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第三章 5月‐結
お姉さま、借り物競争はご一緒に 15
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意味が分からずにいると、荻原先輩はようやく柚鈴から手を離して東郷先輩の方を向いた。
「千沙、ごめんなさい。私、あなたが一緒にゴールしたい相手が彼女とは知らず引き止めてしまったの。これではルール違反になってしまうわ」
「…確かに」
東郷先輩は、はっとしたように目を見開いてから、絞り出すように声を出して頷いた。
借り物競技中、選手とその題目の相手となる人物の行動を、他の生徒が邪魔することはルール上禁止されている。
萩原先輩は、柚鈴がその相手であることは知らなかった。
とはいえ、東郷先輩の助言者である萩原先輩が引き止めたとあっては、そんな言い訳は通用するとは思えない。
ルール違反となり失格となっても仕方ない行為だった。
東郷先輩は肩を落として、落ち込んだように呟く。
「お姉さまにきちんと伝えていなかった私のせいです」
「あなたのせいではないわ。本当にごめんなさい」
東郷先輩の言葉を、荻原先輩は否定して謝った。
「それでね、千沙。あなたには申し訳ないのだけど、私から提案があるの」
「な、なんでしょうか?」
萩原先輩は、東郷先輩の手を取った。
両手で包み込むように、優しく。
「私とゴールしましょう」
「え?」
「このままこの子を連れてゴールしても失格になってしまうわ。それに彼女の方はメンティになることを嫌がっているでしょう?」
「今はそうかもしれません。でも努力で変わるものもあります」
弾かれたように言葉を返した東郷先輩に、萩原先輩は助言者らしく頷いて見せた。
「そうね、あなたの言う通りよ。でもね、今強引に押し通してしまえば、その努力をする機会もなくなるでしょうね」
「…」
どこまでも穏やかな言葉を、東郷先輩は受け入れるように口を閉ざす。
荻原先輩はゆっくりと諭すように言葉を続けた。
「この借り物競争でのペア成立の確立が高いのは、申し込む側の行動が努力として評価されるからだわ。ルール違反と見られては逆効果。誰も応援はしてくれないわ」
「…確かに」
「私のせいでごめんなさい」
「いいえ」
東郷先輩は謝罪の言葉にはすぐに首を振った。
荻原先輩のせいだと言うような気持ちはないらしい。
柚鈴にとっては意外な東郷先輩の姿勢だが、この二人の関係性はそれだけ深いのだろう。
「それにね。私、あなたと走ってみたかったの」
「え?」
続いた荻原先輩の言葉に、東郷先輩は驚いたような顔をした。
「あなたと借り物競争でゴールしてみたかったのよ」
「本当ですか?」
「本当よ。ずっと、あなたと普通にペアらしいペアをしたかった、だから、生徒会長選挙にも出なかったのよ。うっかり当選しては困るもの。だからもし、今日あなたが一緒に走ってくれるなら嬉しいわ」
「…」
どこまでも穏やかな荻原先輩に東郷先輩はしばらく戸惑ったようだった。
だが、やがて重なったその手を、握りしめて返して頷いた。
「私も去年、お姉さまと走りたかったです。生徒会長になると思っていたから、去年の今頃は我慢していました」
「本当?そう思ってくれていたなら嬉しいわ」
「本当です」
東郷先輩は少し間を置いてから、最後の気がかりとばかりに、ちらりと柚鈴を見た。
「メンティの件。体育祭の後でも努力することは認めてくださるんですね」
「ええ。努力はしなさい。でも少し強引な所もあるようだから気をつけなさいね」
荻原先輩の言葉に、東郷先輩は苦笑して頷いた。
「行きましょう、お姉さま」
迷いを振り切るように。
もう柚鈴のことは見なかった。
東郷先輩は荻原先輩と、ゴールに向かって走り出した。
…二人だけの世界すぎて、柚鈴があっけに取られてしまったのは言うまでもなかった。
「千沙、ごめんなさい。私、あなたが一緒にゴールしたい相手が彼女とは知らず引き止めてしまったの。これではルール違反になってしまうわ」
「…確かに」
東郷先輩は、はっとしたように目を見開いてから、絞り出すように声を出して頷いた。
借り物競技中、選手とその題目の相手となる人物の行動を、他の生徒が邪魔することはルール上禁止されている。
萩原先輩は、柚鈴がその相手であることは知らなかった。
とはいえ、東郷先輩の助言者である萩原先輩が引き止めたとあっては、そんな言い訳は通用するとは思えない。
ルール違反となり失格となっても仕方ない行為だった。
東郷先輩は肩を落として、落ち込んだように呟く。
「お姉さまにきちんと伝えていなかった私のせいです」
「あなたのせいではないわ。本当にごめんなさい」
東郷先輩の言葉を、荻原先輩は否定して謝った。
「それでね、千沙。あなたには申し訳ないのだけど、私から提案があるの」
「な、なんでしょうか?」
萩原先輩は、東郷先輩の手を取った。
両手で包み込むように、優しく。
「私とゴールしましょう」
「え?」
「このままこの子を連れてゴールしても失格になってしまうわ。それに彼女の方はメンティになることを嫌がっているでしょう?」
「今はそうかもしれません。でも努力で変わるものもあります」
弾かれたように言葉を返した東郷先輩に、萩原先輩は助言者らしく頷いて見せた。
「そうね、あなたの言う通りよ。でもね、今強引に押し通してしまえば、その努力をする機会もなくなるでしょうね」
「…」
どこまでも穏やかな言葉を、東郷先輩は受け入れるように口を閉ざす。
荻原先輩はゆっくりと諭すように言葉を続けた。
「この借り物競争でのペア成立の確立が高いのは、申し込む側の行動が努力として評価されるからだわ。ルール違反と見られては逆効果。誰も応援はしてくれないわ」
「…確かに」
「私のせいでごめんなさい」
「いいえ」
東郷先輩は謝罪の言葉にはすぐに首を振った。
荻原先輩のせいだと言うような気持ちはないらしい。
柚鈴にとっては意外な東郷先輩の姿勢だが、この二人の関係性はそれだけ深いのだろう。
「それにね。私、あなたと走ってみたかったの」
「え?」
続いた荻原先輩の言葉に、東郷先輩は驚いたような顔をした。
「あなたと借り物競争でゴールしてみたかったのよ」
「本当ですか?」
「本当よ。ずっと、あなたと普通にペアらしいペアをしたかった、だから、生徒会長選挙にも出なかったのよ。うっかり当選しては困るもの。だからもし、今日あなたが一緒に走ってくれるなら嬉しいわ」
「…」
どこまでも穏やかな荻原先輩に東郷先輩はしばらく戸惑ったようだった。
だが、やがて重なったその手を、握りしめて返して頷いた。
「私も去年、お姉さまと走りたかったです。生徒会長になると思っていたから、去年の今頃は我慢していました」
「本当?そう思ってくれていたなら嬉しいわ」
「本当です」
東郷先輩は少し間を置いてから、最後の気がかりとばかりに、ちらりと柚鈴を見た。
「メンティの件。体育祭の後でも努力することは認めてくださるんですね」
「ええ。努力はしなさい。でも少し強引な所もあるようだから気をつけなさいね」
荻原先輩の言葉に、東郷先輩は苦笑して頷いた。
「行きましょう、お姉さま」
迷いを振り切るように。
もう柚鈴のことは見なかった。
東郷先輩は荻原先輩と、ゴールに向かって走り出した。
…二人だけの世界すぎて、柚鈴があっけに取られてしまったのは言うまでもなかった。
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