拝啓、お姉さまへ

一華

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第三章 5月‐結

お姉さま、午後の部がスタートしました 4 ~春野弥生の一コマ~

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常葉学園体育祭保護者席の一角。
生徒達が懸命になっているグラウンドの片隅にあって一人の女性は、嫌に目立っていた。
午後になって現れたので、その存在に気付いているのは、保護者席の人達くらいであるが。

二十代前半である女性の、そのモデル張りのスレンダーなスタイルに、猫科の生き物を思わせるようなしなやかな動きと容姿も目立つ理由ではある。
パンツスタイルのスーツはオーダーメイドではないものの、品が良いことは見る人が見れば分かるだろうし、合わせて使用しているアクセサリー類の小物のコーディネートもセンスを感じさせる。
普通に街中を歩いていたとしても、間違いなく人目は惹くであろう。

だが彼女が目立っている大きな理由はそこではない。
その美しい容姿とは不釣り合いな程、趣味としては本格的で、更に女性が持つにしては大きすぎる望遠レンズ付きの一眼カメラを持って、シャッターを押し続けているからだ。

高倍率望遠レンズは勿論、遠くにある被写体を見逃すことなく美しくレンズに収めるが、ぶれやすくもある。
しかし女性は使い慣れていると言わんばかりに、三脚を使いながら迷いがなく的確に無駄なく写真を撮っている。
もはやプロのごとき動きと言ってもいい。

本人はまだまだ満足はしていないらしい。
「ああん。やっぱり被写体が遠いと、背景までは綺麗に入らないわよね。どうして体育祭の保護者席って一カ所なのかしら」
などと不満げに言葉を漏らす。
その人物は、言うまでもないかも知れないが、春野幸の従姉である春野弥生である。

弥生とすれば、出来ればグラウンドを動き回りつつ写真を思う存分に撮りたいのだ。
だが、学校側の注意書きとして、保護者の撮影は保護者席のみ、とされている。だから一応規則にのっとり我慢しているのだ。

午前中の仕事が外せず、ようやく午後の空いた時間に訪れたのだが、その限られた時間を十二分に活かそうとする姿勢は、図々しい程である。
そもそも幸は体育祭のあることを弥生には一言も話していなかったはずなのに、どこで情報を仕入れたのか。
来ていることを全く知らない幸が気付いたら、卒倒しそうな状況であった。

「にしても、まさか幸ちゃんがチアとはね。いい写真撮れちゃった」
艶のある赤いグロスの塗られた唇を、まさに猫のように軽く舐めて、弥生はクスリと笑った。

可愛い女の子はこよなく愛する女性であるが、やはり従妹である幸は格別に愛おしく思っているのだ。応援合戦の写真も膨大の数データを残すことになっている。
それこそアルバム一冊は作れる程に、だ。
だが、勿論まだまだ満足はしない。
弥生は体育祭のアナウンスで次の競技が、3年生の創作ダンスと聞けば、目を輝かせた。

可愛い女の子を誰に邪魔されるわけでもなく、写真を撮っていいなんて、ラッキー。

勿論、肖像権というものが世間には存在するので、例え従妹が通っている高校であり、その体育祭と言えども、他人の写真を見境なく撮る行為は推奨されるものではないのだが、そんなのはお構いなしである。

全てのシャッターチャンスを逃すまいと、目を輝かせる。
普通であればその異様な光景に、周りの保護者の不審を買ってもおかしくないのだが、そこは女性であること、容姿の端麗さ、そしてたまに周りに振りまく愛想の良さで、妙に馴染んでしまっていた。
OGの一人だと思われているのかもしれない。

万が一、これが保護者の男親であれば、恐らく容姿云々は構わず、怪しいおかしいと思われるだろうが、そこが悲しき男女差だ。
しかも弥生自身がそれを理解し、見逃されるということを分かってやっているので性質が悪い。
本命の狙いは勿論、幸であるが、「美少女図鑑」制作を本気で狙っている、幸の言う所の「中身おじさん」は、誰に邪魔されるわけでもなく、写真を撮り続けるのであった。
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