体育祭を見てこなかった。

少々太めの眼鏡のフレームと、穏やかな気質のため、どうも本来よりも真面目な印象を与えがちだが、自身ではそのつもりは全くない。
ごく普通の。いや、どちらかと言えばドンくさい気質だと思っていた。

ちらりと同じ待機場所を見ると、同じ待機場所にいるメンティの東郷千沙が見える。
それから昨年までは自分が出入りしていた同窓会のテントの方向を見れば、確認はできないけれど、中にはきっと長谷川凛子がいることだろう。


『なんとかお願い出来ないかしら』
数日前に、長谷川凛子からは東郷千沙のメンティ探しに関してお願いをされている。
なんでも寮生に、随分強引にお誘いをしているらしい。
それを止めることは出来ないかどうかと。

なんとか、と言われても。
出来ないことはない。
東郷千沙は、自分に傾倒している。
止めろと言えば止めるだろうが、急な話に本当にそうする必要があるのかないのかの判断が難しかったのだ。
ただ、それだけなのだが。教室で話しかけられて、思わずフリーズしてしまった荻原翔子の様子に、会話の内容を知らないクラスメートの視線が遠巻きに集まってしまったことにはすぐに気付いた。

…あぁ、これはまずい。

ドンくさい癖に、空気を読むことに長けている翔子は密かに焦った。
話しかけてきた長谷川凛子の方はどう気づいているのか知らないけれど、彼女と自分はほとんどの人間に仲が良いとは思われていないのだ。
正確にはいつからそうなのかは分からないけれど、東組で試験の度に首位争いを繰り広げる凛子との会話は、どうもペースが合わないらしく、周りからはそのかみ合ってない空気感が仲が悪いからだと思われている。
翔子は物事の答えを考えるのに時間を掛ける方なのだが、凛子は速い。
ただそれだけのことで、翔子は凛子が嫌いではない。むしろ好きな方だ。だが周りはそうは思わないらしい。
凛子も好かれているとは思っていないかもしれない。

『難しいかしら?』
沈黙を続けていた翔子に凛子がもう一度聞いてくる。
その言葉に、翔子は一先ず周りを気にするのを止めた。
いつものことと言えばいつものことだ。気にしても始まらないだろう。

『その必要性があるのかが良く分からなくて』
ごめんなさい、と言葉を続けようとして、そうした方がいいのかどうか迷っていると、辺りの空気が固まっていくのを感じた。
言葉選びを間違ったのかもしれないが、仕方ない。
翔子はなるだけ気にしないようにして考えた。

自分のメンティである東郷千沙は、絶対にペアを作るつもりである。
真っ直ぐな気質を持つ彼女は、助言者メンターになった翔子に本当に懐いてくれている。
『私は東組の子とペアになります。お姉さまとペアになって、私、すごく感動することが多くて。全然未熟なんだって分かっているんですけど、一緒に成長できるようなペアが欲しいんです』
そういってくれた東郷千沙は、真っ直ぐな分、思い込みが強くて自分を曲げることが出来ず、良く物事に大きくぶつかる子だった。

時間を掛けることが苦でない翔子は、何故失敗したのかゆっくりと振り返るようにしていて、その度に泣きそうな顔で後悔して翔子に感謝をするのだ。
『面倒かけてすみません』
その言葉を口にするときの彼女の表情には胸が痛くなる。
だから、千沙に関することで簡単に結論を出す気はなかった。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

目の前で始まった断罪イベントが理不尽すぎたので口出ししたら巻き込まれた結果、何故か王子から求婚されました

歌龍吟伶
恋愛
私、ティーリャ。王都学校の二年生。 卒業生を送る会が終わった瞬間に先輩が婚約破棄の断罪イベントを始めた。 理不尽すぎてイライラしたから口を挟んだら、お前も同罪だ!って謎のトバッチリ…マジないわー。 …と思ったら何故か王子様に気に入られちゃってプロポーズされたお話。 全二話で完結します、予約投稿済み

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

熟女教師に何度も迫られて…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
二度と味わえない体験をした実話中心のショート・ショート集です

処理中です...