拝啓、お姉さまへ

一華

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第三章 5月‐結

お姉さま、借り物競争はご一緒に 12

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柚鈴は移動中に借り物競争のスタートの合図を聞いた。
心臓が飛び跳ねそうになり、体の動きが止まったが、よく考えたらお題を掴むまではまだ時間がある。

ど、どこまでいくかよく考えないと。
とどうにか冷静さの端っこを掴み直して考えた。

完全に隠れることの出来る場所は競技中なので行けない。
当然ながら白組の待機場所はないだろう。先程までいた同窓会テント前もスタート以前に確認されているだろうからなし。
走り続けて逃げる、というのも体力的に難し……


「待ちなさいっ!高村薫!!」
「待つわけないでしょうが!」

考え込む柚鈴の耳に、急に聞きなれた声が聞こえた

グラウンド中を走り回っている二つの存在。
柚鈴は目を瞬かせた。
薫と、陸上部2年である前田光希先輩が追いかけっこをしているのだ。

おそらく、借り物競争、でなのだろう。
2組目に前田先輩がいた記憶はない。つまり多分1組目の中にいたようだ。
そこにあまり意識のなかった柚鈴は見逃してしまっていたが、こんな風に盛大な追いかけっこをしていれば、注目せざる得ない。
というか、結構な注目を浴びて、声援が送られている。

「高村頑張れー!」
「光希、根性見せろ!!」
「回りこめ回りこめ!」

などなど。
当人同士だけでない盛り上がりで異様な雰囲気だ。

あ、あの2人、最後まで追いかけっこしてる気?

柚鈴には、どこか疲れを見せている前田先輩が執念で薫を追いかけているように見える。
薫の方も疲労は多少見える。
距離を開けて走っているが、前田先輩の気力を振り絞る走りっぷりに、気疲れもあるのかもしれない。

……あ、あんな風に私もなるのか。

柚鈴には薫程の体力はないが、東郷先輩には前田先輩ばりの気力はありそうだ。
これは真剣に、追いかけっこまでいく時間稼ぎがしたい所だ。
正々堂々逃げるつもりがあっても、正々堂々追いかけっこするつもりなど欠片もない。

そうするとどうしよう。
東郷先輩の裏をかくには。

柚鈴はふと、スタート地点に立った東郷先輩のハチマキの色を思い出した。
確か赤。つまり赤組ということだ。

…赤組の待機場所の近く、というのはありかもしれない。

赤組である東郷先輩が、まさか逃げる柚鈴が赤組待機場所の近くにいるとは思わないのではないだろうか。
まずは白組や同窓会テント近くを探すのが妥当である。

そしてその場所の誰もが柚鈴の場所を知らない(逃げ場を決めてなかったので)
それなら多少は時間が稼げそうだ。

そう思って、ちらりと借り物競争の様子を見ると、既に3組目は障害を終えて走り出している人がいる。

ええ!?もう?

前々から自分でも気づいてはいたが、どうもゆっくり考え込む癖が柚鈴自身にはあるらしい。
しかも直前まで悠長に。
これは間違いなくマイナス点。

声援を送る人達の後ろに隠れつつ、柚鈴は移動を開始した。
恐ろしくて、東郷先輩がどの辺りにいるかまでは見る気になれない。

と、とりあえず。
赤組の待機場所についてから考えよう。
まさかもうお題を手にしているなんてことありませんように。

祈りつつ、目立たないように早歩き程度のスピードで柚鈴は進んでいった。
移動中に4組目のスタートの合図が聞こえる。
どうやら3組目の誰かがゴールしたらしい。

これはなんとかなるかも。
そう思いながら、赤組の待機場所にたどり着いて、ほっとしていると。
待機場所にいる生徒のうち2年生の先輩が、柚鈴に気付いてマジマジと見つめてくる。

どうしたのかと、その視線にぎょっとしていると。
「白組の人がどうしたの?」
と聞かれる。
え、どうして、と思ってから、ハッとした。
そうだ。私は白組のハチマキをしているのだ。
これで赤組の待機場所にいたのでは目立って仕方がない。

慌ててハチマキを外すが、声を掛けてきた周りの先輩のも2、3人こちらを向いた。
「あれ?あなた、千沙の…」

運の悪いことにそのうちの一人は、東郷先輩のお知り合いだったらしい。
やばい、と思った時には既に時遅し。
「千沙ー!!!こっちにいるわよー!!」

大きな声が響き渡り、慌てて柚鈴はくるりと方向を変えて、そこから走り出した。
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