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第三章 5月‐結
お姉さま、体育祭です! 13 ~荻原翔子~
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吹奏楽部の演奏が鳴り響き始めて、3年東組の生徒であり体育祭の間は赤組である荻原翔子は、その音にようやく今日が体育祭だったと実感していた。
常葉学園では、東組に所属していると体育祭というイベント事の実感がどうも薄い。
それでも翔子にとっては今年で最後の体育祭である。
昨年までは生徒会の手伝いとして、同窓会のテントの出入りをしていたので、それほど体育祭を見てこなかった。
少々太めの眼鏡のフレームと、穏やかな気質のため、どうも本来よりも真面目な印象を与えがちだが、自身ではそのつもりは全くない。
ごく普通の。いや、どちらかと言えばドンくさい気質だと思っていた。
ちらりと同じ待機場所を見ると、同じ待機場所にいるメンティの東郷千沙が見える。
それから昨年までは自分が出入りしていた同窓会のテントの方向を見れば、確認はできないけれど、中にはきっと長谷川凛子がいることだろう。
『なんとかお願い出来ないかしら』
数日前に、長谷川凛子からは東郷千沙のメンティ探しに関してお願いをされている。
なんでも寮生に、随分強引にお誘いをしているらしい。
それを止めることは出来ないかどうかと。
なんとか、と言われても。
出来ないことはない。
東郷千沙は、自分に傾倒している。
止めろと言えば止めるだろうが、急な話に本当にそうする必要があるのかないのかの判断が難しかったのだ。
ただ、それだけなのだが。教室で話しかけられて、思わずフリーズしてしまった荻原翔子の様子に、会話の内容を知らないクラスメートの視線が遠巻きに集まってしまったことにはすぐに気付いた。
…あぁ、これはまずい。
ドンくさい癖に、空気を読むことに長けている翔子は密かに焦った。
話しかけてきた長谷川凛子の方はどう気づいているのか知らないけれど、彼女と自分はほとんどの人間に仲が良いとは思われていないのだ。
正確にはいつからそうなのかは分からないけれど、東組で試験の度に首位争いを繰り広げる凛子との会話は、どうもペースが合わないらしく、周りからはそのかみ合ってない空気感が仲が悪いからだと思われている。
翔子は物事の答えを考えるのに時間を掛ける方なのだが、凛子は速い。
ただそれだけのことで、翔子は凛子が嫌いではない。むしろ好きな方だ。だが周りはそうは思わないらしい。
凛子も好かれているとは思っていないかもしれない。
『難しいかしら?』
沈黙を続けていた翔子に凛子がもう一度聞いてくる。
その言葉に、翔子は一先ず周りを気にするのを止めた。
いつものことと言えばいつものことだ。気にしても始まらないだろう。
『その必要性があるのかが良く分からなくて』
ごめんなさい、と言葉を続けようとして、そうした方がいいのかどうか迷っていると、辺りの空気が固まっていくのを感じた。
言葉選びを間違ったのかもしれないが、仕方ない。
翔子はなるだけ気にしないようにして考えた。
自分のメンティである東郷千沙は、絶対にペアを作るつもりである。
真っ直ぐな気質を持つ彼女は、助言者になった翔子に本当に懐いてくれている。
『私は東組の子とペアになります。お姉さまとペアになって、私、すごく感動することが多くて。全然未熟なんだって分かっているんですけど、一緒に成長できるようなペアが欲しいんです』
そういってくれた東郷千沙は、真っ直ぐな分、思い込みが強くて自分を曲げることが出来ず、良く物事に大きくぶつかる子だった。
時間を掛けることが苦でない翔子は、何故失敗したのかゆっくりと振り返るようにしていて、その度に泣きそうな顔で後悔して翔子に感謝をするのだ。
『面倒かけてすみません』
その言葉を口にするときの彼女の表情には胸が痛くなる。
だから、千沙に関することで簡単に結論を出す気はなかった。
常葉学園では、東組に所属していると体育祭というイベント事の実感がどうも薄い。
それでも翔子にとっては今年で最後の体育祭である。
昨年までは生徒会の手伝いとして、同窓会のテントの出入りをしていたので、それほど体育祭を見てこなかった。
少々太めの眼鏡のフレームと、穏やかな気質のため、どうも本来よりも真面目な印象を与えがちだが、自身ではそのつもりは全くない。
ごく普通の。いや、どちらかと言えばドンくさい気質だと思っていた。
ちらりと同じ待機場所を見ると、同じ待機場所にいるメンティの東郷千沙が見える。
それから昨年までは自分が出入りしていた同窓会のテントの方向を見れば、確認はできないけれど、中にはきっと長谷川凛子がいることだろう。
『なんとかお願い出来ないかしら』
数日前に、長谷川凛子からは東郷千沙のメンティ探しに関してお願いをされている。
なんでも寮生に、随分強引にお誘いをしているらしい。
それを止めることは出来ないかどうかと。
なんとか、と言われても。
出来ないことはない。
東郷千沙は、自分に傾倒している。
止めろと言えば止めるだろうが、急な話に本当にそうする必要があるのかないのかの判断が難しかったのだ。
ただ、それだけなのだが。教室で話しかけられて、思わずフリーズしてしまった荻原翔子の様子に、会話の内容を知らないクラスメートの視線が遠巻きに集まってしまったことにはすぐに気付いた。
…あぁ、これはまずい。
ドンくさい癖に、空気を読むことに長けている翔子は密かに焦った。
話しかけてきた長谷川凛子の方はどう気づいているのか知らないけれど、彼女と自分はほとんどの人間に仲が良いとは思われていないのだ。
正確にはいつからそうなのかは分からないけれど、東組で試験の度に首位争いを繰り広げる凛子との会話は、どうもペースが合わないらしく、周りからはそのかみ合ってない空気感が仲が悪いからだと思われている。
翔子は物事の答えを考えるのに時間を掛ける方なのだが、凛子は速い。
ただそれだけのことで、翔子は凛子が嫌いではない。むしろ好きな方だ。だが周りはそうは思わないらしい。
凛子も好かれているとは思っていないかもしれない。
『難しいかしら?』
沈黙を続けていた翔子に凛子がもう一度聞いてくる。
その言葉に、翔子は一先ず周りを気にするのを止めた。
いつものことと言えばいつものことだ。気にしても始まらないだろう。
『その必要性があるのかが良く分からなくて』
ごめんなさい、と言葉を続けようとして、そうした方がいいのかどうか迷っていると、辺りの空気が固まっていくのを感じた。
言葉選びを間違ったのかもしれないが、仕方ない。
翔子はなるだけ気にしないようにして考えた。
自分のメンティである東郷千沙は、絶対にペアを作るつもりである。
真っ直ぐな気質を持つ彼女は、助言者になった翔子に本当に懐いてくれている。
『私は東組の子とペアになります。お姉さまとペアになって、私、すごく感動することが多くて。全然未熟なんだって分かっているんですけど、一緒に成長できるようなペアが欲しいんです』
そういってくれた東郷千沙は、真っ直ぐな分、思い込みが強くて自分を曲げることが出来ず、良く物事に大きくぶつかる子だった。
時間を掛けることが苦でない翔子は、何故失敗したのかゆっくりと振り返るようにしていて、その度に泣きそうな顔で後悔して翔子に感謝をするのだ。
『面倒かけてすみません』
その言葉を口にするときの彼女の表情には胸が痛くなる。
だから、千沙に関することで簡単に結論を出す気はなかった。
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